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#22 睦みあう朝
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小鳥のさえずりが耳に優しいうららかな朝。
靄のかかった夢の中から覚醒した私は、重たいまぶたをゆっくりと開けました。
(あら、変ね。)
ボンヤリした視界に映るのは、スッキリとした杉の柾目が美しい和室の天井。
ここは、見慣れた私の洋室ではないようです。
「ここはどこかしら?」
記憶が混雑してしまいますが、すぐに自分が足入れ期間で侯爵家にいるのだということを思い出しました。
それにしても、今朝はいつもと勝手が違うよう。
首にゴロゴロした違和感があって、どうにも落ちつかない気がします。
まどろみながら寝返りをうつと・・・。
「⁉」
頭をガツンと殴られたような強い衝撃。
私の傍らに、半裸の麗さまが静かな寝息をたてて眠っているなんて‼
「⁉⁉」
しかも、違和感の正体は麗さまの腕。
なんと私は麗さまの腕をまくらにして寝ていたようなのです。
私は数秒の間、動けずに固まってしまいました。
(まだ夢の中・・・ではないわよね?)
深夜、森の離れに一緒に行った記憶はあるのですが、そのあとどうやって帰ってきたのかがすぐには思いだせません。
いったん目をつぶって記憶を紐といていくと、はしたなく興奮して癇癪を起こした自分の映像が、瞬時に脳裏にひらめきました。
「・・・ッ!!」
あのあと私・・・強引に麗さまを押したおして秘密の儀式をシて・・・麗さまにもサレて、それから唇に・・・。
「はぁ・・・なんてことを!」
思いだせずにいたほうが良かったわ!
羞恥心が最大値にまで達して汗が吹きだします。
深夜に私がシてしまったふるまいは、公爵令嬢たるものがするべきではありませんし、いつ婚約破棄されても文句は言えない愚かな行為。
もしこれが理由で家に帰されたら、私はお父さまや紘次郎に合わせる顔がありません。
私は必死にたかぶる気持ちの整理につとめました。
(それにしても・・・。)
顔を覆った指のすきまからコッソリと見ていたのですが、安らかな寝息をたてる麗さまの美しいこと・・・。
とても自分と同じ種類の人間とは思えません。
しかも、侯爵家に足入れしてから、こんなにも長くご一緒するのは初めてのことです。
【おねえさま】の写真一枚を毎日眺めてときめいていたころの自分に、こんな未来があることを教えてあげたいくらいです。
掛け布団から垣間見える白い首筋に、ひとすじの赤黒いあざが見えて、私はハッとしました。
(ああ、なんてこと! コレは私が噛んだ痕だわ。)
そのとき、部屋の襖の向こうから八重子の元気な声がしました。
「朝ですよ、みつきさま!
もう起きていらっしゃいますか?」
「は、はあい、今行きます。」
私は髪と浴衣の乱れを直すために立ち上がろうと中腰になりましたが、不意に布団から出てきた手に肩を引っ張られて尻もちをつきました。
「麗さま⁉」
麗さまはそのまま私を後ろからふわりと抱きかかえると、襖の向こうに聞こえるように話します。
「学校は、昼からにして。」
「エッ、坊ちゃまの声・・・⁉ 」
一瞬、息を飲むように呻いた八重子は、襖の向こうで咳ばらいをしました。
「コホン、そういうことですか。
夕方には花嫁修業もありますので、みつきさまをあまり疲れさせないでくださいね。」
パタパタと遠ざかる足音を聞きながら、麗さまの腕に抱かれていることに意識が集中してしまい、私の頭はジンジンと痺れています。
「あの・・・おはようございます。」
「まだ起きたくないから、おはようは言わないで。」
私をうしろから抱きかかえたまま布団に倒れた麗さまは「離れたくない」と甘えた声で私の耳に囁きました。
昨日のお酒の匂いが少し残っていて、麗さまの吐息は甘い香りがしました。
「でも、あの、朝餉とか学校が・・・。」
麗さまは私の肩を引き寄せて正対すると、潤んだオッドアイで見つめました。
「おねがい。一緒にいて。」
「・・・承知しました。」
麗さまのあざとい色気にクラクラしながら答えると、私の頬に麗さまが優しく口づけました。
「ありがとう。」
小鳥がエサをついばむように何度も柔かい唇が吸いついてきて、このままでは私の情緒が保てません。
「も、もう朝ですよ!」
「夜ならいいの?」
「そういうことではなくて・・・。」
麗さまが勝ち誇ったように言いました。
「雑にあつかってと言ったのは、みつきだよ。
何ならどこにも逃げないように、また縛っても良いかもね。」
以前のやり取りを再燃させるようなひと言に、私の頭が再びパニックになります。
「結婚までは夫婦の営みはしないという約束では・・・?」
「夫婦の予行練習はしなくちゃね。」
私の浴衣の腰紐を解き、手首を縛ろうとする麗さま。
これは冗談ではなさそうです。
「ふ、夫婦はヒモで自由を奪ってキスをするのですか?」
「そうだよ。
これはみつきのための練習だから、気を楽にしてね。」
(嘘つき!)
