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闇-28
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アレックスは気が付いていた。伊達に長くは生きていはいない。
これは何かの運命かと。
『月の色の布』…恐らく本人は知らない可能性が高いがツキヨの名前はお袋さんの一族…遠い東の国の言葉で『月の夜』を意味すると。
そして、母親は『織る、絵』でオリエだ。布に絵を描くように織る…そんな意味だろう。
…この離れ離れになった3人の家族が力を合わせて1枚の布になる。奇跡は信じないアレックスだったが煉瓦が嵌まるように…腑に落ちた。
【その奇跡に俺は組み込まれていたのか?いや、俺は…ツキヨの運命でありたい。運命になりたい…俺は…奇跡じゃねえ。俺はツキヨの運命だ…】
「月の色…ですか。素敵…」
何も知らないツキヨは微笑んでいた。
「月…うん…月色とでも呼ぼうかしら…。あたしも糸のままだと何も考えられないわ。布になったら必ず一番最初に見せて。女仕立屋として一番のものを作るのを約束するわ。これは月色だけだったとしてもとんでもない布になるわ」
糸をアレックスに返すとにっこりエリザベスは笑う。
「よ゛っしゃあ゛あ゛あ゛!!これは任せてね!」
野太い声をだったが美しい笑顔だった。
「ぜひ、お願いします、エリさん」
そのあとは、ドレス以外にも宝飾品や装飾品を聞く。
この辺りも布ができてからでも問題はないが一通りエリザベスから流行りの形や石の種類を教えてもらった。
「エリさん、忙しい中いろいろと教えてくれてありがとうございます。布は一番最初にエリさんの元に絶対持ってきます」とツキヨは一礼とともに約束をした。
「嬉しいわ。そうね、一番最初に作るのはツキヨちゃんに贈るわ…ぜひ待っていてね」
またウィンクをバッチンとされたが、今はただツキヨは嬉しかった、アレックスは挨拶をすると再び『ぶちゅぅぅぅぅぅ』とされてツキヨと店を後にした。
「ふふふ…素敵な人ですね」
すぐ傍の木陰にあるベンチに座って小さな鞄からハンカチを出して紅だらけになったアレックスの顔を拭いた。
「こんなのがなきゃいいんだけどよぅ…うえぇー」
「はい、きれいに落ちましたよ」
ハンカチをしまうと2人の間を心地よい風が通り抜けた。
「風が気持ちいいですね…」
乱れた黒髪を耳にかけながらツキヨは横を向いてアレックスに声をかけた。
「あぁ…そうだな…」
ピィーッ!と青い鳥が鳴きながら枝に止まる。
「珍しい青い…なんの鳥か…」と指を差そうとしたツキヨの手を掴むと驚いたのか黒曜石の瞳を大きく見開いた。
手を下されて大きな手が優しく包み込むと…周りの雑音も聞こえく人も見えなくなった…アレックスは菫色の瞳でツキヨを射止めた。
「なぁ…ツキヨ…俺は…俺は…こんなおっさんだけど、誰よりも何よりもツキヨのことが…とても大事だ…そして、この世界で一番…いや、ツキヨ以上なんてない。俺はお前を愛してる。この世で一番愛してるんだ。そばにいて欲しい、いや俺が一緒にいたい。愛してる…俺は…俺にもいろいろあるけど…もう、だめだ。我慢ができない。俺はツキヨを愛しているんだ」
ざぁっとまた風が吹き抜けた…雑踏の中、アレックスの声だけは確実に聞こえたツキヨは不思議と涙が零れ落ちた。
「はい。私もアレックス様が…大好きです…いつも、心配して泣いて笑っているアレックス様を一番…一番愛してます…んっ!」
アレックスの唇がそれ以上の言葉はもったいないから聞きたくないと言わんばかりにツキヨの口を塞いだ。
「愛してる」
その一言を言うのにどれだけの体力を使ったのだろう。体中の力がなくなるくらい喉はカラカラでヒリヒリする。呼吸すら辛い。
立ち上がれない、動けもしない…いっそのこと時が止まればいい。
どのくらいの時間が経ったのか恋人たちは見つめあい、また優しく口づけをする。
そして小さな赤い唇が声を出す。
「通りでは恥ずかしいので…これ以上は…その…」
