闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇-29

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 スコーンもタルトも何もかもおいしいお菓子に満足をし、ついでにスコーンも「レオたちにお土産だ」と言い訳をしつつアレックスが20個も購入したら、追加のお礼にタルトも1箱分を渡された。
恐らく、レオたちはスコーンをほとんど食べられないだろうからツキヨはタルトを3人だけで楽しもうと決意をした。

 日も傾き始め、ツキヨと手を繋ぎながら片手に荷物…スコーンを大事そうに抱えたアレックスも「そろそろ帰るか」と肩をコキコキと鳴らす。
 エリザベスとも会ったり、せいかツキヨも静かに頷いた。ゆるゆると馬車の停車場へ向かう。
のんびりとした時間が流れ、馬車へ到着すると御者もいつもの優しい笑顔で迎えてくれる。
 馬車へ乗り込むとアレックスは右腕をそっとツキヨの腰へ回す。
「…あ!…あの…そ…の…。えっと…」
「俺はツキヨに触れたい…」
 艶やかな低い声でアレックスはツキヨの耳元で囁く。そのまま、ツキヨも無言で肯とした。
「俺は…ツキヨが好きだ。でも、無理はしない。生きてきた時間も環境も何もかも違う。俺はツキヨが大切だから…無理はしねえ…」
 左手でアレックスはいつものようにポンポンと頭を撫でた。
「…は、はい」
 ツキヨはおずおずとアレックスの右肩に少し寄り添った。アレックスの体温がいつもより高いのは気のせいだろうか。

 馬車はカラカラと軽快に出発をした。


 快調に馬車は進む中、アレックスとツキヨも布のことや他愛のない話をしていたところ、突然馬車がガリガガガガッ!ガタン!という音と馬の嘶き声、御者が馬を制する声で停まった。ツキヨはアレックスに庇われたが前の座席に手を強くついたため思わず小さく呻いた。
 いつも優しい声色の御者が珍しく声を張り上げる。
「ここはこちら側が先に来たら優先される通り。細い道を無理やり通るとは一体どちらの方でしょう。規則を守らない上に馬車を傷つけたということで警備隊に申し訴えますよ!!」
 アレックスは驚いたツキヨの手首を撫でながら落ち着くように話すと「あの馬車はエストシテ王国の公爵家のだな…」とジロリと相手の馬車を見やると扉を開けてアレックスは馬車を降りた。
 ツキヨはそっと開いている扉から覗くと白馬4頭引きで白に金の装飾が施されて眩しい豪華な馬車が停まっていた。まるでお伽話の中の馬車のようだ。
 すると白い馬車から藍色に豪奢な飾りのついた王国貴族服を着た50才くらいの白髪交じりの男が降りてきた。アレックスよりは小柄だが奇妙な威圧感がある。
「失礼だが、どちらの方でいらっしゃるかな」
 男がアレックスを慇懃な口調で問いかける。
「こちらは帝国の者だ。規則を守らない方が名を先に名乗るべきだと思うのだが」
「ふん、帝国の魔族だかなんだかは知らぬが修理代が必要なら受け取れ。つまらない馬車の修理代が足りなければ王国の屋敷でこのジョルジュ・ドゥ・マリスス公爵家当主へその図体のでかい体で跪けば追加しよう。むしろ、当方の馬車の修理代を払うのができないのでは…ないのかね、ん?」
 マリスス公爵は侍従から財布を取るとそのままアレックスの足元へ放った。ドシリと音がした。
 そっとアレックスは財布を拾う。
「これはお返ししましょう。後ほど、警備隊に報告をする。それに従い解決をすればいいだけだ。金も必要もないが規則を守らない上、女性が怪我をしたことは今すぐ謝罪を求める」
 声には怒気が込められている。ツキヨは馬車から先ほどより顔を外へ覗かせるとジョルジュと一瞬目が合った…が、その瞬間に「おい」と侍従に言う…さっと白い馬車の反対側から降りてツキヨを引きずり降ろして肩に抱えあげた。
「キャア!!!!アレックス様!!!」
「おい!こるぁ!!」
 ジョルジュに気を取られていたアレックスは開けっ放しにしていた扉を失念をしていた。
「ふん、修理代はこれでいい。行け」
 財布を受け取らず馬車へジョルジュは乗り、また反対から素早くツキヨと侍従が乗り込むと白い豪華な馬車は傷のついたまま物凄い勢いで帝国方向へ走りだした。
「おい!こるぁ!!!!!!」
「お館様!お乗りください!」御者が馬車の方向転換をする「いや、いらねえ!待ちやがれえぇぇぇ!!くっそ、この俺が!!くそ!!お前は後から追いかけて来い!!」と怒声を上げるとアレックスの体を黒い炎がぞぞぞぅと包み込むと「闇より生れし、闇。来い!」と炎に話しかけると闇はぞろりと動いて大きくなるとそのまま一鞘の剣になる。
 そして、黒い炎を纏い飛ぶような速度で白い馬車を追いかけた。

「離して!こんな、どうして!!!」
「ふん、人型の魔物は見目がよく者が多いがこれは少し毛色の違う見目がいい…体型もなかなかだな…お前は何の魔物なんだ?このわしの手元に置いて可愛がってやろう。魔物と人の子も面白いかもしれないな…」
 暴れるツキヨの手首をぐっと掴む。意外と力がありツキヨは顔を顰めた。
「ずいぶん力が弱いな…魔気が弱い魔物か?ふむ、これもまた一興だな。ふはは…」
 両手を侍従に持たせるとハンカチをツキヨの口へ無理やり詰め込むと、ジョルジュはツキヨのドレスを胸元から引き裂いた。辛うじてツキヨの豊かな双丘を下着が守るがそれはあまりにも心許無い…ツキヨはボロボロと涙を零し「うーうーうーうー!!!!!」と唸る。
 ジョルジュはニヤリと下着に手をかけた。

「ドオオリャアアアァァァァァァァ!!!」
 ガッキィィィィィィィンンンンン!!

 突然、野太い声と同時に白い馬車の屋根が真横にきれいな切り口でぶった切られた。屋根は崖の下へ落ちて行った。
 アレックスは御者の首元に刃を当てて停車をさせると柄でガツンと殴って気を失わせた。
「よう、公爵さんよぅ。お久し振りだねぇさっき振りだねぇ…うちの可愛い奥様を返せや、このゴミ野郎がぁぁぁ!」
 黒い光がゴウッと一閃するが侍従が剣を抜くとギィン!と受け止める。
「まずはお前かぁ?可愛がってあげるよ、今夜の晩飯はねぇと思えよぉっ!!」
 屋根のなくなった馬車で侍従は立ち上がりアレックスへ向きあう。堪らずジョルジュはツキヨを押さえこんだまま「外でやれ!!」と叫ぶ。
 
 馬車の横に降りてから侍従は剣を振り上げてアレックスへ突っ込むが黒い刀身が剣を受け止めるとグッと剣で力任せにいなしてから右足で侍従を蹴り倒すとアレックスはニタリとしながら「よぅ、仕える主人は選んだほうがいいぜぇ」と黒い炎に包まれた刃で音も無く侍従の体を十字に切り裂き血飛沫が飛び散る。
 侍従は怯えた顔のまま血を吐くとそのまま息絶えた。

「なぁあ…公爵さんよ~ぅ。あんた、王国の偉い人…なんだろぅ?帝国側とは不可侵の関係だがこんだけのことが明るみに出るのはどうなんだろうねぇ…帝国側はもさすがに怒るぜぇぇぇぇ」
 
 ニヤァと笑うアレックスだった。
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