闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇-100

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 その夜はマルセルが馬車に大量に乗せて運んできた野菜や果物、それらを加工したものをふんだんに使ったメニューだった。アレックス自慢の腕利きの料理長も見たことのない南部地域の野菜についてマルセルに熱心に聞いたり、今後もツキヨ様も喜ぶのでと定期的に野菜を購入したいというが「むしろ、娘がお世話になっているからと無料で送る」とマルセルが約束をした。
 テーブルには料理長が再現した故郷の料理が並びツキヨは久し振りにその味を堪能しながら父のマルセルとアレックス、レオそしてフロリナと尽きることのない様々な話で盛り上がった。
食後に男性陣はマルセルが持参したエストシテ王国の南部地域独特の食後酒を飲み、ツキヨとフロリナは紅茶を楽しみながら夜の遅い時間まで笑顔が絶えることはなかった。


***

 やや酔ったマルセルをレオが客間に案内をしてツキヨも自室へ入ろうとするが目の前に行く手を阻む筋肉の壁が立ちはだかった。
 ツキヨの進行方向はアレックスが壁に手を置いて、通せんぼをしている。
「そこの可愛い子ー!俺と一緒に寝ないかい?」
 小粋な笑顔で誘いをかける。

「駄目です」

 ざっくりと一刀両断されたアレックスだったがそこで諦めることはない。

「じゃあ、俺と一緒に風呂に入るのとチューするのとペロペロするのと抱っこするのとズンドコペロンチョするの…どれがいい?」
「…まずはお父様の許可を取ってくださいね」
 最終兵器「少し赤い顔をして『同じ屋根の下に父親がいるんだから!』攻撃」が炸裂した。
 
 敗北を知らない男が敗北を知った瞬間だった…。
 ツキヨのお父さんには逆らってはいけない、お父さんは大切に、お父さんはツキヨが大好き…俺も同じくらい好きなのに「お父さん」という破壊力満点の最強、ラスボス級の最重要人物には何一つ敵わないアレックスは白旗を揚げた。

「うぅ…仕方ない。それじゃあ、おやすみな…」
 男は潔く敗北を認め、ツキヨの右頬に口付けをした。なんだか悔しいから左頬にもエリザベスのようにぶっちゅーと口付けた。
「おやすみなさい…アレックス様」
 少し背伸びをしたツキヨはアレックスの形のいい鼻の上にチョンと口付けてから廊下をそそと歩いて自室へ向かった。


 アレックスは滅多にないことに驚き、朝までそのまま固まっていた。


***

「アレックス様…首をこっちに動かすと痛いなんて珍しいですね。もしかして寝違えたのですか?」
「ん、いや…ははは」
 ツキヨが自室に向かった方を見たままだったので右に動かすと痛いため、少しずつ魔気で筋肉をほぐしていた。

 夕食に続いて、朝食もマルセルが持ってきた果物の甘煮や野菜が並ぶ。
「お父様、私この甘煮は食べたのは初めてですが、ベガ様の奥様が気に入ってから商会に卸しているものですか?」
 南国の蕩けそうなほど熟した実が砂糖を加えて煮込むだけでより甘みと酸味が入り混じり、甘い香りが食欲を誘う。
「そうなんだ。これは新しいもので今日、カルスさんに商品として見てもらおうと思っているんだ。でも、ツキヨやアレックスさんたちがおいしいって言うから問題ないかな」
 ははは、とマルセルは照れ臭そうに笑って朝食を食べ終えた。

 テーブルで紅茶を飲んでから、マルセルは貯蔵庫に預けていた様々な野菜をアレックス自慢の馬車にみんなで手分けをして詰め込んでから、いつものにこやかな御者の案内でベガ侯爵家に行ってしまった。
 「大荷物だから悪いね」とマルセルは馬たちに持ってきたニンジンを与えたら、物凄い勢いで食べてマルセルにもっと欲しいと甘えて、ブヒヒヒン♪と懐いていた。

