エロサーガ 童貞と処女の歌

鍋雪平

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第六章「雌雄を決する時」

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「東国の大王エゼキウスの首、このゲリオン様が討ち取ったり!」
「ふふふっ、残念だったな。貴様が倒したのは偽者のエゼキウス王様だ。まんまと騙されるとはまぬけな奴め」
「な、何だって……!? だとしたら本物はどこに……?」
 いつものように日が暮れて、両軍ともども自陣へ引き上げるころ。
 御曹司ゲリオンが当てずっぽうに放った矢が、山なりの孤を描いてあさっての方向へ飛んでいき、くしくも御車を引いている水牛の尻に突き刺さった。
 牛車はたちまち暴走して横倒しになり、エゼキウス王もろとも泥沼へ突っ込んだ。また別の話によると、ぜんまい仕掛けのからくりが壊れてぽろっと首が転がり落ちたとか。
 そんな与太話はさておき、これまで敵のみならず味方をもあざむいていた茶番劇の舞台裏が明るみにさらされ、エゼキウス王率いる東軍はとうとう総崩れとなった。
「おのれ、逃がしてなるものか! 愛しきアンブローネ様のため、俺はどこまでも追いかけるぞ!」
 御曹司ゲリオンに率いられた西軍の主力部隊は、敵の混乱に乗じて夜襲を仕掛けた。そして両軍の戦いは、ほとんど一晩で決着がついた。
 手綱や鞍と並んで重要な馬具のひとつに、あぶみというものがある。これは乗馬に際して騎手が足をかけるための道具だ。
 一体いつごろ発明されたのかはっきりとしないが、そもそもは馬に乗って逃げながら弓を引く東方民族がもたらした技術だと言われている。
 彼らは一般的な帝国人と比べて、おおむね身長が低くて足が短かった。
 ちょうどこのころ、猪人族の台頭をきっかけに西方にも伝わったものの、鉄は強しと信じるばかり革や布の装備を軽んじてきた帝国には、まだその道具をうまく使いこなせる騎士も、乗り手に合わせて仕立てられる職人もいなかった。
 御曹司ゲリオンを筆頭とするダリオン軍古参の精鋭騎兵は、馬上戦闘において無類の強さを誇った。
 座ったままの姿勢から繰り出される攻撃と、両足でしっかり踏ん張った状態から振り下ろされる攻撃では、まるで威力が違う。
 当時の人々の常識からすれば、まさに人馬一体のごとく映ったことだろう。
 黒塗りの鎧をまとった最強の騎馬軍団が、蹄を鳴らして怒涛のごとく迫ってくるのだから、その恐ろしさたるや計り知れない。
「くそっ、このまま土産もなしに手ぶらで帰れるか! あの憎きエゼキウス王の首を持ち帰り、アンブローネ様に喜んでいただかなければ意味がない」
 帝国全体を巻き込んだ東軍と西軍による大戦争の結果、エゼキウス王は生死不明のまま行方知れず。皇太子アクセル二世の所在もわからずじまい。
 ろくに戦いもせずに敗れた脱走兵たちは、武器を持ったまま鎧兜を脱ぎ捨てて野山へ隠れた。
 ここから、残党狩りが始まる。
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