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#31 決意
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(麗さまが行方不明・・・⁉)
耳鳴りがざらざらと耳介の奥でうごめいて、血の気が失せた私の時間は止まってしまいました。
ようこの瞳の奥に映った自分の顔は、顔面蒼白で虚ろな亡霊のよう。
「私はなんとか麗さまの情報を得ようと艦隊の庶務主任に手紙を出し続けていたのですが、先日、わが家に電報が届いたのです。」
私はようこに手渡された電報を見た瞬間に立ち眩みを起こしてしまいました。
「アアッ。」
【ゴシキソウカン ノ ユクエ ワカラズ ソウサク ウチキリ】
私の頭の中は真っ白になり、手足が無意識にガクガクと震えます。
「みつきさま、お気を確かになさって!」
「うそ・・・。」
「お父さまのツテも使って、なんとか捜索を再開してほしいと嘆願書を出してもらったのですが、未だ受理されていません。
麗さまは国境付近を巡回する偵察船に軍医として同乗していたそうなので、もしや敵国船と戦闘になり拉致されたということも視野に入れているのですが・・・。」
私はすぐさまにカーテンを翻して外套を羽織ると、旅行カバンに手当たりしだいの物を詰めこみました。
「どうされたの、みつきさま!」
「今すぐに麗さまを探しに行くわ・・・!」
「落ち着いて、落ち着いて!」
ようこは私の手に自分の手を重ねて諌めました。
「よくお聞きになって。【行方不明】は死んだということではありません。
みつきさま一人が目印のない海に出たところで、何ができるというの?」
「だって、だって!!」
苦しい 苦しい 苦しい
私の情緒はもう限界。
どうにもできない状態です。
柔かい蜂蜜色の髪や白い肌、目尻の泣きぼくろや薄紫色のオッドアイ。
麗さまに触れられた感触さえ、昨日のことのようにありありと思い出すことができるのに。
私の世界から麗さまが消えるなんてこと、許容できるはずもありません!
「麗さまがいなくなられたら・・・私も海に飛びこみます。」
パン!
乾いた破裂音が部屋に響きわたりました。
私は驚いてようこを見ました。
ようこが、私の頬を平手で打ったのです。
「麗さまを愛しているのでしたら、最後まで信じなくてはダメよ!!
少なくとも、訃報を聞いてからにして・・・!」
私はうなだれて反省しました。
打たれた頬が赤みを帯び、ジンジンと熱をもって痛むのですが、その痛みのおかげで頭の中がスッと冷静になれたのです。
「麗さまは必ずみつきさまの元へ帰られますわ。
みつきさまに信じてもらえないのは、麗さまが可哀想。
それまでは、みつきさまは公爵家にいた方が懸命です。
今は辛いかもしれせんが、必ずようこが何とかしますから、もうしばらくお待ちになって。」
「ありがとう、ようこ。あなたが親友で良かったわ・・・!」
「永遠に、ようこはみつきさまの味方です。」
私たちはカーテンの中に戻るとお互いを抱き、声をおし殺して号泣しました。
それは今までの私たちの【シスタア同士の抱擁】ではなく、【個人としての尊重と依存】という構図になっていることに、私はその時は気づきませんでした。
※
ようこが公爵邸を訪れたきっかり一週間後、私と紘次郎の婚約パーティーが帝国ホテルで執り行われることになりました。
その日は朝から曇天模様で、時おり小雨が打ちつける肌寒い日でした。
遠雷の青い稲妻が雲の隙間に細く見えて、ちょうど玄関口から歩いて車寄せへと歩いていたひな子と私は、「キャッ!」と甲高い悲鳴をあげて飛びあがるお互いの身体を支えました。
「あいにくの天気で小憎らしいですわね。今夜は嵐になるとか。」
「これ以上、あまりひどくならなければ良いのだけど。」
私は今にも崩れ落ちそうな黒く張りだした雲を見上げました。
