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第六章 かめ、茶話会に参戦する

最悪の展開

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 麗子が救急車で緊急搬送されはこばれた後、大蒼たいせいがすぐそばに居るのに気がついたあたしは、脇から汗がき出した。

 まさか人前で抱きつかれることはないと思うのだけど、意識しすぎて目をらしてしまったわ。

 うう。
 恋愛偏差値0ゼロのあたしを責めないで!

「菊子さん、誰かに恨みを買うような心当たりはあるのか?」
 大蒼たいせいがあたしを『かめ』と呼ばないのを寂しく思いながら、あたしは首を横に振った。

 いいえ、全然。
 ごめんなさいね、鈍感ニブイので。

舞踏会ぶとうかいの日に菊子様が階段から突き落とされた時、現場になった踊り場に居たのは、麗子を除くとここに居る5人だ。」

 新一しんいちの言葉に、令嬢2人と女中3人は動揺どうようの色を隠せなかった。

「まさか、あたしたちの中に菊子さんを殺そうとしている者が居るというの?」

 それを聞いた大蒼たいせいが怒りの色を瞳に込めて、5人の女性をグルリと見渡みわたした。
「この中で今日、この紅茶に毒を入れることができそうな人物は?」

「・・・私と、茶器を用意したそれぞれの女中たちだと思います。」

 櫻子さくらこ声で伝えると、護衛の男が櫻子さくらこと女中3人の腕をつかみ、あたしたちの前に乱暴に突き出したのよ。

 わーん、暴力反対!
 その時、櫻子さくらこの扇子が床に落ちたの。

 ああッ、そうか。
 小さな飾毛かざりげが宙に舞い、あたしはあることを思い出したわ。

 あたしが気絶した時に握りしめていた羽は、扇子せんす飾毛かざりげ
 天皇陛下から華族に忠誠の証として与えられた扇子せんすは、形は一緒なのだけど、飾毛かざりげにはその華族を表す染色いろほどこされているの。

 青い羽は侯爵家こうしゃくけの色。
 扇子せんすの管理をしていたはあたしは、どうりでこの羽に見覚えがあったワケよね。

 つまり、この中で怪しいのは櫻子さくらこなのかしら?

 うーん。

 菊子様が誰かに恨まれるなんて、1ミリも想像ができないわ。

 舞踏会では櫻子さくらこ新一しんいち執着ストーカーしていたのは見たれけども、階段から突き落とされたり、飲み物に毒を入れたりされるようなひどい恨みになるかしら?
 それで言うと、初めて顔を合わせる女中たちにも恨まれる覚えはないのよね。

 新一しんいちは、あたしの席に配置されていた茶器とカップに残った少量の液体を入念に調べていた。
 光に当てたり、揺らしたりして。

 それからおもむろに檸檬が入っていた小さなピッチャーを手に取ると、小指こゆびで底にこびりついていた液体をすくいとって、ペロリとめたのよ!

 キャアアア‼
 思わず悲鳴を上げたあたしは、涙目で新一の背中を思い切りたたいた。

「バカ新一しんいち
 それに毒が入っていたら死ぬじゃない⁉」

「美味い。」

 え、美味いの?

「それに甘い。」

 嫌だ。
 即効そっこうで神経が毒におかされたのかしら。

 あたしが新一しんいちの頭の中身を心配してハラハラしていると、彼は物憂げな顔で持っていたピッチャーを机の上に戻した。

「これは毒でも檸檬レモンでもない、粘性トロミが薄いハチミツだ。」
「そんな・・・。ハチミツで人があんな風になるの?」

 その時、平伏へいふくしていた横峯侯爵よこみねこうしゃくがハッとした顔で新一しんいちを見た。
「そうか、君が言いたいのは食物アレルギーのことか⁉」

 新一しんいちうなずいたので、伯爵は嬉々として説明を始めたわ。

「紅茶にハチミツを入れて黒色になるのは、の多いハチミツと紅茶の成分の一つであるタンニンが化合かごうしたためだ。でも、タンニンは毒ではない。」
「じゃあ、ハチミツが毒になったの?」

「ハチミツも、それ自体が毒になるわけではなく、もともとの麗子嬢の体が【ハチ毒】や【花粉】という何らかのアレルゲンを体内に持っていたのだと思う。
 今回はアレルゲンを含んだハチミツを体内に取り込んだことで、劇的な食物アレルギー・【アナフィラキシーショック】を引き起こしたと推察すいさつできる。」

 うーん。回りくどい!
 けど、要するに菊子様がハチミツアレルギーだと知っていた人物が、紅茶に添えた檸檬レモン果汁をハチミツとすり替えたということ?

 そして、たまたま口にした麗子も同じアレルギーを持っていたから、反応が出たということかしら。
 でもそれならカステラに塗るとか、簡単な方法があるわよね。

「生死を分けるアレルギーを自覚している人間なら、警戒して簡単に食べてはくれないよ。
 犯人は、紅茶の水色が変化するという手品で油断させてから、菊子さん自らアレルゲンを接種するように誘導した。
 ・・・これは計画的な犯罪だ。」
 大蒼たいせいが宙をにらんで爪を噛んだ。

「でも・・・。」

 ただならぬ雰囲気のなか、あたしはあることを思い出した。
 あたしは焦って新一しんいちに耳打ちしたの。

「菊子様はあたしの知る限り、アレルギーなんて無かったのよ。
 あたしは幼い時にハチに刺されて以来、ハチミツを食べたことがないから分からないけど。」

 すると新一しんいちは信じられないといった顔で、あたしをまじまじと見つめた。

「なら、話はもっと複雑だな。
 犯人が狙っているのは、かめ、お前自身だ。」

 



 

  
 

 
 
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