27 / 38
#27 ずっとこうしたかった
しおりを挟む
雷で打たれたかのような衝撃。
あまりの非常事態に、私は気が動転してどうにかなってしまいそうです。
「私・・・帰らなきゃ。」
ソファの手すりにすがりつつ、ようやく立ちあがった私の手を紘次郎が捕えました。
いつも私を壊れ物のように優しく扱う紘次郎が、今日は無遠慮なまでに大きな手に力を込めるのです。
「帰るって、どこに?
ここがあなたのおうちなのに。」
「離して。
私はもう、麗さまのものなのです。」
紘次郎は私を引き寄せると、その胸に強く抱きました。
テーブルの上の茶器が、私の膝がぶつかった振動でガチャッと耳障りな音を立てます。
「な、何をするの?」
「どこにも行かせない。
もう私は、二度とみつきを手放したりしません。」
「紘次郎、痛いわ。」
紘次郎は全く私の話を聞く耳を持たず、なおさら私をキツく抱きしめます。
(怖い!)
私は次から次に巻き起こる事態に思考が止まり、ただただ、ここから逃げ出したい気持ちでいっぱいになりました。
紘次郎への信頼は脆く崩れ、私の頭の中を支配するのは今だかつて感じたことのない恐怖心でした。
「ずっと、みつきが好きでした。」
突然の告白。
うずくようなかすれた囁き声が耳元に届き、私は紘次郎を仰ぎ見ました。
「冗談・・・よね?」
何もかも冗談で、私をからかっただけだと言ってほしい。
私のささやかな願いは、一笑に付されました。
「みつきは私にしか触れることができないのですから、私たちが結ばれるのは自然なことでしょう。」
「わ、私たちは、親戚ですわ。血がつながっておりましてよ。」
「薄い血のつながりが何だというのですか? いとこだって結婚できるんですよ。
それとも、私のことがお嫌いですか?」
「紘次郎のことは・・・嫌いではないわ。
でも、私の真に愛しい人は麗さまなの。」
「ハッ、【真に愛しい】?
あんな女装趣味の変態男のことが?」
「なぜ、そのことを・・・!」
「【猿渡うらら】を調べていたら、偶然【麗さまのいとこ】と名乗る女性にお会いしたのです。
秘密はすべて共有したんですよ。」
私はうららの美しくも邪悪な笑みを思い出して、ゾクッとしました。
「天下の帝国海軍の少尉が、女装趣味だなんて面白い特報記事ですよね。
しかもその妻が公爵令嬢だなんて、悪趣味な三流小説のようだ。
世間の笑いものになるのは五色家だけで十分でしょう。」
「ひどいわ。」
あまりの暴言に吐き気がぶり返します。
「ひどいのはみつきだ。」
紘次郎は切なげに眉根を寄せて、私の頬に両手で触れました。
「私の気持ちを知ろうともせずに、自由気ままに振舞ってきたじゃないですか。これはその代償ですよ。
それにどうせ、戦局が進めば軍人は最前線に駆り出されて会えなくなる。
もう、忘れてしまいなさい。
昔も今も、みつきの隣は私だけのものだ。」
そう言うと、紘次郎は私に顔を寄せました。
キス・・・される・・・⁉
「イヤッ!」
私は驚いて紘次郎に抗いました。
でも男性の力に敵うはずもなく、すぐに私は紘次郎の腕の中に囚われます。
「もう、離しません。
ずっと、あなたを想ってきた。
ずっと、こうしたかった。」
貪るように私に覆いかぶさる紘次郎。
私は手足を滅茶苦茶に振り回して暴れました。
「やめて!」
「・・・そんなに、私を受け入れるのが嫌なのか。」
傷ついた顔の紘次郎が私から離れると、ホッとしながらも私も胸が痛くなりました。
「・・・ごめんなさい。」
「許さない。」
返答した紘次郎のいつもの温和な口調と紳士な態度は、どこにもありませんでした。
私を睨む形相はゾクッとするほど冷酷で、恐ろしい雰囲気を醸し出しています。
「あなたは私だけの理想の令嬢です。逃がすものか。」
紘次郎がそう言い捨てて部屋を出たあと、外から鍵がかかる金属音がしました。
「何をするの、紘次郎⁉」
「もとに戻るまで、みつきさまには矯正治療が必要です。
正しい認識が出せるまで、この部屋から出ることは禁止します。」
「正しい認識ですって・・・⁉」
扉の向こうから紘次郎が部屋から遠ざかる足音が響き、私は膝から崩れ落ちました。
あまりの非常事態に、私は気が動転してどうにかなってしまいそうです。
「私・・・帰らなきゃ。」
ソファの手すりにすがりつつ、ようやく立ちあがった私の手を紘次郎が捕えました。
いつも私を壊れ物のように優しく扱う紘次郎が、今日は無遠慮なまでに大きな手に力を込めるのです。
「帰るって、どこに?
