闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇-72

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 アリシア王妃とユージス王太子と一部の近衛兵は一度、落ち着くために自身の控室に戻った。
 
 トルガー国王は呆けた状態で座り込んだままだった。
 控室の廊下を見張っていたフロリナも入室をするとトルガーを一瞥して抱えていた黒鉄色の『銀の流星』をガシンと構えた。

「この、愚か者の処分をしてもよろしいでしょうか?」

 先端に魔気が込められたのかぽう…と光る。

「わ!!!やめ!やめ!おまわりさん!こっちです!」
 アレックスがフロリナを止める。
「ツキヨ様…以外にも狼藉を働く下半身種馬変態露出猥褻物連続痴漢強姦生ゴミ脳内水虫国王陛下に何の存在理由がありましょう!?」
 赤い細い線がトルガーの額に照準を合わせる。

「わー!ダメ!危ない!それしまって!!」
 レオも声を張り上げるがフロリナが発射するところに指をかけようとした。
「あぁ!フロリナ!だめです。もう、この人はアレックス様の取り計らいで譲位をして王太子殿下が新王に即位をするので…」

 ツキヨの声を聞いて、フロリナは銀の流星を肩から下げた。

「畏まりました。では、せめて下半身を仕留め…」
 エリ特製のお仕着せは戦いやすく、武器をしまうのにもちょうどいいところがたくさんあるのかスカートの腰のあたりから細いナイフがすっと出てきた。
「あぁ…こっちのほうが薄切りもできて、尚且つすぱっといけるかと…」
 スカートをめくると顔色一つ変えず白い太股を剥き出しして、そこに巻いてあるベルトから少し太めのナイフを取り出した。


「薄切りと厚切り…どちらがよろしいですか?」


【どっちを選んでも大して変わんない!!エリが歩く全身最終兵器フロリナに改造したのか?!!】

 男2人の大切な何かがヒュン!とした。


「ひぇ…フ、フロリナ…それはしまっても大丈夫…です。大丈夫…ほーーら…おいでー…ほーら、しまおうねー…ちゃんとしまおうねー…よーし、よーし…フロリーナー…」
「個人的には不本意ですがいつでも、ご命令を…」
 優しくツキヨに宥められたフロリナは各種武器一式を収めた。


「このあと終会の挨拶で譲位を宣言すればいい…あとは罪滅ぼしで謝罪行脚でもして隠居でもしてな」
 ポン!とアレックスがトルガーの肩を叩いたのがせめてもの優しさか。


「そろそろ、アレックスもツキヨちゃんも…あとコレも広間に戻った方がいいな…」
 レオはちらりとトルガーを見るが顔色に生気も気力もなく、腰が抜けたのか立てるようには見えなかった。

「国王陛下は…大丈夫ですか?」
「触れると病気になりますので…」
 思わずツキヨが手を差し伸べようとするのをフロリナがそっとツキヨの手を握り制止する…のをアレックスがチッと舌打ちをして忌々しく見るがフロリナはフフン…とドヤ顔だった。


「ツキヨちゃんはご心配なく。から」
 右手をすぃと上げると細い蜘蛛の糸のようなものがレオの各指先からふわりと出てくると、5本の糸はトルガーの耳元へ向かう…
「ひぃ!!!そ、それは!や、やめてくれ!」
 耳元に近付く糸をぼんやりとしているトルガーが見ると突然、叫んだ。

「国王陛下として最後のご挨拶は立派なものにいたしますので、ご安心してお任せください」
「ひ…ひぃ!…あが…が…ぁ…」
 5本の糸はするすると耳へ侵入をすると、体内のどこかの何かを絡め取っているのか糸はずるずると長く伸びれば伸びるほど、トルガーの呻き声が小さくなっていった。


「アレクサンダー皇帝陛下、ツキヨ様…早速、舞踏会の最後の挨拶にご一緒に向かいましょう!」
 髪を整え、上着を着せるとニッコリと爽やかな笑顔でトルガーがしゃっきりと立ち上がり、控室の扉を開けて廊下へ誘う。王冠はアレックスが無理矢理ねじ曲げて一応元に戻して(?)から頭部へ固定した。


「おい…レオ…なんかこの国王…いやだ…」
「ちょっと、やり過ぎたか…」
 右手を振り上げて各指の糸を引いたり、巻いたりして調をして、なんとか『気さくな国王陛下』に仕上げた。


「フロリナ…レオさんのそれってなんかすごいですね…糸ですか?…えぇ…っとなんというかわからないのですが…」
「はい。彼は別名『糸使い』と呼ばれています。リゲル家代々伝わる独特なもので、糸は何を持ってしても切ることはできません…が過去に一度お館様と喧嘩をしてあの剣を持って馬鹿力でぶった切ったと笑って話していました。
頭部に侵入して人を操ることもできれば、武器として人を切り裂くことができます…ちなみに今回、変態王を自供させ被害者の名前も調べたのも糸で彼がため迅速に判明しました」
 水色の瞳が氷のように冷たい視線となりトルガーを見つめるが、糸に操られたトルガーは滑稽なほど気さくな笑顔を振りまいていた。


***

 宴もたけなわの中、先にアリシア王妃とユージス王太子夫妻たち王族が戻るとわぁっと歓声があがる。

 しかし、この歓声に応えて手を振るユージスは心から喜ぶことはできなかった…父のこととはいえ、今ここで恐らく被害者が心で涙を流しながら拍手をしているだろうと思うと、これから永遠に歓声に応えることができないかもしれない。
 エレナ王太子妃もトルガーのことを説明したときは倒れそうになったがアリシアと同じように耐えて、この場に一緒に戻った。顔色は化粧で誤魔化して固い感じではあるが笑顔を振りまいていた。

 アリシアは何も変わらなかった。



 側室のナールディアはトルガーがこの場にいないことに気がついた。
 また、飲み過ぎて悪酔いをして洗面所で粗相をしているのかと思いながら父のチュールプ侯爵にも聞くが何も知らないと言う。
 飲み過ぎるのはいつものこと…放っておけばここにふらふらと戻り、意味不明な挨拶をして終わるだろう…むしろ、ナールディアは帝国から贈られる黒薔薇の苗が手元に届くのがいつになるのか…そちらの方が気になっていた。
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