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第四章「賢者と生娘の別れ」
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エール帝国の首都エルドランドは、当時にして百万を超える人口を抱える大都市だった。
海と川がまじわる交通の要所に位置しており、天然の良港と豊かな漁場に恵まれていた。
火山灰を含んだ肥沃な土壌と、城下に巡られた人工の運河が、そのまま飲める綺麗な水をもたらし、様々な食材を使った料理を生み出した。
土地を所有する農家に戸籍を与え、年貢を免じるかわりに兵役を課すことで、平時から厳しく訓練された常備軍を組織できるようになった反面、大勢の失業者であふれた都市部では、物価の高さや治安の悪さがたびたび問題となった。
石畳が敷かれた大通りをひっきりなしに荷車が行き交い、路地裏に入れば露天商が怪しげな品物を売っている。カードやサイコロを使った賭博が横行し、飲んだくれて路上で寝転がる者も少なくなかった。
都会のほうは騒がしくて眠れないので、富裕層は町外れに農園を買って別荘を建てた。噴水つきの豪邸に愛人を囲い、賓客を招いては毎晩のように宴を開いた。
戦争に負けて捕虜となり、奴隷として売られた者たちは、所有者に身代金を払えば自分自身を買い戻すことができたので、自由になるために喜んで働いた。
先帝アクセル一世の時代から家庭教師として宮殿に仕えていた賢者グリフィムは、もともと城下にある図書館で古くなった公文書を写本する学者だった。
それ以前までは都会の片隅で隠れて生活する逃亡奴隷だったので、世間に評判が広まるのはずいぶん歳を取ってからだ。
足しげく神殿へ通って貢ぎ物を捧げる処女信仰の教徒でもあった。生涯を通じて独身を貫いており、多くの優秀な弟子を輩出したものの子供はいなかった。
老後は貯金を崩しながらのんびりと余生を送るつもりだったらしく、首都近郊の避暑地に小ぢんまりとした別荘を構えている。
学問や教養のみならず一流の詩人としても名を馳せた賢者グリフィムは、遠く故郷の海が望めるこの隠れ家をついの住処と定め、人知れずこっそり回顧録を書いていた。
そこには、みなしごであったと伝わる初代の王と同じように、捨て子として育てられたクライオ王子の出生にまつわる秘密が記されていた。
海と川がまじわる交通の要所に位置しており、天然の良港と豊かな漁場に恵まれていた。
火山灰を含んだ肥沃な土壌と、城下に巡られた人工の運河が、そのまま飲める綺麗な水をもたらし、様々な食材を使った料理を生み出した。
土地を所有する農家に戸籍を与え、年貢を免じるかわりに兵役を課すことで、平時から厳しく訓練された常備軍を組織できるようになった反面、大勢の失業者であふれた都市部では、物価の高さや治安の悪さがたびたび問題となった。
石畳が敷かれた大通りをひっきりなしに荷車が行き交い、路地裏に入れば露天商が怪しげな品物を売っている。カードやサイコロを使った賭博が横行し、飲んだくれて路上で寝転がる者も少なくなかった。
都会のほうは騒がしくて眠れないので、富裕層は町外れに農園を買って別荘を建てた。噴水つきの豪邸に愛人を囲い、賓客を招いては毎晩のように宴を開いた。
戦争に負けて捕虜となり、奴隷として売られた者たちは、所有者に身代金を払えば自分自身を買い戻すことができたので、自由になるために喜んで働いた。
先帝アクセル一世の時代から家庭教師として宮殿に仕えていた賢者グリフィムは、もともと城下にある図書館で古くなった公文書を写本する学者だった。
それ以前までは都会の片隅で隠れて生活する逃亡奴隷だったので、世間に評判が広まるのはずいぶん歳を取ってからだ。
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老後は貯金を崩しながらのんびりと余生を送るつもりだったらしく、首都近郊の避暑地に小ぢんまりとした別荘を構えている。
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