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#4 カーテンの中の秘めごと
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ようこは、おねえさまから来た最新の手紙と一年前の手紙の二通を机の上に並べました。
「みつきさまには、この二つの手紙の字体の違いがお分かりになりますか?」
私も虫眼鏡で拡大した文字をじっくりと見てみましたが、どちらも同じような字体に見えます。
「分からないわ。どちらもそっくりだもの。」
「では、こうするとどうでしょう。」
ようこはさんさんと陽射しが降りそそぐ教室の窓ガラスに、二枚の手紙を重ねて貼りました。
確かにこうすると、紙が透けて字が透過するので、字体を比べることが可能です。
よくよく見てみると、同じ文字なのに違和感が・・・。
「これなら私にも分かるわ。この【を】という字ね。」
「そうなんです。
この【を】という字はクッキリ離して書いているものと、続けてひと筆書きのように書いてあるものがありますね。こちらの【さ】も同様です。」
教師のように赤鉛筆の先で手紙の疑わしい箇所にマルを入れると、ようこは眉間にしわを寄せました。
「もし一年前に初めて来た手紙がうららさま本人であるとするならば・・・。」
ようこはマルで添削された手紙をピシッと私の目の前につき出しました。
「直近で来た【心中】をそそのかす文章の手紙の書き手は、【本人の筆跡をマネした別人】であると言わざるをえないと思います。」
「それが、あの断崖にいた女性のしわざだということ?」
「あくまでも想像でしかないのですが、そうかもしれませんね。
女性はうららさまとみつきさまに横恋慕したあげく、うららさまを装って【心中計画】の手紙を投函し、みつきさまを断崖におびき寄せて二人の仲を引き裂こうとしたとか・・・?」
「スゴイ推理だわ。 あなた、探偵におなりなさいよ。」
「最近、シャーロック・ホームズにハマっていますの。」
私が感嘆の声をあげると、ようこはパイプをくわえるマネをしておどけてみせました。
私はようこの推理に興奮しながらも、不安はぬぐい切れませんでした。
断崖であの女性に面と向かって言われた「心中は本気じゃなかったんでしょう」という言葉が頭から離れなかったからです。
「おねえさまはあの女性を使って私の【純愛】を試したということはないかしら?」
不安を口に出すと胸がキュッと苦しくなりました。
むしろ、おねえさまの意思でこのような仕打ちをされたなら、この恋も諦めがつくというものです。
そんな私を見て、ようこはキッパリとこう言いました。
「放課後、この手紙に書かれている住所に出向きましょう。本人にお会いして、直接本音を聞き出すのです。」
「ええッ、それは失礼よ。」
私はうろたえました。
「お約束もしていないのに、無理におうちまで押しかけるというの?
そんな出過ぎたこと、私にはできないわ。」
「はしたなくても良いではないですか。どうせ私たちはカゴの鳥。
女学院を出たら顔も知らぬ殿方との望まぬ結婚を強いられて、家の跡継ぎを産むためだけに囲われて生きる運命。
今、この時にしか崇高なる恋の炎は燃やせないのです。」
はしたなくても良い―。それは青天の霹靂。
私の心をしっかりとわし掴みにしました。
同い年のようこが、今ははるか年上のおねえさまに見えます。
ただ、私はおねえさまに会いたい気持ちと裏腹に、絶対に開けてはいけないパンドラの箱に手をかけてしまったような、言い知れぬ後ろめたさも感じていました。
「心細ければ、私もお供しますよ!」
花見にでもついて行くというように、ようこは明るく笑います。
親友が隣にいれば心強い。それは嬉しい申し出でした。
ただ、日ごろから優柔不断な私は、いつもこうやって誰かに物ごとを決めて頂いているのです。
このままでは私はいつまでたっても一人では何もできない、手のかかる大きな赤ちゃんです。
「ありがとう。でも、私ひとりで行けるから大丈夫よ。」
私は思い切ってようこに言いました。
「あなたの友情に感謝するわ。」
そして私たちは再びカーテンの中に戻ると肩を寄せ合いました。
それから、お互いの首筋に軽く歯を当てたのです。
私は深く感謝をしたので、ようこよりも強く、長く歯を立ててしまいました。
ようこの小さな身体がビクッと敏感に反応して、私はパッと身体を離しました。
「ごめんね、痛かったかしら?」
ようこは大きな瞳に涙をためて恥じらいました。
「私のみつきさま・・・好き。」
これが、人には言えない私たちだけの、密やかな友情の儀式でした。
可愛いようこの頭をなでながら、私はうららおねえさまの姿を思い浮かべておりました。
もし、おねえさまに会えたらこの儀式を私にもシてほしい・・・。
ようこが相手でもドキドキするのに、愛するおねえさまに噛まれたとしたら、どんなに愛しく狂おしくなるでしょう・・・。
