闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇-70

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 ツキヨは控室からアレックスの待つ広間へ戻った。

 『家族』であるアレックスに一度、フロリナにしたようにでも相談をしてそこから自分でできる解決方法を見出そうと考えた。
 継母とはいえ一応の身内でもあり、帝国の皇帝に嫁ぐ身としては解決方法は未定でもアレックスに恥をかかせるようなことは避けたかった。
 
 廊下で待機をしていた衛兵たちがツキヨが戻ると広間にいるアレックスの元へ付き添い戻った。
 広間の庭のそばの席にマリアンナやウィリアムが陣取って寛いでいる姿が見えた。マリアンナたちも広間に戻ったツキヨをジロジロと見ている。


「おう、きれいになったな。いつもきれいで可愛いけどな!」
 ニカニカと笑顔は嬉しいが声が大きくて身を小さくする。
「えぇ…ありがとうございます…」
 アレックスの銀髪は乱れることもなく礼装の黒い生地の装飾の一部にも見える。
 すっとレオがツキヨに果実水を渡してきたので、受け取って一口飲んだ。すっきりとした柑橘系の味がツキヨが奮い立たせる。

「あの…その…相談といいますか…」
「んー。どうした?こういう華やかな席だからな、ついに何か欲しいドレスとか宝石とかがみつかったか?」
「そのようなものではないのですが…」とツキヨはフロリナに相談をしたように少し遠回しに説明をした。

「付き合いのないやつの祝い?んなもんやらねぇな。付き合いができないっていう事情があるなら仕方ねぇけど、一般的に付き合いがない限りはそんなことやらねぇ。親戚は元々付き合いがないから分からねぇけど。
ツキヨは女だし付き合いで心配ならゲオルグのところでお祝い用の便箋封筒を買って『ご挨拶』でも送っておけよ。これから立場的に『自称親戚、自称友達』が増えるぜー。いちいち付き合ってたらとんでもないことになるぜ。心配なら『こーてーへーかがケチだからお祝いなんて無い』とか書いておけよ。俺のせいにすればいいじゃねぇか…」

 アレックスはマリアンナたちのいる位置からツキヨの姿を隠すように背を向けているがレオはワインを持ってきたりしながら彼女たちを見張っていた。

「気にすんなっていうのは無理だから俺の名前でお祝いの手紙で充分だ。それで絶対間違いはないから安心しろ。祝金が必要なやつは俺が対処するから問題はないぜ」
 果実水のグラスとチンと鳴らし合わせた。

「例えば相手が…しつこくお祝いをしてほしいとか望んで…」「…本当の大切な友達や親戚ならそんなこと普通は言わねぇんじゃねぇか?」少し体を屈めてツキヨの額に口づける。

「俺はケチじゃねぇ。例えばフロリナが嫁ぐって決まったら幾らでも祝うぜ。それはツキヨの友達だからだ。もし、祝いがツキヨの手紙だけだったとしてもフロリナはツキヨを大事な友達と考えているから泣いて喜ぶぜ」

 レオがツキヨに果物を少し持ってくる。
 マリアンナは顔を隠し切れていないが扇子で顔を隠すように、こちらをじっと見つめている。

【こんなじゃなければ俺はズタズタに切り裂いてるな…】

 珍しくレオはイライラとしていた。


「…そう…ですね。手紙で終わらせます。えぇ」
「お、そうか。それでいいんだよ。なんかあればまた相談しろよ」
 周囲に見せつけるようにまた背をかがめて額に口づけた。
 ツキヨは逃げてはいけないと決心をした。


***

 月も高い位置に登り詰め、舞踏会はそろそろ終わりに近づいている。
 あとはトルガー国王とアレックスが挨拶をして終わることになる。
 
 少し落ち着いたツキヨは挨拶のために化粧を直そうと衛兵と控室前まで一緒に戻り、フロリナに化粧を直してもらい『相談』の答えを導き出せたことを話した。
 フロリナは顔色は変えることはないがニコニコと笑顔で「それはよかった!」と喜んでいた。
 先程も直したため皮脂を取ったり、口紅や頬紅をさし直して笑顔で控室を出ると廊下にいるはずの衛兵がおらず、代わりに酩酊をした様子のトルガー国王がふらふらと歩いていた。

「トルガー国王陛下?いかがなさいましたか?」
 壁に寄りかかって立っているが顔は赤く、酒臭い。
「これは、これは…こうごうへーか…お美しいお顔でございますなぁ…」
 よろよろとツキヨに近づいてきた。
「お酒が…水をお持ちしましょうか?!少しお待ちになって…」

 ドン!

 国王はツキヨの顔の左右の壁に両手をついて酒臭い顔を近づけた。

「まさに…ぃ…月の妖精か月の女神か…あんな、こうてい…へーかよりも私の…ぉ…ぅぃっっく…側室にならないか?贅沢ができるぞぉ…ぅぃ…」
「ひっ!」
 突然のことで息をのみ込むような悲鳴しか出せずにツキヨは縮こまった。

「この、髪も黒いなら…下の…毛も黒いのかぁ?どおなってるんだろうかぁ…」
 左手ですぅっとドレープ部分を摘み持ち上げる。
 裾が膝の辺りにまで持ち上がる…「あ…ぅ…う…」恐怖で声が出ない。
「おぉ…下着が丸見えで…おぉ…なんと、太股も…ぅぃ…白いなぁ…ぁ…」
 ニヤニヤ…「最初、会った…ときから…ねらって…ぇいたんで…こーてーがおっぱいやおまんこをぉ独り占め…やっぱりチンポがいいのか?魔物のチンポォ!…はは!」酒臭い息に交る卑猥な言葉に黒い瞳から涙が零れ落ちそうになる

「た、たすけ…て…」「ここは…だぁれもわからないよぉ…ぃ」


 バーーーーンッ!!!!!!



 
「ツキヨ様!!!!!!動かないでください!!神代の古武器…今、命を吹き返せ…銀の流星!」
 奥の控室からフロリナが光に包まれた黒鉄色の塊を抱えて飛び出て来た。

 パタタタタタタタタタタ!!!!

 何かの発射音が連続で鳴り響くとトルガー国王をそのままかたどった小さな穴が壁に空いた。
 そして、アレックスとレオがざぁっと影移動で廊下に現れた。

「この!クソエロガキがぁ!!!!!闇より生れし闇、来いィ!!!!!」
 ずおぉと左手に黒い鞘に収められた異国風の剣が握られるが以前にはなかったパチリ…パリ…と小さな雷をまとっている。

 怒りのまま鞘から抜くと雷をまとう黒い刀身をキィン!と国王に向かって振る…とフロリナのあけた小さな穴に沿って壁がトルガー国王型のままキレイに切り抜かれて壁は誰もいない控室へドーン!と倒れた…のを見たツキヨはダッとアレックスの元へ駆けて逃げた。
 震える体をアレックスがそっと抱き締めるが怒りの熱がツキヨの体に伝わる。


「神代の古武器…今、命を吹き返せ…銀の星…」

 フロリナの手には先程の抱えるほどのものよりもかなり小さい片手用の黒鉄色のものが握られていた。

 刀身が見えない速度で国王の証である王冠を真っ二つに切ると床にキン!と落ち…慌ててそれを取ろうとしたトルガーの手のそばをフロリナが狙うとパン!と軽い音が弾いて小さな穴が床にあいた。


「陛下!国王陛下!いかがされましたか?!」
「皇帝陛下もご無事でいらっしゃいますか?!」
 バタバタと近衛兵や騎士団がやっと姿を見せた。


 トルガーは腰が抜けて座り込んでいるがその床には水溜まりができていた。
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