ここがあなたのおうちなのに。」
「離して。
私はもう、麗さまのものなのです。」
紘次郎は私を引き寄せると、その胸に強く抱きました。
テーブルの上の茶器が、私の膝がぶつかった振動でガチャッと耳障りな音を立てます。
「な、何をするの?」
「どこにも行かせない。
もう私は、二度とみつきを手放したりしません。」
「紘次郎、痛いわ。」
紘次郎は全く私の話を聞く耳を持たず、なおさら私をキツく抱きしめます。
(怖い!)
私は次から次に巻き起こる事態に思考が止まり、ただただ、ここから逃げ出したい気持ちでいっぱいになりました。
紘次郎への信頼は脆く崩れ、私の頭の中を支配するのは今だかつて感じたことのない恐怖心でした。
「ずっと、みつきが好きでした。」
突然の告白。
うずくようなかすれた囁き声が耳元に届き、私は紘次郎を仰ぎ見ました。
「冗談・・・よね?」
何もかも冗談で、私をからかっただけだと言ってほしい。
私のささやかな願いは、一笑に付されました。
「みつきは私にしか触れることができないのですから、私たちが結ばれるのは自然なことでしょう。」
「わ、私たちは、親戚ですわ。血がつながっておりましてよ。」
「薄い血のつながりが何だというのですか? いとこだって結婚できるんですよ。
それとも、私のことがお嫌いですか?」
「紘次郎のことは・・・嫌いではないわ。
でも、私の真に愛しい人は麗さまなの。」
「ハッ、【真に愛しい】?
あんな女装趣味の変態男のことが?」
「なぜ、そのことを・・・!」
「【猿渡うらら】を調べていたら、偶然【麗さまのいとこ】と名乗る女性にお会いしたのです。
秘密はすべて共有したんですよ。」
私はうららの美しくも邪悪な笑みを思い出して、ゾクッとしました。
「天下の帝国海軍の少尉が、女装趣味だなんて面白い特報記事ですよね。
しかもその妻が公爵令嬢だなんて、悪趣味な三流小説のようだ。
世間の笑いものになるのは五色家だけで十分でしょう。」
「ひどいわ。」
あまりの暴言に吐き気がぶり返します。
「ひどいのはみつきだ。」
紘次郎は切なげに眉根を寄せて、私の頬に両手で触れました。
「私の気持ちを知ろうともせずに、自由気ままに振舞ってきたじゃないですか。これはその代償ですよ。
それにどうせ、戦局が進めば軍人は最前線に駆り出されて会えなくなる。
もう、忘れてしまいなさい。
昔も今も、みつきの隣は私だけのものだ。」
そう言うと、紘次郎は私に顔を寄せました。
キス・・・される・・・⁉
「イヤッ!」
私は驚いて紘次郎に抗いました。
でも男性の力に敵うはずもなく、すぐに私は紘次郎の腕の中に囚われます。
「もう、離しません。
ずっと、あなたを想ってきた。
ずっと、こうしたかった。」
貪るように私に覆いかぶさる紘次郎。
私は手足を滅茶苦茶に振り回して暴れました。
「やめて!」
「・・・そんなに、私を受け入れるのが嫌なのか。」
傷ついた顔の紘次郎が私から離れると、ホッとしながらも私も胸が痛くなりました。
「・・・ごめんなさい。」
「許さない。」
返答した紘次郎のいつもの温和な口調と紳士な態度は、どこにもありませんでした。
私を睨む形相はゾクッとするほど冷酷で、恐ろしい雰囲気を醸し出しています。
「あなたは私だけの理想の令嬢です。逃がすものか。」
紘次郎がそう言い捨てて部屋を出たあと、外から鍵がかかる金属音がしました。
「何をするの、紘次郎⁉」
「もとに戻るまで、みつきさまには矯正治療が必要です。
正しい認識が出せるまで、この部屋から出ることは禁止します。」
「正しい認識ですって・・・⁉」
扉の向こうから紘次郎が部屋から遠ざかる足音が響き、私は膝から崩れ落ちました。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?
もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。
王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト
悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる