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闇-12
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湯にゆっくりと入った次の日の朝は気持ちよく目覚めることができた。心なしか体も軽く感じる。
柔らかい掛け布の中で伸びをする。微かに傷が痛むが気にすることはないくらいだ。
とんとん…
「ツキヨ様。お目覚めですか?」とフロリナが扉の向こう側から声をかけてきたのでスッキリした声で「フロリナ、おはようございます」返事をすると音もなくフロリナは箱を幾つか抱えて入ってきた。
「大荷物!手伝います!」とベッドから出ると「そんな、ツキヨ様」拒否をするフロリナだがツキヨは箱と袋の一部を手に取りローテーブルに置く。
「こんなたくさん、どうしたのですか?」
フロリナの抱えてきた箱や袋は大小あわせて10個もあった。
「はい、昨夜お館様とレオ様に『怪我もほぼ問題がないご様子で今、昼間に着ている楽なワンピースではなく帝国の成人された女性のドレスなどが必要かと思われます』とご報告しましたところ、お館様が昨夜の内に急遽出入りの業者を呼び寄せて…既製品ではございますが、|お館様が最速で…ご用意をしたものでございます…」
フロリナもやや飽きれ顔で説明をする。
「せ、せっかちですね…」「…はい」2人で頷く。
2人で箱を開けると濃いめの桃色のドレスなどが複数枚と華奢な花が輝石で作られた髪飾りや華美ではないが大きめなルビーと多彩な輝石が輝く首飾りなどの装飾品、つば広の羽飾りのある帽子、鞄。
そのほかに低いヒールだが踵のない履物があった。
…さすがに足の大きさがわからないためこの種類を選んだとのことではあるが足首のことを考えてかヒールがないものある。
既製品とは言うが貴族の端くれのツキヨでも触れたり、見たりすれば一級品か否かを判断することはできる…思わず息を飲んだ。
「お館様が仰るには騒ぎのお詫びとのことなので、ツキヨ様はご遠慮などせずにお洒落をしてお館様を驚かせて騒ぎの仕返しをしましょうね」と茶目っ気顔でフロリナはウィンクをした。
桃色のドレスに袖を通すが王国のドレスよりも胸元が大きく開き、胸下で切り替えがありそのまま流れるように裾が足もとまで広がる。コルセットが当たり前と思っていたツキヨは楽と思う半面、胸元が開きすぎていて戸惑う。
色白の肌理の細かい肌に桃色が映える。その首元に濃い色のローズクォーツが連なる中に手頃なサイズのダイヤモンドが輝く。
黒髪の毛先をくるりと内側に巻き、耳のあたりに真珠の髪飾りを挿す。
化粧を軽く施して、紅を最後に塗るとツキヨはあっという間に「ツキヨ・ドゥ・カトレア男爵家令嬢」になった。
ドレスや化粧がお膳立てしてくれているとは思うけど、可愛いものやきれいなものにときめくのはフロリアやツキヨも同じでお互い「うふふ」と微笑みあう。
「さぁ!ツキヨ様。これでお館様を驚かせましょう」
「で、でも、こんな胸元が開いているのは失礼にならないのでしょうか。王国だとこのような襟元ははしたないと言われていまして…」
「ツキヨ様。ご安心ください。帝国はそれが淑女としては普通の衣装でございます。今は帝国にいらっしゃいますので帝国流の衣装をお楽しみください」
帝国流…と聞くと不思議と腑に落ちてしまうがそれでもソワソワと恥ずかしいツキヨだった。
そのまま、アレックスの待つダイニングへそっと向かう。
ふわふわとした桃色の生地が歩くたびに足をさらっと包み込む。踵のない楽な履物なので足首に痛みも感じない。
トントン…「お館様。ツキヨ様をお連れいたしました」と声をかけると応じたレオが扉を開けた。
