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闇-19
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確かに想像通りだとアレックスは納得する。
「後は、後妻の娘も顔がカエルみたいだが、愛人と一緒になって貴族の金持ちの息子を嫁ぎ先として物色しているぜ。上の娘は今の条件に追加して婿になってくれるのがご希望だとよ。
あとは、お姫様が心配していたダンとルルーの夫婦だが隣のフリージア子爵領内に今のツバキ伯爵に爵位を譲って引退した両親の隠居先の別荘があって、住み込みで働いている。ご隠居さんたちにも気に入られて、元気にしている。
怪我をした御者やメイドたちも男爵が最後まで責任を持って治療をして問題はないようだ。
あとは、馬番のスホールっていうヤツは王都の近くの馬好きのコ=チョウラン侯爵の競走馬の厩舎で働いている。今のところはこんな感じかね」
「娘っていうのは2人か。ふーん」
「なんだよ。別の若い娘にも手を出すのか?」
「そんなこと、しねぇよ。お姫様は何もいわねぇが、俺は本当は腸が煮えくり返るくらい怒り狂っているんだ」
「おい、国だけは壊すなよ。国だけは」
ゲオルグはふぅっと息をつく。
「…俺には立場っていうヤツがある。面倒臭いが。
でもよ、俺は少しでも笑顔になってほしくって…いつか…いつか、ツキヨがいいって言ったら…一緒にずっといてほしいと思っている。こんなバカバカしいことは俺の自己満足だ。ツキヨを苦しめたあいつらを…この立場を利用してでも…」コンコン…「あの、お話中なのにすいません…大丈夫ですか?」扉の向こうから小さな声が聞こえた。
「お姫様を笑顔にするのはお前だけじゃねえよ。お姫様を大切に思うヤツ全員だ。そして俺もだ」
ゲオルグが小声でアレックスに話す。
「…そうだな」
ニッとアレックスは笑った。
「はいよ、淑女様。お決まりですかな?」
笑顔でゲオルグが扉を開けると、便箋と封筒を抱えたツキヨが少し赤い顔で立っていた。
「あ、あの…す、すいません…お二人とも大丈夫ですか?お邪魔してないですか?」
「全然、お邪魔じゃねぇよ。なんかいいもんはあったのか?」
抱えているものをアレックスが見ると、ツキヨは白地に緑の葉の模様と桃色地に青い花びらが散っているのと薄い菫色に白い小花がある便箋とそれぞれに対になっている封筒を見せた。
「きれいなヤツだな。よし、ゲオルグ、全部包んでくれ」
小部屋から出て、カウンターでゲオルグが便箋と封筒を袋に入れながら「これは、この間入荷したばかりの便箋と封筒で俺の中で今一番、意匠が凝っているヤツから仕入れたけど…女の子には今一つでね。お姫様は見る目あるぞ」は白地に葉の模様の便箋をひらひらさせる。
「…今日、通りで見た木の感じがして…素敵だと思って…」
恥ずかしそうにツキヨは俯くとゲオルグは笑顔で「きっと、いい返事が返ってくるよ」とウィンクをした。
「おい、ツキヨが病気になるからやめろよ、ジジィ」
「そんなことねぇよ。家内安全、交通安全、商売繁盛になるって有名だぜ」
「知らねぇよ、噂にもなってねぇよ」
「ほー。恋愛成就にも利くともいうぜ」
ニヤニヤとゲオルグは笑う。
「うるせぇ、ジジィ。よし、出るぞ」とアレックスはツキヨの手を引き入口へ向かい「おう、また連絡するからな」と挨拶をした。
「あぁ。お姫さまもお買い上げありがとう。これからもご贔屓にしてくれな。そこのアホに困ったらいつでも相談に乗るからな」
「けっ!呪われて死ね!」
「ゲオルグさん、ありがとうございました!」とバタバタとする中で一礼をして店を出た。
陽が傾きつつある中、2人で通りをゆっくりと歩きながら途中でお土産にとクッキーをレオとフロリナに購入して馬車を停めてあるところへ戻る。
「お帰りなさいませ。お館様、ツキヨ様」
御者がニッコリと迎えてくれると「はい、いろいろありましたが買物もできましたし、楽しかったです。むしろ、お待たせしてすいません」とツキヨは笑顔に答えた。
