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闇-21
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夕食を終えて、アレックスとツキヨは食後の紅茶を飲みながら話をしていた。
ツキヨの細い手首には2人で外出した時に魔気がないと危険な為、アレックスが魔気を込めて作ったバングルが今も嵌まっている。
「それは飽きねぇのか?たまには他のとかあるだろう…もっと何か違うのがいるか?」
「これは…お、お守りです!私には魔気がないですから!お、お守りなんです!!!アレックス様が考えてくれたこれで充分です!」
実際問題としてツキヨはアレックスが天気がいい、暇だというだけで贈られた宝飾品や服が増えている。
しかし、このバングルをツキヨは大切に嵌めていた。他にも派手ではない首飾りなどもつけるがこれは必要以外手首から外すことはない。
「そうか…ならいい。うん…いい。迷子にならないようにお守りがあれば安心だ」
少し照れくさそうにアレックスは一口紅茶を飲んだ。
単純に魔気が込めてある以外、バングルにはアレックスの重い想いと一緒に守護や探知の為の魔気が込められ、他に家内安全、交通安全、受験必勝、無病息災…または腰痛や胃痛などにも効果がある。
ダイニングの扉がコンコン…と叩かれると外から「お話中に失礼いたします…ツキヨ様、ご入浴の準備が整いました」とフロリナが声をかけてきた。
「フロリナ、今行きます。アレックス様、お先に失礼しますね」
ニッコリと笑顔で立ち上がりツキヨは優雅に礼をした。
「おう。ゆっくり休めよ」
「はい、アレックス様も」と言いフロリナと2人でダイニングを出て浴室へ向かったのを魔気で確認をして手紙をベストの内ポケットから取り出して見つめた。
「お父様へ…か」
レオが厨房から入ってきて「今夜行くのか?」とアレックスに聞く。
「まぁ。どんなヤツでも相手の親父さんに会うのは緊張するもんだ」とティーセットを片づけながらレオがニヤリと笑う。
「こんなのパッと渡してくるから関係ねぇよ」アレックスは手紙を丁寧にしまってから、ずぅぅっと自分の影に身を投じた。
-----------------------
先日、こっそりとツキヨの記憶を覗いたときに覚えた家や景色をそのまま思い描く…すすぅっと影から出るとツキヨと同じ記憶の家の前だったが、月明かりの中ですら今は荒んでいるように見える。
ツキヨの記憶では玄関までアプローチは花が競い合うように咲き乱れ、何本かの大きな木があり、屋根はエストシテ王国の南部特有の橙色で白い漆喰の外壁だったが、夜目を利かせて見ても壁は煤けて、玄関周辺も土埃だらけになっている。
花は咲いてるが雑草ばかりで大きな木は一部を残し切り株になっていた。
アレックスはいろいろと疑問を持ちつつも、黒い靄で全身を包む…すると20代中頃の金髪で空色の瞳をした貴族の男の旅姿になっていた。
「こんな感じならツキヨはどう思うかね」
アレックスは若返った仮の姿にニヤリとした。
少し錆びた鉄の門を開けるとキィキィと響く…「これは来客がすぐに分かるから便利だな」と感心をして土埃の多い玄関前に立つと扉を強めにコンコン!と叩いた。
…。
……。
………?