ひな子は私の白いドレスの裾が汚れないように持ち上げながら、車の後部座席のドアを開けてくれました。
耳鳴りがざらざらと耳介の奥でうごめいて、血の気が失せた私の時間は止まってしまいました。
ようこの瞳の奥に映った自分の顔は、顔面蒼白で虚ろな亡霊のよう。
「私はなんとか麗さまの情報を得ようと艦隊の庶務主任に手紙を出し続けていたのですが、先日、わが家に電報が届いたのです。」
私はようこに手渡された電報を見た瞬間に立ち眩みを起こしてしまいました。
「アアッ。」
【ゴシキソウカン ノ ユクエ ワカラズ ソウサク ウチキリ】
私の頭の中は真っ白になり、手足が無意識にガクガクと震えます。
「みつきさま、お気を確かになさって!」
「うそ・・・。」
「お父さまのツテも使って、なんとか捜索を再開してほしいと嘆願書を出してもらったのですが、未だ受理されていません。
麗さまは国境付近を巡回する偵察船に軍医として同乗していたそうなので、もしや敵国船と戦闘になり拉致されたということも視野に入れているのですが・・・。」
私はすぐさまにカーテンを翻して外套を羽織ると、旅行カバンに手当たりしだいの物を詰めこみました。
「どうされたの、みつきさま!」
「今すぐに麗さまを探しに行くわ・・・!」
「落ち着いて、落ち着いて!」
ようこは私の手に自分の手を重ねて諌めました。
「よくお聞きになって。【行方不明】は死んだということではありません。
みつきさま一人が目印のない海に出たところで、何ができるというの?」
「だって、だって!!」
苦しい 苦しい 苦しい
私の情緒はもう限界。
どうにもできない状態です。
柔かい蜂蜜色の髪や白い肌、目尻の泣きぼくろや薄紫色のオッドアイ。
麗さまに触れられた感触さえ、昨日のことのようにありありと思い出すことができるのに。
私の世界から麗さまが消えるなんてこと、許容できるはずもありません!
「麗さまがいなくなられたら・・・私も海に飛びこみます。」
パン!
乾いた破裂音が部屋に響きわたりました。
私は驚いてようこを見ました。
ようこが、私の頬を平手で打ったのです。
「麗さまを愛しているのでしたら、最後まで信じなくてはダメよ!!
少なくとも、訃報を聞いてからにして・・・!」
私はうなだれて反省しました。
打たれた頬が赤みを帯び、ジンジンと熱をもって痛むのですが、その痛みのおかげで頭の中がスッと冷静になれたのです。
「麗さまは必ずみつきさまの元へ帰られますわ。
みつきさまに信じてもらえないのは、麗さまが可哀想。
それまでは、みつきさまは公爵家にいた方が懸命です。
今は辛いかもしれせんが、必ずようこが何とかしますから、もうしばらくお待ちになって。」
「ありがとう、ようこ。あなたが親友で良かったわ・・・!」
「永遠に、ようこはみつきさまの味方です。」
私たちはカーテンの中に戻るとお互いを抱き、声をおし殺して号泣しました。
それは今までの私たちの【シスタア同士の抱擁】ではなく、【個人としての尊重と依存】という構図になっていることに、私はその時は気づきませんでした。
※
ようこが公爵邸を訪れたきっかり一週間後、私と紘次郎の婚約パーティーが帝国ホテルで執り行われることになりました。
その日は朝から曇天模様で、時おり小雨が打ちつける肌寒い日でした。
遠雷の青い稲妻が雲の隙間に細く見えて、ちょうど玄関口から歩いて車寄せへと歩いていたひな子と私は、「キャッ!」と甲高い悲鳴をあげて飛びあがるお互いの身体を支えました。
「あいにくの天気で小憎らしいですわね。今夜は嵐になるとか。」
「これ以上、あまりひどくならなければ良いのだけど。」
私は今にも崩れ落ちそうな黒く張りだした雲を見上げました。
ひな子は私の白いドレスの裾が汚れないように持ち上げながら、車の後部座席のドアを開けてくれました。
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