4 / 5
4
しおりを挟むそこで行われていたのは、姦通でした。
雑木林がざわめく暗がりの奥でしたので、はっきりと目撃したわけではありません。
道すがらに片方だけ下駄が転がっておりまして、何となしにふと顔を上げてみると、地べたに組み伏せられた着物姿の女性が、つま先立ちでがに股を広げているではありませんか。
天狗のお面をかぶった白装束の者たちが、鼻を突き合わせて一人の女を囲んでいます。
ある者は後ろから羽交い締め、またある者は太ももを抱きかかえといった格好です。乳房を揉まれるわ、肉棒を突っ込まれるわ、それはもう無茶苦茶な有り様でした。
ですが、その女性が恥をかかぬためにも、乱暴でなかったことだけは申し上げておきます。
かわるがわる贔屓を求める若衆にいささか窮しておりましたものの、みずから裳裾をまくってお尻を突き出し、左右それぞれの手でしっかりと殿方のお持ち物を握っておられました。
「見てはいけません」
私はとっさに袖をひるがえして、坊ちゃんのお顔に目隠しをしました。しーっと指を立てて、草むらに身をかがめます。
「でも、和子さん……」
口をつぐんで耳をすましてみると、吐息まじりのあえぎ声が聞こえてきます。それがまた、黙っているうちにだんだんと激しくなっていくのです。
嫌よ嫌よと恥じらいながらも、とても芝居とは思えませんでした。相手を喜ばせるための声と、自分が感じるための声と、両方が入りまじっていました。
けれども私はともかくとして、坊ちゃんはまだうぶな男の子ですから、そんなことはまるで見当もつきません。
「助けを呼びに行かなくちゃ」
私の言うことを聞かずに、腕を振りほどいて駆け出そうとします。
「こら、お待ちなさいったら」
私は、あわてて坊ちゃんの手首をつかんで引き留めました。身動きができないようにきつく抱きしめます。
その時ふと、こう思ったのです。
この子にキスをしてしまいたいと。
「和子さん……!?」
私は、坊ちゃんのほっぺたを手のひらで挟んで接吻しました。
一度目は、はっと我に返ってすぐに唇を離しました。ですが、二度目はもっと強く吸いつきました。口の周りがよだれまみれになるほどに。
なぜそんなハレンチな行為に及んだのか、自分でもよくわかりません。坊ちゃんのつぶらな目を見つめているうちに、どうしても我慢できなくなったのです。
「んんっ……!」
突然の出来事にびっくりして全身をこわばらせた坊ちゃんは、むっと唇を結んだまま食まれるのを拒みます。
両腕を突っ張って私のことを押しのけたあと、まるでつばでも吐き捨てるかのように、手の甲でごしごしと口紅をぬぐいます。
「やめてよ、和子さん……」
その言葉で、私はひどく傷つきました。
そして、もう一度口づけを求めました。
「――好きよ、坊ちゃん」
私は、あらためて坊ちゃんに対して自分の気持ちを伝えました。もはや秘密を隠しておくことができませんでした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
照と二人の夫
三矢由巳
歴史・時代
江戸時代中期、家老の娘照(てる)は、十も年上の吝嗇な男孫右衛門と祝言を挙げる。だが、実家の事情で離縁せざるを得なくなる。そんな彼女に思いを寄せていたのは幼馴染の清兵衛だった。
ムーンライトノベルズの「『香田角の人々』拾遺」のエピソードを増補改訂したものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
戦国三法師伝
kya
歴史・時代
歴史物だけれども、誰にでも見てもらえるような作品にしていこうと思っています。
異世界転生物を見る気分で読んでみてください。
本能寺の変は戦国の覇王織田信長ばかりではなく織田家当主織田信忠をも戦国の世から葬り去り、織田家没落の危機を迎えるはずだったが。
信忠が子、三法師は平成日本の人間が転生した者だった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる