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#18 シスタアの資格
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「そっ、それで、足入れしたその日は麗さまと一夜を共にされたのですかッ⁉」
興奮して口のはしから泡を吹くようこの唇に、私は人さし指をあてました。
女学院に併設されているドーム型の天文台の陰。
午睡に誘うぬるい風が吹くこの場所で、私たちは教室では話せないような秘密のお喋りをしています。
「落ち着いて、ようこ。麗さまと寝所は別よ。」
「ハァ・・・良かったぁ。」
ようこは胸を撫でおろして大きな深呼吸をしました。
「麗さまって見た目はアレですけど、中身は紳士なのですね。」
「アレってなあに? 麗さまは見た目も中身も素敵よ。」
「みつきさまの口から殿方を褒める形容詞を聞くなんて、世も末ですわ。」
確かにようこの言う通りですが、それはあくまでも麗さまが女装している時だけの話。麗さまだと分かっていても、男性らしさを出してくると気持ちが萎縮してしまうのは変わっていません。
私は密かに苦笑いをしました。
「それにしても水くさいですわ、みつきさま。
足入れする前にひと言、ようこにご相談をしていただきたかったのに!」
ようこは頬を膨らませると、私の膝をスカートごしに軽くつねりました。
私は少しためらいましたが、思いきって言いました。
「だって、最近のあなたは勉強に忙しそうだったから。」
「このようこが、勉強?」
ようこが丸い瞳をパチクリと瞬いて、ポカンと口を開けました。
「だ、だって、放課後はいつも忙しそうに帰っていらしたじゃないの。」
「・・・ひょっとしてみつきさま、お寂しかったのですか?」
「ええ、とても。」
ようこは目を伏せてクスリと笑いました。
「嬉しい。たまには追いかけられるのも悪くありませんね。」
追いかけられる?
どういう意味か聞き返そうとしましたが、ようこが切り出した言葉に私は息を飲みました。
「実は私、文芸大会の時にみつきさまを突き落とした【老婆役の少女の行方】を探っていたのです。」
そうだったの・・・。
文芸大会のあとは麗さまのことで頭がいっぱいだったし足もくじいた程度でしたから、舞台から突き落とされたことは忘れていました。
「あの老婆役は二組の松本様だったのに、直前で何者かに交替を脅迫されたらしいのです。」
「脅迫?」
「しかも弱みにつけこまれて脅されて、鍵のかかる部屋に閉じ込められたんですって。
普通の令嬢のしわざではありませんわ。」
「あなたこそ水くさいじゃないの。」
私はわざと頬を膨らませてみせました。
「私に関わることを調べていたのなら、なぜもっと早く言ってくださらなかったの?」
「ハッキリとした証拠が無かったのと、松本様が不名誉なことだからとなかなか真実を話してくださらなかったからです。」
「それで、松本様は犯人について何ておっしゃっていたの?」
「【猿渡】と名乗る女性徒でモデルのような美人だったとか。どうもアッサム女学院の生徒ではないようです。」
【猿渡】と聞いて、私は嫌な気持ちになりました。
麗さまがうららおねえさまを名乗る時【猿渡】の姓を使うのです。
もしかしたら麗さまと何らかの関係があるのでしょうか?
そういえばあの時、老婆役の少女は麗さまの名前を呼んだような気もします。
ようこは私の顔色が変わったことに気がついたようです。
「たしか、みつきさまの文通相手のうららさまの苗字も【猿渡】でしたね。
白亜岬の件のことといい、関係ないとは言い切れないと思います。」
「分かったわ。私からもおねえさまに聞いてみます。」
それから、私はようこの肩を抱くと耳元で「ありがとう」と囁きました。
ようこの白い喉が太陽に晒されてじわりと汗ばんで見えます。
私はその熱い首元に歯を立てました。
いつもの弾力に満ちた、赤ちゃんのような肌。
いつもの友情を確かめ合う【秘密の儀式】
なぜでしょう。
私はいつもより、深くその首を噛めずに口を離してしまいました。
「みつきさま?」
ようこはトロンとした顔で私を見ています。
「ご、ごめんなさい。そういえば次の授業の用意がまだだったの。
急いで教室に戻りましょう。」
「エッ?」
私は強引にようこの手を引くと、天文台の階段をかけおりました。
お互いの首を噛む行為はシスタア同士の【秘密の儀式】なのに、私は男性のときの麗さまの首に歯を当てた、悪い女です。
その時の快感とようこへの罪悪感が、私を翻弄します。
もう自分には、シスタアとしての資格がなくなってしまったような気がしているのです。
【エス】のかみさま、懺悔させてください・・・。
私はこれからどうしたらいいの?
