魔法学院で落ちこぼれの令嬢、精霊と契約して世界を変える！

落ちこぼれ令嬢、魔法学院での孤独な日々

「エルザ・ローゼンフェルド、再試験を受ける資格も剥奪する。成績不良により、これ以上の指導は不可能と判断する。」

冷たい声が告げると、エルザの心臓がドクンと跳ねた。周囲からは冷笑が漏れ、学院の生徒たちが彼女を見下すような視線を向けている。エルザは俯いたまま、言葉もなくその場に立ち尽くしていた。

エルザ・ローゼンフェルド。ローゼンフェルド侯爵家の次女として生まれ、幼少期から名門としての教育を受けてきた。しかし、彼女には致命的な欠点があった。それは、「魔法の才能がない」ということだ。彼女の家系は魔法の名家で、どの兄弟も優れた魔法使いとして活躍している。だが、エルザだけは、どれだけ努力を重ねても、魔法の素養が芽生えなかった。

それでもエルザは学院に入学し、必死に勉強を続けた。しかし、優れた成績を持つ貴族令嬢たちの中で、彼女は「落ちこぼれ」と呼ばれ、日々の授業でも厳しい目にさらされていた。今日もまた、彼女は学院の教授から成績不良を理由に指導を断られてしまったのだ。

エルザは誰もいない廊下を歩き、息を詰まらせる。彼女が努力してきたすべてが無駄だったような気がして、胸が痛む。しかし、泣くわけにはいかない。エルザはこれまで、何度も自分を励ましながら歩んできた。ローゼンフェルド家の名誉を汚すわけにはいかないと、自らを奮い立たせてきたのだ。

そんな彼女が向かったのは、学院の地下書庫だった。ここは、ほとんどの生徒が訪れない場所であり、埃にまみれた古い書物が積み上げられている。エルザはここで一人、自分だけの居場所を見つけていた。

「はぁ……」

書架の隅に腰を下ろし、エルザは深い溜息をつく。いつからだろう、彼女がここに通うようになったのは。魔法の才能がないと見下され、誰にも理解されないまま、エルザは次第に孤独を抱えるようになった。だが、この書庫には彼女が知らない魔法の知識が詰まっている。誰も読まないような古代の書物や魔法の呪文が眠っているこの場所が、彼女にとって唯一の慰めだった。

エルザは手当たり次第に古びた書物を手に取り、ページをめくり始めた。魔法の知識を深めるため、ほんの少しでも強くなるために。彼女は自分の欠点を克服しようと努力してきたのだ。今日もまた、その努力が無駄に終わると分かっていても、彼女は諦められなかった。

そのとき、彼女の指がふと、一冊の古びた本に触れた。見たこともない、異様なほど分厚い本で、表紙には「精霊召喚の秘術」と書かれている。エルザはその文字に目を留め、興味を引かれた。

「精霊召喚……？こんな本、学院にあったのね……」

精霊とは、自然の力を司る神秘的な存在であり、通常は強力な魔法使いでなければ契約できないとされている。しかし、エルザは迷わずその本を開いた。なぜなら、彼女にとって、この本が最後の望みのように思えたからだ。

本を読み進めると、そこには精霊を召喚するための儀式の方法が記されていた。召喚のために必要な言葉、特殊な円の描き方、そして自らの魔力を捧げる覚悟。エルザは胸を高鳴らせながら、それらを注意深く読み取った。

「……これなら、私にもできるかもしれない」

エルザは覚悟を決め、地下書庫の中央に移動した。召喚の儀式を行うには、少しでも静かな場所が必要だ。そして、彼女は儀式のための円を描き、自らの魔力を集中させると、震える声で呪文を唱え始めた。

「精霊よ、この世界に姿を現せ……我が呼びかけに応え、力を貸して……」

その瞬間、地下書庫の空気が変わった。淡い光が円の中に現れ、徐々に強まっていく。エルザは驚きと共に息をのんだ。これまで感じたことのない力が、彼女の周りに満ちていくのが分かる。

そして、その光の中から、赤く燃える小さな球体が現れた。それは、まるで小さな火の玉のような姿をしており、浮遊しながらエルザを見上げている。

「……お前が私を呼んだのか？」

その火の玉が、まるで人間のように言葉を発した瞬間、エルザは目を見張った。彼女は驚きと興奮で言葉が出なかったが、やがてゆっくりと頷いた。

「そうです……私は、エルザ・ローゼンフェルド。この学院で、少しでも強くなりたいと願っています」

火の精霊は興味深げに彼女を見つめ、その小さな体をくるくると回転させた。

「俺の名はフィー。火の精霊だ。だが、何の力もないお前が俺を召喚できたことには驚きだな」

エルザは顔を赤らめ、視線を落とした。

「私は……才能がないと、皆に言われ続けてきました。でも、どうしても諦めたくなかったんです」

フィーはしばらく黙り込んだ後、小さな火花をちらつかせながら笑ったように見えた。

「よかろう。お前に俺の力を貸してやる。ただし、俺の力を軽んじることなく、大切に扱うことだ」

エルザは感激し、深く頭を下げた。精霊の力を手にするなど、夢にも思わなかった彼女にとって、これは大きな転機だった。

翌日、エルザは火の精霊フィーの力を借りて、初めての魔法訓練に挑んだ。彼女の魔法が小さな炎を生み出した瞬間、周囲の生徒たちは驚きの表情を浮かべた。これまで何もできなかった彼女が、突然炎を操る力を見せたのだから、当然だった。

「エルザ……本当に、君があの魔法を？」

信じられないというように、同級生たちは囁き合った。彼らの視線に、エルザは少し戸惑いながらも、誇らしい気持ちを感じていた。これまでの彼女の努力が、ようやく形となって現れ始めたのだ。

フィーは彼女の肩に小さく乗り、冷静に言った。

「お前には、まだまだ足りないものがある。だが、俺の力をうまく使えれば、少しずつ強くなれるはずだ」

エルザはその言葉に励まされ、さらなる努力を誓った。これまで孤独だった彼女が、ついに仲間を得て、新たな一歩を踏み出すことができたのだ。

こうして、エルザは火の精霊フィーと共に、魔法学院での新しい生活を歩み始める。しかし、この契約が彼女をどれほどの運命に導くことになるか、まだ彼女自身も知らない。学院での冒険と試練、そして精霊たちとの絆――エルザの物語は、ここから始まる。