「それは、よろしゅうございます。楽しいことが一番でお礼に笑顔をいただければ何も私は必要はありませんよ。さぁ、たくさん歩いてお疲れかと思いますし、早めにお屋敷に戻りましょう」
馬車の扉を開けるとアレックスの手を取りツキヨは優雅に馬車に乗る際に、そのふわりとしたドレスの裾がアレックスには妖精の羽のようだと思いながら乗り込んだ。
扉が閉まって、馬車は屋敷へ向かった。
今更、アレックスは狭い馬車の中に二人っきりということにドキマギする。横目でツキヨを見れば買った便箋を満足そうに眺めている。
怪我をして偶然に屋敷に来た小さい人間の娘…いつも笑顔で誰にでも優しい…いや、誰にでも優しいのは「俺にだけ」にしてほしいと望み、魔人としての本能が早くツキヨを束縛をし「俺しか見るな」と叫びたい。
帝国の魔族の女であれば俺の地位があれば簡単に靡いて、股を簡単に開くだろうし実際、殆どの女がそうだった。この地位が邪魔だと思うことは数えきれないほどあった。
ツキヨも簡単に操ることもできるが、そんな愚かなことはしない。ただ、いつか…俺だけを見つめて、俺だけに笑顔を見せて、俺だけに囁いてほしい。
もし、俺の地位に恐れるならそんな地位は反吐の底の吹きだまりにでも捨ててやる。
…俺はやっぱり病気だ。
----------------------------------
屋敷の玄関前に馬車が停まり、「お疲れ様でございます」と御者の声と一緒に扉が開く。
玄関にはレオとフロリナが出迎えてくれている。
「ツキヨ様、お帰りなさいませ」
アレックスの手を取って降りるツキヨにフロリナが笑顔で声をかける。
「ただいま帰りました」
「お買物はいかがでしたか?」
「とても楽しかったし、必要なものも買えました」
笑顔でフロリナに答えると、思い出したように4頭の馬を労うと馬もブヒヒヒと喜んでいた。
「さ、お土産話はあとにして中に入って一旦休憩を取りましょう」
レオが全員を促して屋敷内へ戻った。
ツキヨは心の中で「家に帰る」のは、ここになってしまったことに気がついた。
「後は、後妻の娘も顔がカエルみたいだが、愛人と一緒になって貴族の金持ちの息子を嫁ぎ先として物色しているぜ。上の娘は今の条件に追加して婿になってくれるのがご希望だとよ。
あとは、お姫様が心配していたダンとルルーの夫婦だが隣のフリージア子爵領内に今のツバキ伯爵に爵位を譲って引退した両親の隠居先の別荘があって、住み込みで働いている。ご隠居さんたちにも気に入られて、元気にしている。
怪我をした御者やメイドたちも男爵が最後まで責任を持って治療をして問題はないようだ。
あとは、馬番のスホールっていうヤツは王都の近くの馬好きのコ=チョウラン侯爵の競走馬の厩舎で働いている。今のところはこんな感じかね」
「娘っていうのは2人か。ふーん」
「なんだよ。別の若い娘にも手を出すのか?」
「そんなこと、しねぇよ。お姫様は何もいわねぇが、俺は本当は腸が煮えくり返るくらい怒り狂っているんだ」
「おい、国だけは壊すなよ。国だけは」
ゲオルグはふぅっと息をつく。
「…俺には立場っていうヤツがある。面倒臭いが。
でもよ、俺は少しでも笑顔になってほしくって…いつか…いつか、ツキヨがいいって言ったら…一緒にずっといてほしいと思っている。こんなバカバカしいことは俺の自己満足だ。ツキヨを苦しめたあいつらを…この立場を利用してでも…」コンコン…「あの、お話中なのにすいません…大丈夫ですか?」扉の向こうから小さな声が聞こえた。
「お姫様を笑顔にするのはお前だけじゃねえよ。お姫様を大切に思うヤツ全員だ。そして俺もだ」
ゲオルグが小声でアレックスに話す。
「…そうだな」
ニッとアレックスは笑った。
「はいよ、淑女様。お決まりですかな?」
笑顔でゲオルグが扉を開けると、便箋と封筒を抱えたツキヨが少し赤い顔で立っていた。
「あ、あの…す、すいません…お二人とも大丈夫ですか?お邪魔してないですか?」
「全然、お邪魔じゃねぇよ。なんかいいもんはあったのか?」