「お、おはようございます。アレックス様、レオさん。
…あ、あの。素敵なドレスをご用意していただいてありがとうございます…」
扉の前で美しい所作で礼をするとツキヨをじっと見つめる菫色の瞳。
「おうぉ。おはよう…さん…。に、似合うじゃねぇかよ。あぁ。お、お、お、お姫様みたいだぜ」とアレックスはアワアワとしてる…が突然キッとした顔つきになると「おい!レオ!どっかの物置に箱があるだろう!でかいやつ。あれ持ってこい!早く!」とレオに大声で命じる。
「確かにありますけど、そんなものどうするんですか?」
呆れた声でレオは一応用途を確認する。
「こ、こんなのいたら、なんか大変だ!誘拐されちまう!危険だ!危険物だ!大切に箱に入れてしまっておけ!!!!!」
…。
……。
………。
フロリナは着席をしたツキヨに温かい紅茶を注ぐ。
その間にレオは箱を処分した。
「箱だ。やっぱりあんな箱はだめだ。もっと可愛いヤツだ。お花とかついてるヤツだ…念の為『触るな危険』とか書いておこう…色は…」
アレックスは仕事以上に熱を入れて図面みたいなものを描いている…その横でフロリナが「お館様、紅茶のお代わりでございます…あ!」とパシャリ…と紅茶を図面に溢してしまった「あぁ!お館様!!!申し訳ございません!何やら、よくわからない危険で不審物で怪しい設計図を汚してしまうなんて!」と無表情で謝罪をする。
「いや、フロリナ。大丈夫だ。こうやって図面がだめになってしまって俺は気がついた。
こんなだせぇ箱なんてだめだ!俺は…俺は…もっとお洒落で可愛いのでリボンとかお花とか…いや、箱すらだせぇんだ…箱じゃない素敵な…色は水色もいいかもしれない…」
ブツブツと呟きながらアレックスの菫色の瞳はよくわからない方を向いていた。
何かが見えているのかもしれない。
ツキヨは何故か砂の味がする朝食を食べていた。
レオとフロリナは念入りに屋敷内にある箱という箱を叩き潰した。
柔らかい掛け布の中で伸びをする。微かに傷が痛むが気にすることはないくらいだ。
とんとん…
「ツキヨ様。お目覚めですか?」とフロリナが扉の向こう側から声をかけてきたのでスッキリした声で「フロリナ、おはようございます」返事をすると音もなくフロリナは箱を幾つか抱えて入ってきた。
「大荷物!手伝います!」とベッドから出ると「そんな、ツキヨ様」拒否をするフロリナだがツキヨは箱と袋の一部を手に取りローテーブルに置く。
「こんなたくさん、どうしたのですか?」
フロリナの抱えてきた箱や袋は大小あわせて10個もあった。
「はい、昨夜お館様とレオ様に『怪我もほぼ問題がないご様子で今、昼間に着ている楽なワンピースではなく帝国の成人された女性のドレスなどが必要かと思われます』とご報告しましたところ、お館様が昨夜の内に急遽出入りの業者を呼び寄せて…既製品ではございますが、|お館様が最速で…ご用意をしたものでございます…」
フロリナもやや飽きれ顔で説明をする。
「せ、せっかちですね…」「…はい」2人で頷く。
2人で箱を開けると濃いめの桃色のドレスなどが複数枚と華奢な花が輝石で作られた髪飾りや華美ではないが大きめなルビーと多彩な輝石が輝く首飾りなどの装飾品、つば広の羽飾りのある帽子、鞄。
そのほかに低いヒールだが踵のない履物があった。
…さすがに足の大きさがわからないためこの種類を選んだとのことではあるが足首のことを考えてかヒールがないものある。
既製品とは言うが貴族の端くれのツキヨでも触れたり、見たりすれば一級品か否かを判断することはできる…思わず息を飲んだ。
「お館様が仰るには騒ぎのお詫びとのことなので、ツキヨ様はご遠慮などせずにお洒落をしてお館様を驚かせて騒ぎの仕返しをしましょうね」と茶目っ気顔でフロリナはウィンクをした。