そう思うと私の身体はゾクゾクして、胸の奥に甘やかな微熱を持つのでした。
「みつきさまには、この二つの手紙の字体の違いがお分かりになりますか?」
私も虫眼鏡で拡大した文字をじっくりと見てみましたが、どちらも同じような字体に見えます。
「分からないわ。どちらもそっくりだもの。」
「では、こうするとどうでしょう。」
ようこはさんさんと陽射しが降りそそぐ教室の窓ガラスに、二枚の手紙を重ねて貼りました。
確かにこうすると、紙が透けて字が透過するので、字体を比べることが可能です。
よくよく見てみると、同じ文字なのに違和感が・・・。
「これなら私にも分かるわ。この【を】という字ね。」
「そうなんです。
この【を】という字はクッキリ離して書いているものと、続けてひと筆書きのように書いてあるものがありますね。こちらの【さ】も同様です。」
教師のように赤鉛筆の先で手紙の疑わしい箇所にマルを入れると、ようこは眉間にしわを寄せました。
「もし一年前に初めて来た手紙がうららさま本人であるとするならば・・・。」
ようこはマルで添削された手紙をピシッと私の目の前につき出しました。
「直近で来た【心中】をそそのかす文章の手紙の書き手は、【本人の筆跡をマネした別人】であると言わざるをえないと思います。」
「それが、あの断崖にいた女性のしわざだということ?」
「あくまでも想像でしかないのですが、そうかもしれませんね。
女性はうららさまとみつきさまに横恋慕したあげく、うららさまを装って【心中計画】の手紙を投函し、みつきさまを断崖におびき寄せて二人の仲を引き裂こうとしたとか・・・?」
「スゴイ推理だわ。 あなた、探偵におなりなさいよ。」
「最近、シャーロック・ホームズにハマっていますの。」
私が感嘆の声をあげると、ようこはパイプをくわえるマネをしておどけてみせました。
私はようこの推理に興奮しながらも、不安はぬぐい切れませんでした。
断崖であの女性に面と向かって言われた「心中は本気じゃなかったんでしょう」という言葉が頭から離れなかったからです。
「おねえさまはあの女性を使って私の【純愛】を試したということはないかしら?」
不安を口に出すと胸がキュッと苦しくなりました。
むしろ、おねえさまの意思でこのような仕打ちをされたなら、この恋も諦めがつくというものです。
そんな私を見て、ようこはキッパリとこう言いました。
「放課後、この手紙に書かれている住所に出向きましょう。本人にお会いして、直接本音を聞き出すのです。」
「ええッ、それは失礼よ。」
私はうろたえました。
「お約束もしていないのに、無理におうちまで押しかけるというの?
そんな出過ぎたこと、私にはできないわ。」
「はしたなくても良いではないですか。どうせ私たちはカゴの鳥。
女学院を出たら顔も知らぬ殿方との望まぬ結婚を強いられて、家の跡継ぎを産むためだけに囲われて生きる運命。
今、この時にしか崇高なる恋の炎は燃やせないのです。」
はしたなくても良い―。それは青天の霹靂。
私の心をしっかりとわし掴みにしました。
同い年のようこが、今ははるか年上のおねえさまに見えます。
ただ、私はおねえさまに会いたい気持ちと裏腹に、絶対に開けてはいけないパンドラの箱に手をかけてしまったような、言い知れぬ後ろめたさも感じていました。
「心細ければ、私もお供しますよ!」
花見にでもついて行くというように、ようこは明るく笑います。
親友が隣にいれば心強い。それは嬉しい申し出でした。
ただ、日ごろから優柔不断な私は、いつもこうやって誰かに物ごとを決めて頂いているのです。
このままでは私はいつまでたっても一人では何もできない、手のかかる大きな赤ちゃんです。
「ありがとう。でも、私ひとりで行けるから大丈夫よ。」
私は思い切ってようこに言いました。
「あなたの友情に感謝するわ。」
そして私たちは再びカーテンの中に戻ると肩を寄せ合いました。
それから、お互いの首筋に軽く歯を当てたのです。
私は深く感謝をしたので、ようこよりも強く、長く歯を立ててしまいました。
ようこの小さな身体がビクッと敏感に反応して、私はパッと身体を離しました。
「ごめんね、痛かったかしら?」
ようこは大きな瞳に涙をためて恥じらいました。
「私のみつきさま・・・好き。」
これが、人には言えない私たちだけの、密やかな友情の儀式でした。
可愛いようこの頭をなでながら、私はうららおねえさまの姿を思い浮かべておりました。
もし、おねえさまに会えたらこの儀式を私にもシてほしい・・・。
ようこが相手でもドキドキするのに、愛するおねえさまに噛まれたとしたら、どんなに愛しく狂おしくなるでしょう・・・。
そう思うと私の身体はゾクゾクして、胸の奥に甘やかな微熱を持つのでした。
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