「あぁ…俺はまた書類と戦わないと…もっと効率化する方法とかねぇのかね…」とブツブツ言いながらも玄関から戻りつつツキヨの肩を抱く。
「私も紙と戦いますよ!」
「何!!?俺の仕事を手伝ってくれるのか!!??さすが俺のツキヨは一味違うな!!」
 キラッキラと菫色の瞳は目の前に女神様がいるような期待感が溢れ出ている。

「あ、違います。この間の…その…義姉たちが公爵家へ嫁ぐということですのでお祝いの手紙を書こうかと…」



 、アレックスはガクッと項垂れた。

「そうだね…うん。ツキヨちゃんもいい手紙が書けるといいね!な、フロリナ!?」
「はい。参考にお祝いの文例集も屋敷の図書室からお持ちいたしますね!」
 レオとフロリナも一応笑顔だった。


***
 ゲオルグの店で購入した三人が好みそうなキラキラと華々しい薔薇があしらわれ、高級感のある便箋にフロリナが持ってきた文例集を参考にしながら当たり障りのない程度の内容で祝いの言葉を書き連ねる。
 ツキヨ自身の言葉をまとめようとしたがうまくまとめることができずに文例集にほとんど頼ってしまったが、最後にメリーアンの封筒には押花で作られたきれいなしおり、ミリアンの封筒には四つ葉のクローバーが押し花になった幸運のカードを入れた。
 そして、少し厚めに作られているマリアンナ宛の封筒には王国内でお祝い事によく贈られる絹の手巾を入れてから3通を蝋封をした。
  
 アレックスとフロリナからもらったアドバイスだ。
 なにかあれば相談をして道を切り開くヒントを得て、自らの足で進もうとツキヨは決心をしてから手紙と借りていた蝋封一式を持ってアレックスの執務室へゆっくりと向かった。

 
 執務室の扉を叩いてアレックスの歓迎の返事を聞いて入ると、机で書類に囲まれたアレックスがいた。
 魔気死魔無君もゴソゴソと片づけを手伝っているが書類はどこぞの未踏峰の山のようになって遭難寸前の二人?だった。

 蝋封一式を返してから三通の手紙をアレックスに見せた。
「継母たち宛の手紙…ですが、マリスス公爵家に送るのにはどうしたらいいかと…父に送るときは両国に手紙を送る公的な手段がないということでアレックス様のご友人経由で送りましたが…」
 書類の谷間からアレックスはきれいな封筒を受け取るとツキヨの書いた美しい文字でマリアンナたちの名前が書かれている。
「お…おぅ…。そ、そうだよな。届ける…うん、届けないとなぁ!ははは…俺もツキヨから恋文が欲しいけどな!」
 後ろの方にいる魔鬼死魔無君も照れ臭そうに少しだけ手を挙げる。
 
「う…今度…こ、今度です!今度!」
「そうか!今度か!!!!よっしっ!!!!!恋文のためなら、これは大事に届けるからな!これは国宝に指定して大事に…あー…でも…うーむ。あ!こ、この間、王国と手紙のやり取りが両国間でできるように署名をしたからな!あれで、それで、そんな感じに公爵家に届けられるかもしれないから、かもしれないぞ!」

 目的が変わってきたような気がするツキヨだったが届けるのには、アレックスにお願いをすることにした。

「ま、まぁ…まだ正式な両国間の手紙のやり取りの方法はこれから決まるから…と、とりあえずまた知り合いに頼んでおくぜ…おう」
 手紙は引出しに大切そうにしまった。
「お知り合いの方にもお礼を伝えてくださいね…こ、恋文はまたいずれですが、お礼にここの書類の片づけを手伝います」
「おう!助かるぜ!魔鬼死魔無君に渡してある分を種類ごとにまとめてくれればいいからな!簡単でいいからな!俺が分らなくなるからな!」
「ふふふ…わかりましたわ、皇帝陛下」

 魔鬼死魔無君も優秀な助っ人に大歓迎をする。
 ツキヨは書類を手に取り、身振り手振りで説明をする魔鬼死魔無君と書類を一緒に分類をしていった。

 ある程度、分類をして三人?で一息つく頃にフロリナが昼食の準備が整ったと知らせにきたのでダイニングへ移動をして美味しい野菜を使った昼食を堪能した。
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