エロサーガ 童貞と処女の歌

鍋雪平

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第七章「セックス」

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 クライオは、矢筒を背負ったまま弓をからげて、山間の谷底を流れる川で水を汲む。つづら折りの曲がりくねった石段を辿りながら、毎朝欠かさず霊峰へ足を運ぶ。
「ああっ、女神様……」
 焚き火に薪をくべて祭壇の炎を拝んだあと、両手でぎゅっと雑巾をしぼり、台座に据えられた女神像を清める。
「なんて美しいんだ……。ものすごく興奮してしまう……」
 大理石の巨岩から削り出された実寸大の石像だった。儚げな微笑をたたえる顔の造形。豊満な体型ながらも細くくびれた理想的な頭身のバランス。人肌を思わせるしなやかな曲線と、継ぎ目のないなめらかな触り心地。
 とくに衣からはだけた胸乳の谷間や、あえて不自然な姿勢をした腰つきなどは、いかにもなまめかしい女性的な特徴が見事に表現されている。
「もしかして、クライオ様ですか……?」
 するとその時、おそるおそるといった様子で後ろから声をかけてくる少女があった。
「そういう君は……?」
「申し遅れました。わたくし、大賢者グリフィム様よりお役目を仰せつかり、遠路はるばる帝都エルドランドからやって参りました、召使いのエロナでございます」
 エロナは、逆巻く風にさらさらとした髪をなびかせつつ、両手で旅行鞄をさげたままお辞儀をする。
 年齢的にはほぼ同世代だが、クライオよりもエロナのほうが少し早生まれではあった。
 それでなくてもエロナは、子供のころから使用人として働いていたし、一足先に旅へ出て見聞を広めたこともあって、第一印象としてはずいぶんと大人びていた。
「ところでつかぬことをお伺いしますが、あなた様は童貞でいらっしゃいますか?」
「なぜそんなことを聞く? たった今、初めて会ったばかりなのに」
「それは……」
「俺が童貞であろうとなかろうと、君には関係のないことだ」
 クライオは、ぼさぼさの前髪をかきむしってうつむき、そそくさと足早に立ち去る。
「お待ちくださいませ、クライオ様! いいえ、童貞王子!」
 北方山脈の霊峰にたたずむ女神像は、ほかの場所にある石像と違い、なぜか一体だけ別の方角を向いている。
 辺り一帯を険しい山々に囲まれた北の大地には、一日じゅう太陽が昇らない極夜があり、夏至ではなく冬至の方角を指し示していたのではないかと考えられている。
 今はもう、長い年月を経るうちに風化してしまい、頭部と胴体だけしか残っていない。本来その両腕に抱かれているはずの赤ん坊も、依然として見つかっていない。
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