「あぁ…すいません。どちら様ですか?」
扉がやっと開いたと思ったらさっきまで寝ていたようなメイドが顔を出してきた。アレックスは気を取り直して一貴公子として一礼をした。
「夜分に失礼いたします。私はエストシテ王国マリスス公爵家のアルフレッド・ドゥ・マリススと申します。旅の途中でマルセル・ドゥ・カトレア男爵に手紙を渡してほしいと縁があった旅人より託されて伺いました」
アレックスは貴公子スマイルを見せるとメイドはポンと赤くなり「お、お待ちくださいませ!あ、あの…その…奥様をお呼びいたしますので…お、お待ちください!!」と玄関内にアレックスを招き入れるとドタバタと2階へ走っていった。
しばらくしてから「あんた!夜中になんだっていうんだい?!はぁっ?マリスス公爵?!」という話し声が屋敷に響いた。
その声に気がついたのか若い娘の声が2人分増えた。
「お母様、マリスス公爵家の方がいらっしゃってるの?」
「マリスス公爵家って王様の側室で今一番の権勢を誇っているヨハンナ様のご実家よ!信じられない!」
「な、と、とにかくあんたは応接室へお通ししなさい!お茶もいいのをお出しして!グズグズしてんじゃないよ!」
アレックスは初めて心の底から帰りたいと思った。
またドタバタとメイドが来て応接室へ案内をされてアレックスは派手な模様の長椅子に座った。目が痛い。
メイドはお茶の支度をするとのことでバタバタと出て行った。
1人になり応接室を眺めていたがギラギラでゴテゴテでついでに埃っぽい中、思わず「帰りたい…何かの罰なのか…これ…」と頭を抱え呟いた。
ガチャガチャとティーワゴンと一緒にメイドと派手なドレスを着たマリアンナが入ってきた。
マリアンナは形だけは素晴らしい淑女の礼をすると「申し訳ございません。生憎、主人の帰宅が遅くなっておりまして…私は妻のマリアンナ・ドゥ・カトレアと申しますの、ほほほ」と自己紹介をしてドスン!とアレックスの前の長椅子に座った。埃がもわっとなった。
紅茶が出てきたので礼儀として一口飲むと何故か薬草を煎じた味がした。
【帰りたい…辛い】
「夜分に失礼をして申し訳ありません。アルフレッド・ドゥ・マリススと申します。父より家を継ぐためには広い王国を旅をして見聞を広げて学べと言われて現在に至ります。その旅の途中でカト…レ…」「まぁ!アルフレッド様はマリスス公爵家の跡を継がれると?!おほほほ。ちょっと失礼…」マリアンナは傍のメイドに小声でしっかりはっきり聞こえる声で「メリーアンとミリアンも連れて来なさい!」耳打ちをした。
「おほほ、失礼いたしましたわ」
「あ、いいえ。継ぐのは父が決めることですが、いずれは…とは思いたいですね」
アレックスは半泣きで貴公子スマイルをマリアンナに披露した。
【貴公子って大変なんだな…】
ツキヨの細い手首には2人で外出した時に魔気がないと危険な為、アレックスが魔気を込めて作ったバングルが今も嵌まっている。
「それは飽きねぇのか?たまには他のとかあるだろう…もっと何か違うのがいるか?」
「これは…お、お守りです!私には魔気がないですから!お、お守りなんです!!!アレックス様が考えてくれたこれで充分です!」
実際問題としてツキヨはアレックスが天気がいい、暇だというだけで贈られた宝飾品や服が増えている。
しかし、このバングルをツキヨは大切に嵌めていた。他にも派手ではない首飾りなどもつけるがこれは必要以外手首から外すことはない。
「そうか…ならいい。うん…いい。迷子にならないようにお守りがあれば安心だ」
少し照れくさそうにアレックスは一口紅茶を飲んだ。
単純に魔気が込めてある以外、バングルにはアレックスの重い想いと一緒に守護や探知の為の魔気が込められ、他に家内安全、交通安全、受験必勝、無病息災…または腰痛や胃痛などにも効果がある。
ダイニングの扉がコンコン…と叩かれると外から「お話中に失礼いたします…ツキヨ様、ご入浴の準備が整いました」とフロリナが声をかけてきた。
「フロリナ、今行きます。アレックス様、お先に失礼しますね」
ニッコリと笑顔で立ち上がりツキヨは優雅に礼をした。
「おう。ゆっくり休めよ」
「はい、アレックス様も」と言いフロリナと2人でダイニングを出て浴室へ向かったのを魔気で確認をして手紙をベストの内ポケットから取り出して見つめた。
「お父様へ…か」
レオが厨房から入ってきて「今夜行くのか?」とアレックスに聞く。
「まぁ。どんなヤツでも相手の親父さんに会うのは緊張するもんだ」とティーセットを片づけながらレオがニヤリと笑う。
「こんなのパッと渡してくるから関係ねぇよ」アレックスは手紙を丁寧にしまってから、ずぅぅっと自分の影に身を投じた。
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先日、こっそりとツキヨの記憶を覗いたときに覚えた家や景色をそのまま思い描く…すすぅっと影から出るとツキヨと同じ記憶の家の前だったが、月明かりの中ですら今は荒んでいるように見える。
ツキヨの記憶では玄関までアプローチは花が競い合うように咲き乱れ、何本かの大きな木があり、屋根はエストシテ王国の南部特有の橙色で白い漆喰の外壁だったが、夜目を利かせて見ても壁は煤けて、玄関周辺も土埃だらけになっている。
花は咲いてるが雑草ばかりで大きな木は一部を残し切り株になっていた。
アレックスはいろいろと疑問を持ちつつも、黒い靄で全身を包む…すると20代中頃の金髪で空色の瞳をした貴族の男の旅姿になっていた。
「こんな感じならツキヨはどう思うかね」
アレックスは若返った仮の姿にニヤリとした。
少し錆びた鉄の門を開けるとキィキィと響く…「これは来客がすぐに分かるから便利だな」と感心をして土埃の多い玄関前に立つと扉を強めにコンコン!と叩いた。
…。
……。
………?