抱えているものをアレックスが見ると、ツキヨは白地に緑の葉の模様と桃色地に青い花びらが散っているのと薄い菫色に白い小花がある便箋とそれぞれに対になっている封筒を見せた。
「きれいなヤツだな。よし、ゲオルグ、全部包んでくれ」
小部屋から出て、カウンターでゲオルグが便箋と封筒を袋に入れながら「これは、この間入荷したばかりの便箋と封筒で俺の中で今一番、意匠が凝っているヤツから仕入れたけど…女の子には今一つでね。お姫様は見る目あるぞ」は白地に葉の模様の便箋をひらひらさせる。
「…今日、通りで見た木の感じがして…素敵だと思って…」
恥ずかしそうにツキヨは俯くとゲオルグは笑顔で「きっと、いい返事が返ってくるよ」とウィンクをした。
「おい、ツキヨが病気になるからやめろよ、ジジィ」
「そんなことねぇよ。家内安全、交通安全、商売繁盛になるって有名だぜ」
「知らねぇよ、噂にもなってねぇよ」
「ほー。恋愛成就にも利くともいうぜ」
ニヤニヤとゲオルグは笑う。
「うるせぇ、ジジィ。よし、出るぞ」とアレックスはツキヨの手を引き入口へ向かい「おう、また連絡するからな」と挨拶をした。
「あぁ。お姫さまもお買い上げありがとう。これからもご贔屓にしてくれな。そこのアホに困ったらいつでも相談に乗るからな」
「けっ!呪われて死ね!」
「ゲオルグさん、ありがとうございました!」とバタバタとする中で一礼をして店を出た。
陽が傾きつつある中、2人で通りをゆっくりと歩きながら途中でお土産にとクッキーをレオとフロリナに購入して馬車を停めてあるところへ戻る。
「お帰りなさいませ。お館様、ツキヨ様」
御者がニッコリと迎えてくれると「はい、いろいろありましたが買物もできましたし、楽しかったです。むしろ、お待たせしてすいません」とツキヨは笑顔に答えた。
「それは、よろしゅうございます。楽しいことが一番でお礼に笑顔をいただければ何も私は必要はありませんよ。さぁ、たくさん歩いてお疲れかと思いますし、早めにお屋敷に戻りましょう」
馬車の扉を開けるとアレックスの手を取りツキヨは優雅に馬車に乗る際に、そのふわりとしたドレスの裾がアレックスには妖精の羽のようだと思いながら乗り込んだ。
扉が閉まって、馬車は屋敷へ向かった。
今更、アレックスは狭い馬車の中に二人っきりということにドキマギする。横目でツキヨを見れば買った便箋を満足そうに眺めている。
怪我をして偶然に屋敷に来た小さい人間の娘…いつも笑顔で誰にでも優しい…いや、誰にでも優しいのは「俺にだけ」にしてほしいと望み、魔人としての本能が早くツキヨを束縛をし「俺しか見るな」と叫びたい。
帝国の魔族の女であれば俺の地位があれば簡単に靡いて、股を簡単に開くだろうし実際、殆どの女がそうだった。この地位が邪魔だと思うことは数えきれないほどあった。
ツキヨも簡単に操ることもできるが、そんな愚かなことはしない。ただ、いつか…俺だけを見つめて、俺だけに笑顔を見せて、俺だけに囁いてほしい。
もし、俺の地位に恐れるならそんな地位は反吐の底の吹きだまりにでも捨ててやる。
…俺はやっぱり病気だ。
----------------------------------
屋敷の玄関前に馬車が停まり、「お疲れ様でございます」と御者の声と一緒に扉が開く。
玄関にはレオとフロリナが出迎えてくれている。
「ツキヨ様、お帰りなさいませ」
アレックスの手を取って降りるツキヨにフロリナが笑顔で声をかける。
「ただいま帰りました」
「お買物はいかがでしたか?」
「とても楽しかったし、必要なものも買えました」
笑顔でフロリナに答えると、思い出したように4頭の馬を労うと馬もブヒヒヒと喜んでいた。
「さ、お土産話はあとにして中に入って一旦休憩を取りましょう」
レオが全員を促して屋敷内へ戻った。
ツキヨは心の中で「家に帰る」のは、ここになってしまったことに気がついた。
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