桃色のドレスに袖を通すが王国のドレスよりも胸元が大きく開き、胸下で切り替えがありそのまま流れるように裾が足もとまで広がる。コルセットが当たり前と思っていたツキヨは楽と思う半面、胸元が開きすぎていて戸惑う。
色白の肌理の細かい肌に桃色が映える。その首元に濃い色のローズクォーツが連なる中に手頃なサイズのダイヤモンドが輝く。
黒髪の毛先をくるりと内側に巻き、耳のあたりに真珠の髪飾りを挿す。
化粧を軽く施して、紅を最後に塗るとツキヨはあっという間に「ツキヨ・ドゥ・カトレア男爵家令嬢」になった。
ドレスや化粧がお膳立てしてくれているとは思うけど、可愛いものやきれいなものにときめくのはフロリアやツキヨも同じでお互い「うふふ」と微笑みあう。
「さぁ!ツキヨ様。これでお館様を驚かせましょう」
「で、でも、こんな胸元が開いているのは失礼にならないのでしょうか。王国だとこのような襟元ははしたないと言われていまして…」
「ツキヨ様。ご安心ください。帝国はそれが淑女としては普通の衣装でございます。今は帝国にいらっしゃいますので帝国流の衣装をお楽しみください」
帝国流…と聞くと不思議と腑に落ちてしまうがそれでもソワソワと恥ずかしいツキヨだった。
そのまま、アレックスの待つダイニングへそっと向かう。
ふわふわとした桃色の生地が歩くたびに足をさらっと包み込む。踵のない楽な履物なので足首に痛みも感じない。
トントン…「お館様。ツキヨ様をお連れいたしました」と声をかけると応じたレオが扉を開けた。
「お、おはようございます。アレックス様、レオさん。
…あ、あの。素敵なドレスをご用意していただいてありがとうございます…」
扉の前で美しい所作で礼をするとツキヨをじっと見つめる菫色の瞳。
「おうぉ。おはよう…さん…。に、似合うじゃねぇかよ。あぁ。お、お、お、お姫様みたいだぜ」とアレックスはアワアワとしてる…が突然キッとした顔つきになると「おい!レオ!どっかの物置に箱があるだろう!でかいやつ。あれ持ってこい!早く!」とレオに大声で命じる。
「確かにありますけど、そんなものどうするんですか?」
呆れた声でレオは一応用途を確認する。
「こ、こんなのいたら、なんか大変だ!誘拐されちまう!危険だ!危険物だ!大切に箱に入れてしまっておけ!!!!!」
…。
……。
………。
フロリナは着席をしたツキヨに温かい紅茶を注ぐ。
その間にレオは箱を処分した。
「箱だ。やっぱりあんな箱はだめだ。もっと可愛いヤツだ。お花とかついてるヤツだ…念の為『触るな危険』とか書いておこう…色は…」
アレックスは仕事以上に熱を入れて図面みたいなものを描いている…その横でフロリナが「お館様、紅茶のお代わりでございます…あ!」とパシャリ…と紅茶を図面に溢してしまった「あぁ!お館様!!!申し訳ございません!何やら、よくわからない危険で不審物で怪しい設計図を汚してしまうなんて!」と無表情で謝罪をする。
「いや、フロリナ。大丈夫だ。こうやって図面がだめになってしまって俺は気がついた。
こんなだせぇ箱なんてだめだ!俺は…俺は…もっとお洒落で可愛いのでリボンとかお花とか…いや、箱すらだせぇんだ…箱じゃない素敵な…色は水色もいいかもしれない…」
ブツブツと呟きながらアレックスの菫色の瞳はよくわからない方を向いていた。
何かが見えているのかもしれない。
ツキヨは何故か砂の味がする朝食を食べていた。
レオとフロリナは念入りに屋敷内にある箱という箱を叩き潰した。
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