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闇-30
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「ふん、たかが帝国の田舎者風情が。皇帝ならまだしも…ふん。こんな魔物の娘なんて興味もない」
ジョルジュがツキヨを壊れた馬車から半裸の状態で突き出した。
詰め込まれたハンカチをアレックスはツキヨから慌てて引っこ抜くとベストしか着ていないことを後悔しながら脱いでツキヨを覆うと王国方面から「お館様ーー!!」と御者が大声でアレックスを呼ぶ。
馬車が停まるとジョルジュの言葉に何も答えずにアレックスは怯えてボロボロと泣くツキヨを強く抱きしめながら乗り込むと座席下の収納から膝かけを取り出してベストの上にさらに被せた。
「おう。公爵様よぅ。これは修理にでも使えよ」
アレックスはジョルジュの財布を屋根のなくなった白い馬車へ投げ込んでから御者へ屋敷へ急いで戻るように命じた。
「ツキヨ、怪我はないか?大丈夫か?すまねぇ…俺が…悪い…こんなことに…すまない。悪かった…」
大判の膝かけでぐるぐる巻きにされたツキヨを再度抱きしめてから確かめるように唇を塞ぎ、離れるとツキヨは最後に一粒大きな涙を流した後に「怖かった…です…でも…きっとアレックス様が来てくれると…信じて…ました…」と少し震える声を誤魔化すように額をアレックスの胸へとん、と押しつけた。
アレックスは「すまない…」と何度も繰り返しながらツキヨの背中を撫で続け、レオに屋敷の準備を整えるよう言霊を飛ばした。
【後悔ってこういうことか…】
抱きしめながら後悔と言う言葉を反芻した。
---------------------
ツキヨを抱えたまま馬車を降りるとアレックスは出迎えたレオとフロリナに言霊で予め伝えていたことが整っているか確認をして足早に2階の自分の私室へ向かった。フロリナもツキヨの着替えを持ち追った。
御者は事のあらましをレオに伝えてから、タルトが入っているひしゃげた箱とスコーンの袋を渡した。
レオも御者も誰もがツキヨのことに心を痛めていた。
ツキヨを抱えたまま私室へ飛び込んだアレックスをフロリナは追いかけると「後は俺がやる」とツキヨの着替えを受け取りフロリナを下がらせた。
長椅子に横抱きにしたまま座ると既にテーブルに飲み物が幾つかありツキヨが好きなリンゴ汁をグラスからそっと飲ます…「だ、大丈夫か?どこか痛むか?」と顔を覗く。
「少し体が…手首が痛みますが大丈夫…です」と少し笑みを見せるがアレックスは抱き締めなおして膝かけに顔を埋めながら「すまない…」と何度も繰り返す。
「怖かったです…でも、アレックス様が…いてくれて…よかったです」
「俺は初めて『後悔』って言葉を理解した。こんな後悔するのは、もう嫌だ。ツキヨ…俺はお前を…何でも…何がなんでも守る…もう嫌だ…」
ツキヨは自分を包んでいる膝かけが微かに濡れていることに気がついた。
「アレックス様…」
「んぁ!ど、どうした!痛いのか!??」
がばっと顔をあげたアレックスの菫色の瞳は涙目で赤かった。
「泣かないでください…大丈夫です…いつも信じてますから…」
目の前の菫色の瞳の瞼に唇で優しく触れた。
「お、俺は泣いてないぞ!ツキヨの勘違いだ!」
ツキヨの行動に動揺しているのか今度は顔を赤くした。
「ほ、ほら。俺の部屋だけど…浴槽に湯を溜めておいたから…その…ゆっくりしてこい!」
フロリナから受け取った着替えを持ってそのまま浴室へ問答無用に連れて行く…今度はツキヨが動揺して「ひ、1人で入れます!大丈夫です!」とアワアワと答える。
脱衣所に着替えなどを置いてからアレックスはそっとツキヨを下した。
アレックスの私室の脱衣所と浴室はツキヨの使う客間のものより一回りもふた回りも大きくて広い造りになっている。微かにハーブの香りが漂う。
ちらっと見えた浴槽も部屋の主に合わせて大きくて子供用のプールくらいはありそうだった。
「なんか…溺れないか心配になってきた」
ボソリと心配性な言葉が聞こえた。
「溺れません」
「いや…もしかしかたら…溺れて…」
「溺れませんよ!」
「結構深いし…危険だ…」