「あぁ…すいません。どちら様ですか?」
扉がやっと開いたと思ったらさっきまで寝ていたようなメイドが顔を出してきた。アレックスは気を取り直して一貴公子として一礼をした。
「夜分に失礼いたします。私はエストシテ王国マリスス公爵家のアルフレッド・ドゥ・マリススと申します。旅の途中でマルセル・ドゥ・カトレア男爵に手紙を渡してほしいと縁があった旅人より託されて伺いました」
アレックスは貴公子スマイルを見せるとメイドはポンと赤くなり「お、お待ちくださいませ!あ、あの…その…奥様をお呼びいたしますので…お、お待ちください!!」と玄関内にアレックスを招き入れるとドタバタと2階へ走っていった。
しばらくしてから「あんた!夜中になんだっていうんだい?!はぁっ?マリスス公爵?!」という話し声が屋敷に響いた。
その声に気がついたのか若い娘の声が2人分増えた。
「お母様、マリスス公爵家の方がいらっしゃってるの?」
「マリスス公爵家って王様の側室で今一番の権勢を誇っているヨハンナ様のご実家よ!信じられない!」
「な、と、とにかくあんたは応接室へお通ししなさい!お茶もいいのをお出しして!グズグズしてんじゃないよ!」
アレックスは初めて心の底から帰りたいと思った。
またドタバタとメイドが来て応接室へ案内をされてアレックスは派手な模様の長椅子に座った。目が痛い。
メイドはお茶の支度をするとのことでバタバタと出て行った。
1人になり応接室を眺めていたがギラギラでゴテゴテでついでに埃っぽい中、思わず「帰りたい…何かの罰なのか…これ…」と頭を抱え呟いた。
ガチャガチャとティーワゴンと一緒にメイドと派手なドレスを着たマリアンナが入ってきた。
マリアンナは形だけは素晴らしい淑女の礼をすると「申し訳ございません。生憎、主人の帰宅が遅くなっておりまして…私は妻のマリアンナ・ドゥ・カトレアと申しますの、ほほほ」と自己紹介をしてドスン!とアレックスの前の長椅子に座った。埃がもわっとなった。
紅茶が出てきたので礼儀として一口飲むと何故か薬草を煎じた味がした。
【帰りたい…辛い】
「夜分に失礼をして申し訳ありません。アルフレッド・ドゥ・マリススと申します。父より家を継ぐためには広い王国を旅をして見聞を広げて学べと言われて現在に至ります。その旅の途中でカト…レ…」「まぁ!アルフレッド様はマリスス公爵家の跡を継がれると?!おほほほ。ちょっと失礼…」マリアンナは傍のメイドに小声でしっかりはっきり聞こえる声で「メリーアンとミリアンも連れて来なさい!」耳打ちをした。
「おほほ、失礼いたしましたわ」
「あ、いいえ。継ぐのは父が決めることですが、いずれは…とは思いたいですね」
アレックスは半泣きで貴公子スマイルをマリアンナに披露した。
【貴公子って大変なんだな…】
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