「おう…でも、安心しろ」
指をパチンと鳴らすと喧騒が…人が…感じる。
「さすがにツキヨのそんなところをこんなやつらに見せる訳なんざねぇよ」
頭をいつもと同じにポンと撫でて…頬に口づけた。
【この世に神だかなんだかいてもいなくても俺はどうでもいい。俺は奇跡なんて信じねぇ。ツキヨが呼吸をして生きて、俺のことを運命でツキヨが呼び寄せた…俺という運命が必要というならそれだけでいい。
俺が握り掴んだのは運命の糸…月の糸だ】
「よぉし!ツキヨ!壊したカフェに行くぜ!俺はスコーンを食うぜ!」
「あ、スコーンは没収です!絶対没収です!もうー!」
さっと立ち上がったアレックスをテッテッテッとツキヨは笑顔で追いかけた。
カフェはあの後、いろいろ修理がされたようで外観の塗装が変わっていた。
アレックスが中に入ると先日のウェイター、ウェイトレス一同や厨房から料理人たちが出てきてお礼を述べられた。
「おう…店が無事ならいいじゃねぇか。俺はただここのスコーンを食い損ねたから、また来たんだ。取り合えずアフターヌーンティーの三段のセットを頼むぜ」
奥の席に案内をされてツキヨとやっと落ち着いて座った。
中の壁の模様や椅子も違うものに交換がされていたが、前と同じく静かな時間が流れ、甘い香りが漂う。
「前回と同じですが、タルトは譲りませんので」
「俺だってスコーンは絶対食うからな。ツキヨが怒っても食うぞ」
「…怒りません!」
「口がとんがってるぞ」
紅茶を一口飲んでからツキヨは絶対にスコーンを渡さないことに決めた。
「お待たせいたしました、アフターヌーンティーの三段のセットでございます…がお礼にいろいろサービスさせていただきましたので、ゆっくりお召し上がりください」
ウェイターは素敵な笑顔で去って行った。
セットを見ると1種類につき2個ずつになっていて、スコーンは通常はプレーンのみだがチョコレートとプレーンの2種類が2個ずつ乗っていた。いろいろぎゅうぎゅう詰めのお礼に感謝した…が!
「こんだけあんだから俺はスコーンを食うぜ!」
ウキウキとお皿に1個ずつアレックスはスコーンを乗せた。
スコーンに敗北をしたツキヨだった。
これは何かの運命かと。
『月の色の布』…恐らく本人は知らない可能性が高いがツキヨの名前はお袋さんの一族…遠い東の国の言葉で『月の夜』を意味すると。
そして、母親は『織る、絵』でオリエだ。布に絵を描くように織る…そんな意味だろう。
…この離れ離れになった3人の家族が力を合わせて1枚の布になる。奇跡は信じないアレックスだったが煉瓦が嵌まるように…腑に落ちた。
【その奇跡に俺は組み込まれていたのか?いや、俺は…ツキヨの運命でありたい。運命になりたい…俺は…奇跡じゃねえ。俺はツキヨの運命だ…】
「月の色…ですか。素敵…」
何も知らないツキヨは微笑んでいた。
「月…うん…月色とでも呼ぼうかしら…。あたしも糸のままだと何も考えられないわ。布になったら必ず一番最初に見せて。女仕立屋として一番のものを作るのを約束するわ。これは月色だけだったとしてもとんでもない布になるわ」
糸をアレックスに返すとにっこりエリザベスは笑う。
「よ゛っしゃあ゛あ゛あ゛!!これは任せてね!」
野太い声をだったが美しい笑顔だった。
「ぜひ、お願いします、エリさん」
そのあとは、ドレス以外にも宝飾品や装飾品を聞く。
この辺りも布ができてからでも問題はないが一通りエリザベスから流行りの形や石の種類を教えてもらった。
「エリさん、忙しい中いろいろと教えてくれてありがとうございます。布は一番最初にエリさんの元に絶対持ってきます」とツキヨは一礼とともに約束をした。
「嬉しいわ。そうね、一番最初に作るのはツキヨちゃんに贈るわ…ぜひ待っていてね」
またウィンクをバッチンとされたが、今はただツキヨは嬉しかった、アレックスは挨拶をすると再び『ぶちゅぅぅぅぅぅ』とされてツキヨと店を後にした。
「ふふふ…素敵な人ですね」
すぐ傍の木陰にあるベンチに座って小さな鞄からハンカチを出して紅だらけになったアレックスの顔を拭いた。