「普通より大きいくらいなので大丈夫です」
「いや、油断大敵ともいう…滑って溺れる…とか」
「…滑りません」
「心配だ…一緒にはいら…」「入りません!溺れません!」
ツキヨは心配しすぎているアレックスを優しく追い出した。
膝かけやベスト、破れたドレス…思い出すと恐怖が一瞬蘇る半面、ツキヨを助けだした銀髪で菫色の瞳の…狼のような男を思い出す…不思議と恐怖が薄まる…忘れるようにバサッと全て脱いだ。
浴槽を覗く…湯が白くて底が見えない。最近の流行りだとフロリナが言っていた白い薬湯だった。
ツキヨはシャワーをざっと浴びて白い湯へ体を沈める…少し腕や脚がチリッとする…あの時、掠って傷になったのかもしれない。フロリナに頼んで傷薬を用意してもらおうと思った。
大きな浴槽でゆっくり温まると知らぬ間に強張っていた筋肉も解れてきて腕を伸ばしたりしてから湯から上がり、シャワーで髪を濡らし、洗浄粉を手に取って泡だててから髪を洗う…汗をたくさんかいた一日だったせいか清涼感が気持ちいい…短い髪なのですぐに洗い終わりシャワーで泡を流す。
今度は洗い布にハーブの香りのする石鹸を擦りつけて泡立てて足から洗い始めた…が見えない掠り傷を布で触れてしまい思わず「いっ…」と小声を出した…
「今!声!なんだぁ!!!!何があったんだー!!溺れたかー!緊急!緊急!ツキヨォォォォ!!!!」
ドカーン!と飛び込んできた。泡だらけのツキヨの両肩を持ち「大丈夫か!意識はあるか!?」とがっくんがっくんとツキヨを揺する…「あ、あの、ア、アレックス様…お、落ち…着いて…あの…無事で…す」といろいろ隠しながらがっくんがっくんと無罪?を主張する。
「あの…」
アレックスはツキヨの現状を視認して「キャアァアアァァァァァ!」と乙女が野太い声で叫びながら出て行った。
【私って…】
いろいろ考えた方がいいかもしれないとツキヨはシャワーで泡を流し終え、再度浴槽へドボンと浸かると小さく溜息をついた。
ジョルジュがツキヨを壊れた馬車から半裸の状態で突き出した。
詰め込まれたハンカチをアレックスはツキヨから慌てて引っこ抜くとベストしか着ていないことを後悔しながら脱いでツキヨを覆うと王国方面から「お館様ーー!!」と御者が大声でアレックスを呼ぶ。
馬車が停まるとジョルジュの言葉に何も答えずにアレックスは怯えてボロボロと泣くツキヨを強く抱きしめながら乗り込むと座席下の収納から膝かけを取り出してベストの上にさらに被せた。
「おう。公爵様よぅ。これは修理にでも使えよ」
アレックスはジョルジュの財布を屋根のなくなった白い馬車へ投げ込んでから御者へ屋敷へ急いで戻るように命じた。
「ツキヨ、怪我はないか?大丈夫か?すまねぇ…俺が…悪い…こんなことに…すまない。悪かった…」
大判の膝かけでぐるぐる巻きにされたツキヨを再度抱きしめてから確かめるように唇を塞ぎ、離れるとツキヨは最後に一粒大きな涙を流した後に「怖かった…です…でも…きっとアレックス様が来てくれると…信じて…ました…」と少し震える声を誤魔化すように額をアレックスの胸へとん、と押しつけた。
アレックスは「すまない…」と何度も繰り返しながらツキヨの背中を撫で続け、レオに屋敷の準備を整えるよう言霊を飛ばした。
【後悔ってこういうことか…】
抱きしめながら後悔と言う言葉を反芻した。
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ツキヨを抱えたまま馬車を降りるとアレックスは出迎えたレオとフロリナに言霊で予め伝えていたことが整っているか確認をして足早に2階の自分の私室へ向かった。フロリナもツキヨの着替えを持ち追った。
御者は事のあらましをレオに伝えてから、タルトが入っているひしゃげた箱とスコーンの袋を渡した。
レオも御者も誰もがツキヨのことに心を痛めていた。
ツキヨを抱えたまま私室へ飛び込んだアレックスをフロリナは追いかけると「後は俺がやる」とツキヨの着替えを受け取りフロリナを下がらせた。
長椅子に横抱きにしたまま座ると既にテーブルに飲み物が幾つかありツキヨが好きなリンゴ汁をグラスからそっと飲ます…「だ、大丈夫か?どこか痛むか?」と顔を覗く。
