闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇-9

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 アレックスとレオのフンガー!というやり取りを一日一回は見て、美味しい食事で栄養をとり、医師に怪我の往診もちろん女性をしてもらいながらも、女性がいないと不便だろうとレオの実家からツキヨと年齢が近いメイドを雇い、連れてきた。

「私はフロリナ・カペラと申します。レアンドロ様のご実家のリゲル公爵邸のメイド長として私の母が長年勤めており、私も母と一緒に勤めていましたが、今回レアンドロ様よりツキヨ様付のメイドとしてお世話をさせていただくこととなりました。よろしくお願いいたします」
 フロリナは静かに礼をする。きれいに結びあげた濃紺の髪と水色の瞳で利発そうな雰囲気を持ち、ツキヨも同年齢のくらい女性がいることに安心をする。しかし、治ったら帝国でメイドなどとして働くことを考えていたため、一度アレックスにどこかのお屋敷とか紹介してもらえないか相談もすることにした。
「ツキヨ・ドゥ・カトレアと言います。エストシテ王国から攫われたところをアレックス様に助けていただいてここに滞在をしています。私こそよろしくお願いします」とベッドから起き上がってはいるが礼はできないので同じく静かに、そして笑顔で礼をする。
「おう、フロリナ、ツキヨと仲良くしてくれな。それと、あとでツキヨに茶を出して午後のティータイムやってくれ。わかんねぇことは下にいるレオに聞けば教えてくれるから、頼むな」
 長椅子にだらんと座るアレックスが指示をするとフロリナは「かしこまりました。では、ご用意をしてお持ちいたします」と一礼をして部屋を出た。

 ツキヨはふぅっと息を吸い「アレックス様…私、完治したら住み込みでどこかのお屋敷でメイドとかで働くことを考えていたのですが…」とダラダラしているアレックスに聞く。
「ん?なんでだよ。別にここは俺以外は住んでねぇし、そのまんま暮らし続ければいいだろうが。そんな細くて小さいちっこいのに出ていくことなんてないだろう。俺ん家に留学とかしてるとか考えりゃいいじゃねぇか。
それに残念だが、人間のツキヨなんてまた攫われるのがオチだ。交流はあるけどよ、今も人間は少ないすくねぇからな。良い意味でも悪いわりぃ意味でも目立つんだ」
 アレックスは頭をポリポリとしながら、説得気味にツキヨが長く滞在するように話す。
「私は…本当は、ご迷惑をかけてはいないですか。レオさん、いえレオ様も公爵家の方とも知らずに…」
「レオ?あいつは気にすんなよ。リゲルんとこの三男坊で大したことねぇんだから。あんなの心配すんなら自分のことを心配しろ」
 アレックスはツカツカとツキヨに近づいて頭を撫でる…いや、グシャグシャとする。
「しっかしよぅ、その髪の毛。短いのはいいとしても先っちょがバラバラだな。フロリナに今度整えてもらえよ」
「これは、継母はは…まぁ、実際は父の後妻ですが…彼女にバサッと切られてからは自分で切っ…」「はぁ?!おふくろって思っていたらオヤジの後添えだとぅ?!
『はは』っていうから俺はてっきり本当のおふくろがツキヨを売ったのかと…くそ、何だそのアマ!胸糞悪いわりぃ!」近くの椅子にプリプリ怒りながらドスンとアレックスが座る。

とんとん…「お茶のご用意ができました」とドアの向こう側からフロリナが声をかけてきたのを不機嫌そうにアレックスが応じるとワゴンを押し入室する。
 ベッドサイドのローテーブルにワゴンを押して近づくと「あとは俺がやるから、フロリナは下がっていいぜ」アレックスがワゴンを取り上げてしまう。
フロリナは慌てて「お館様、私がお淹れいたしますが…」と言うが「ツキヨの茶を淹れるのは俺がやってるんだ。結構面白いもんでよ、壊さないから安心しろよ」と菫色の瞳で砂時計を見つめる。
「か、かしこまりました。また、ご用の際はお呼びくださいませ」
 フロリナは一礼をして部屋を出た。

 タイミングを見てアレックスは長身を屈めながらポットから可愛い桃色の花模様のティーカップへ紅茶を注ぎ、砂糖1個とミルクを多めにいれてかき混ぜる。
 アレックスも最初はタイミングが分からなかったり、溢してしまったりとあったが、今はすっかり慣れてツキヨの好みも把握してしまった。このささやかな時間がツキヨの楽しみにもなっていた。

 しかし、今日のアレックスは少し違った。
「ツキヨの本当のおふくろとオヤジの後添えの女ってどうなってんだ?」
 ティーソーサーに乗せた紅茶をツキヨに渡す。
「ありがとうございます」と受け取り、一口飲む。甘い優しい味がする。
「今、私は17才ですが、私の実の母は病気で4年前に亡くなりました。
しかし、父は寂しさに耐えられず2年前にマリアンナ・ドゥ・アイリスという2人の娘がいる子爵家の未亡人と再婚をしました。
再婚前に全員で数回会っていますが特に何もなく、その後3人でやってきましたが普通でした」とアレックスの元へ来るまでの経緯を話した。
 
 一通り話してからツキヨは少し温くなった紅茶を飲んだ。
 ふと、アレックスが静かなので少し俯いた顔を見る…と憤怒の顔がそこにあった。
 
 鬼神そのものだった。
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