「こんなのがなきゃいいんだけどよぅ…うえぇー」
「はい、きれいに落ちましたよ」
ハンカチをしまうと2人の間を心地よい風が通り抜けた。
「風が気持ちいいですね…」
乱れた黒髪を耳にかけながらツキヨは横を向いてアレックスに声をかけた。
「あぁ…そうだな…」
ピィーッ!と青い鳥が鳴きながら枝に止まる。
「珍しい青い…なんの鳥か…」と指を差そうとしたツキヨの手を掴むと驚いたのか黒曜石の瞳を大きく見開いた。
手を下されて大きな手が優しく包み込むと…周りの雑音も聞こえく人も見えなくなった…アレックスは菫色の瞳でツキヨを射止めた。
「なぁ…ツキヨ…俺は…俺は…こんなおっさんだけど、誰よりも何よりもツキヨのことが…とても大事だ…そして、この世界で一番…いや、ツキヨ以上なんてない。俺はお前を愛してる。この世で一番愛してるんだ。そばにいて欲しい、いや俺が一緒にいたい。愛してる…俺は…俺にもいろいろあるけど…もう、だめだ。我慢ができない。俺はツキヨを愛しているんだ」
ざぁっとまた風が吹き抜けた…雑踏の中、アレックスの声だけは確実に聞こえたツキヨは不思議と涙が零れ落ちた。
「はい。私もアレックス様が…大好きです…いつも、心配して泣いて笑っているアレックス様を一番…一番愛してます…んっ!」
アレックスの唇がそれ以上の言葉はもったいないから聞きたくないと言わんばかりにツキヨの口を塞いだ。
「愛してる」
その一言を言うのにどれだけの体力を使ったのだろう。体中の力がなくなるくらい喉はカラカラでヒリヒリする。呼吸すら辛い。
立ち上がれない、動けもしない…いっそのこと時が止まればいい。
どのくらいの時間が経ったのか恋人たちは見つめあい、また優しく口づけをする。
そして小さな赤い唇が声を出す。
「通りでは恥ずかしいので…これ以上は…その…」
「おう…でも、安心しろ」
指をパチンと鳴らすと喧騒が…人が…感じる。
「さすがにツキヨのそんなところをこんなやつらに見せる訳なんざねぇよ」
頭をいつもと同じにポンと撫でて…頬に口づけた。
【この世に神だかなんだかいてもいなくても俺はどうでもいい。俺は奇跡なんて信じねぇ。ツキヨが呼吸をして生きて、俺のことを運命でツキヨが呼び寄せた…俺という運命が必要というならそれだけでいい。
俺が握り掴んだのは運命の糸…月の糸だ】
「よぉし!ツキヨ!壊したカフェに行くぜ!俺はスコーンを食うぜ!」
「あ、スコーンは没収です!絶対没収です!もうー!」
さっと立ち上がったアレックスをテッテッテッとツキヨは笑顔で追いかけた。
カフェはあの後、いろいろ修理がされたようで外観の塗装が変わっていた。
アレックスが中に入ると先日のウェイター、ウェイトレス一同や厨房から料理人たちが出てきてお礼を述べられた。
「おう…店が無事ならいいじゃねぇか。俺はただここのスコーンを食い損ねたから、また来たんだ。取り合えずアフターヌーンティーの三段のセットを頼むぜ」
奥の席に案内をされてツキヨとやっと落ち着いて座った。
中の壁の模様や椅子も違うものに交換がされていたが、前と同じく静かな時間が流れ、甘い香りが漂う。
「前回と同じですが、タルトは譲りませんので」
「俺だってスコーンは絶対食うからな。ツキヨが怒っても食うぞ」
「…怒りません!」
「口がとんがってるぞ」
紅茶を一口飲んでからツキヨは絶対にスコーンを渡さないことに決めた。
「お待たせいたしました、アフターヌーンティーの三段のセットでございます…がお礼にいろいろサービスさせていただきましたので、ゆっくりお召し上がりください」
ウェイターは素敵な笑顔で去って行った。
セットを見ると1種類につき2個ずつになっていて、スコーンは通常はプレーンのみだがチョコレートとプレーンの2種類が2個ずつ乗っていた。いろいろぎゅうぎゅう詰めのお礼に感謝した…が!
「こんだけあんだから俺はスコーンを食うぜ!」
ウキウキとお皿に1個ずつアレックスはスコーンを乗せた。
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