興奮して口のはしから泡を吹くようこの唇に、私は人さし指をあてました。
女学院に併設されているドーム型の天文台の陰。
午睡に誘うぬるい風が吹くこの場所で、私たちは教室では話せないような秘密のお喋りをしています。
「落ち着いて、ようこ。麗さまと寝所は別よ。」
「ハァ・・・良かったぁ。」
ようこは胸を撫でおろして大きな深呼吸をしました。
「麗さまって見た目はアレですけど、中身は紳士なのですね。」
「アレってなあに? 麗さまは見た目も中身も素敵よ。」
「みつきさまの口から殿方を褒める形容詞を聞くなんて、世も末ですわ。」
確かにようこの言う通りですが、それはあくまでも麗さまが女装している時だけの話。麗さまだと分かっていても、男性らしさを出してくると気持ちが萎縮してしまうのは変わっていません。
私は密かに苦笑いをしました。
「それにしても水くさいですわ、みつきさま。
足入れする前にひと言、ようこにご相談をしていただきたかったのに!」
ようこは頬を膨らませると、私の膝をスカートごしに軽くつねりました。
私は少しためらいましたが、思いきって言いました。
「だって、最近のあなたは勉強に忙しそうだったから。」
「このようこが、勉強?」
ようこが丸い瞳をパチクリと瞬いて、ポカンと口を開けました。
「だ、だって、放課後はいつも忙しそうに帰っていらしたじゃないの。」
「・・・ひょっとしてみつきさま、お寂しかったのですか?」
「ええ、とても。」
ようこは目を伏せてクスリと笑いました。
「嬉しい。たまには追いかけられるのも悪くありませんね。」
追いかけられる?
どういう意味か聞き返そうとしましたが、ようこが切り出した言葉に私は息を飲みました。
「実は私、文芸大会の時にみつきさまを突き落とした【老婆役の少女の行方】を探っていたのです。」
そうだったの・・・。
文芸大会のあとは麗さまのことで頭がいっぱいだったし足もくじいた程度でしたから、舞台から突き落とされたことは忘れていました。
「あの老婆役は二組の松本様だったのに、直前で何者かに交替を脅迫されたらしいのです。」
「脅迫?」
「しかも弱みにつけこまれて脅されて、鍵のかかる部屋に閉じ込められたんですって。
普通の令嬢のしわざではありませんわ。」
「あなたこそ水くさいじゃないの。」
私はわざと頬を膨らませてみせました。
「私に関わることを調べていたのなら、なぜもっと早く言ってくださらなかったの?」
「ハッキリとした証拠が無かったのと、松本様が不名誉なことだからとなかなか真実を話してくださらなかったからです。」
「それで、松本様は犯人について何ておっしゃっていたの?」
「【猿渡】と名乗る女性徒でモデルのような美人だったとか。どうもアッサム女学院の生徒ではないようです。」
【猿渡】と聞いて、私は嫌な気持ちになりました。
麗さまがうららおねえさまを名乗る時【猿渡】の姓を使うのです。
もしかしたら麗さまと何らかの関係があるのでしょうか?
そういえばあの時、老婆役の少女は麗さまの名前を呼んだような気もします。
ようこは私の顔色が変わったことに気がついたようです。
「たしか、みつきさまの文通相手のうららさまの苗字も【猿渡】でしたね。
白亜岬の件のことといい、関係ないとは言い切れないと思います。」
「分かったわ。私からもおねえさまに聞いてみます。」
それから、私はようこの肩を抱くと耳元で「ありがとう」と囁きました。
ようこの白い喉が太陽に晒されてじわりと汗ばんで見えます。
私はその熱い首元に歯を立てました。
いつもの弾力に満ちた、赤ちゃんのような肌。
いつもの友情を確かめ合う【秘密の儀式】
なぜでしょう。
私はいつもより、深くその首を噛めずに口を離してしまいました。
「みつきさま?」
ようこはトロンとした顔で私を見ています。
「ご、ごめんなさい。そういえば次の授業の用意がまだだったの。
急いで教室に戻りましょう。」
「エッ?」
私は強引にようこの手を引くと、天文台の階段をかけおりました。
お互いの首を噛む行為はシスタア同士の【秘密の儀式】なのに、私は男性のときの麗さまの首に歯を当てた、悪い女です。
その時の快感とようこへの罪悪感が、私を翻弄します。
もう自分には、シスタアとしての資格がなくなってしまったような気がしているのです。
【エス】のかみさま、懺悔させてください・・・。
私はこれからどうしたらいいの?
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