私はこころの中でか細く啼きました。
靄のかかった夢の中から覚醒した私は、重たいまぶたをゆっくりと開けました。
(あら、変ね。)
ボンヤリした視界に映るのは、スッキリとした杉の柾目が美しい和室の天井。
ここは、見慣れた私の洋室ではないようです。
「ここはどこかしら?」
記憶が混雑してしまいますが、すぐに自分が足入れ期間で侯爵家にいるのだということを思い出しました。
それにしても、今朝はいつもと勝手が違うよう。
首にゴロゴロした違和感があって、どうにも落ちつかない気がします。
まどろみながら寝返りをうつと・・・。
「⁉」
頭をガツンと殴られたような強い衝撃。
私の傍らに、半裸の麗さまが静かな寝息をたてて眠っているなんて‼
「⁉⁉」
しかも、違和感の正体は麗さまの腕。
なんと私は麗さまの腕をまくらにして寝ていたようなのです。
私は数秒の間、動けずに固まってしまいました。
(まだ夢の中・・・ではないわよね?)
深夜、森の離れに一緒に行った記憶はあるのですが、そのあとどうやって帰ってきたのかがすぐには思いだせません。
いったん目をつぶって記憶を紐といていくと、はしたなく興奮して癇癪を起こした自分の映像が、瞬時に脳裏にひらめきました。
「・・・ッ!!」
あのあと私・・・強引に麗さまを押したおして秘密の儀式をシて・・・麗さまにもサレて、それから唇に・・・。
「はぁ・・・なんてことを!」
思いだせずにいたほうが良かったわ!
羞恥心が最大値にまで達して汗が吹きだします。
深夜に私がシてしまったふるまいは、公爵令嬢たるものがするべきではありませんし、いつ婚約破棄されても文句は言えない愚かな行為。
もしこれが理由で家に帰されたら、私はお父さまや紘次郎に合わせる顔がありません。
私は必死にたかぶる気持ちの整理につとめました。
(それにしても・・・。)
顔を覆った指のすきまからコッソリと見ていたのですが、安らかな寝息をたてる麗さまの美しいこと・・・。
とても自分と同じ種類の人間とは思えません。
しかも、侯爵家に足入れしてから、こんなにも長くご一緒するのは初めてのことです。
【おねえさま】の写真一枚を毎日眺めてときめいていたころの自分に、こんな未来があることを教えてあげたいくらいです。
掛け布団から垣間見える白い首筋に、ひとすじの赤黒いあざが見えて、私はハッとしました。
(ああ、なんてこと! コレは私が噛んだ痕だわ。)
そのとき、部屋の襖の向こうから八重子の元気な声がしました。
「朝ですよ、みつきさま!
もう起きていらっしゃいますか?」
「は、はあい、今行きます。」
私は髪と浴衣の乱れを直すために立ち上がろうと中腰になりましたが、不意に布団から出てきた手に肩を引っ張られて尻もちをつきました。
「麗さま⁉」
麗さまはそのまま私を後ろからふわりと抱きかかえると、襖の向こうに聞こえるように話します。
「学校は、昼からにして。」
「エッ、坊ちゃまの声・・・⁉ 」
一瞬、息を飲むように呻いた八重子は、襖の向こうで咳ばらいをしました。
「コホン、そういうことですか。
夕方には花嫁修業もありますので、みつきさまをあまり疲れさせないでくださいね。」
パタパタと遠ざかる足音を聞きながら、麗さまの腕に抱かれていることに意識が集中してしまい、私の頭はジンジンと痺れています。
「あの・・・おはようございます。」
「まだ起きたくないから、おはようは言わないで。」
私をうしろから抱きかかえたまま布団に倒れた麗さまは「離れたくない」と甘えた声で私の耳に囁きました。
昨日のお酒の匂いが少し残っていて、麗さまの吐息は甘い香りがしました。
「でも、あの、朝餉とか学校が・・・。」
麗さまは私の肩を引き寄せて正対すると、潤んだオッドアイで見つめました。
「おねがい。一緒にいて。」
「・・・承知しました。」
麗さまのあざとい色気にクラクラしながら答えると、私の頬に麗さまが優しく口づけました。
「ありがとう。」
小鳥がエサをついばむように何度も柔かい唇が吸いついてきて、このままでは私の情緒が保てません。
「も、もう朝ですよ!」
「夜ならいいの?」
「そういうことではなくて・・・。」
麗さまが勝ち誇ったように言いました。
「雑にあつかってと言ったのは、みつきだよ。
何ならどこにも逃げないように、また縛っても良いかもね。」
以前のやり取りを再燃させるようなひと言に、私の頭が再びパニックになります。
「結婚までは夫婦の営みはしないという約束では・・・?」
「夫婦の予行練習はしなくちゃね。」
私の浴衣の腰紐を解き、手首を縛ろうとする麗さま。
これは冗談ではなさそうです。
「ふ、夫婦はヒモで自由を奪ってキスをするのですか?」
「そうだよ。
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