「少し体が…手首が痛みますが大丈夫…です」と少し笑みを見せるがアレックスは抱き締めなおして膝かけに顔を埋めながら「すまない…」と何度も繰り返す。
「怖かったです…でも、アレックス様が…いてくれて…よかったです」
「俺は初めて『後悔』って言葉を理解した。こんな後悔するのは、もう嫌だ。ツキヨ…俺はお前を…何でも…何がなんでも守る…もう嫌だ…」
ツキヨは自分を包んでいる膝かけが微かに濡れていることに気がついた。
「アレックス様…」
「んぁ!ど、どうした!痛いのか!??」
がばっと顔をあげたアレックスの菫色の瞳は涙目で赤かった。
「泣かないでください…大丈夫です…いつも信じてますから…」
目の前の菫色の瞳の瞼に唇で優しく触れた。
「お、俺は泣いてないぞ!ツキヨの勘違いだ!」
ツキヨの行動に動揺しているのか今度は顔を赤くした。
「ほ、ほら。俺の部屋だけど…浴槽に湯を溜めておいたから…その…ゆっくりしてこい!」
フロリナから受け取った着替えを持ってそのまま浴室へ問答無用に連れて行く…今度はツキヨが動揺して「ひ、1人で入れます!大丈夫です!」とアワアワと答える。
脱衣所に着替えなどを置いてからアレックスはそっとツキヨを下した。
アレックスの私室の脱衣所と浴室はツキヨの使う客間のものより一回りもふた回りも大きくて広い造りになっている。微かにハーブの香りが漂う。
ちらっと見えた浴槽も部屋の主に合わせて大きくて子供用のプールくらいはありそうだった。
「なんか…溺れないか心配になってきた」
ボソリと心配性な言葉が聞こえた。
「溺れません」
「いや…もしかしかたら…溺れて…」
「溺れませんよ!」
「結構深いし…危険だ…」
「普通より大きいくらいなので大丈夫です」
「いや、油断大敵ともいう…滑って溺れる…とか」
「…滑りません」
「心配だ…一緒にはいら…」「入りません!溺れません!」
ツキヨは心配しすぎているアレックスを優しく追い出した。
膝かけやベスト、破れたドレス…思い出すと恐怖が一瞬蘇る半面、ツキヨを助けだした銀髪で菫色の瞳の…狼のような男を思い出す…不思議と恐怖が薄まる…忘れるようにバサッと全て脱いだ。
浴槽を覗く…湯が白くて底が見えない。最近の流行りだとフロリナが言っていた白い薬湯だった。
ツキヨはシャワーをざっと浴びて白い湯へ体を沈める…少し腕や脚がチリッとする…あの時、掠って傷になったのかもしれない。フロリナに頼んで傷薬を用意してもらおうと思った。
大きな浴槽でゆっくり温まると知らぬ間に強張っていた筋肉も解れてきて腕を伸ばしたりしてから湯から上がり、シャワーで髪を濡らし、洗浄粉を手に取って泡だててから髪を洗う…汗をたくさんかいた一日だったせいか清涼感が気持ちいい…短い髪なのですぐに洗い終わりシャワーで泡を流す。
今度は洗い布にハーブの香りのする石鹸を擦りつけて泡立てて足から洗い始めた…が見えない掠り傷を布で触れてしまい思わず「いっ…」と小声を出した…
「今!声!なんだぁ!!!!何があったんだー!!溺れたかー!緊急!緊急!ツキヨォォォォ!!!!」
ドカーン!と飛び込んできた。泡だらけのツキヨの両肩を持ち「大丈夫か!意識はあるか!?」とがっくんがっくんとツキヨを揺する…「あ、あの、ア、アレックス様…お、落ち…着いて…あの…無事で…す」といろいろ隠しながらがっくんがっくんと無罪?を主張する。
「あの…」
アレックスはツキヨの現状を視認して「キャアァアアァァァァァ!」と乙女が野太い声で叫びながら出て行った。
【私って…】
いろいろ考えた方がいいかもしれないとツキヨはシャワーで泡を流し終え、再度浴槽へドボンと浸かると小さく溜息をついた。
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登場人物紹介
戸田貴理子 40才
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青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
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