エロサーガ 童貞と処女の歌

鍋雪平

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第三章「男たちの夢」

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 僭称皇帝オルスター卿を下して北方の乱を平定したのち、皇太子アクセル二世を首都から追放して西方へ勢力を伸ばし、帝国全土のおよそ半分を支配下に治めた暴君ダリオンは当時、民衆から絶大な人気があった。
「評議会の議員どもは、皇太子アクセル二世を皇帝の座へ擁立しようとした反逆者である。市中を引き回して処刑せよ」
 評議会に列する貴族たちは、まるで手のひらを返したようにすっかり態度を変えて、暴君ダリオンへ皇帝の称号を贈った。
 けれどもダリオン自身は、自分はその地位にふさわしくないと固辞したうえで、皇帝のかわりに政治をつとめる宰相と、軍の最高指揮官である元帥を兼任した。
 それでも反対票を投じた者たちは、見せしめのために殺害されたり、牢獄に入れられて拷問されたりした。
「我が君ダリオン様に逆らう者は、殺してしまって構いません。もっと法律を厳しくして、犯罪者を取り締まりなさい」
 王家の印章が彫られた指輪を預かる魔女アンブローネは、すらすらと羽根ペンを走らせて矢継ぎ早に布告を発した。
 というのも、帝国各地の諸侯たちが一斉に離反してしまったために、本来おさめられるはずの年貢が支払われず、たちまち財政が破綻してしまったのだ。
 かといって、借金を返済するためにまた負債を積み重ね、庶民から税金を搾取すれば暴政と見なされてしまう。
 そこでアンブローネは、あらぬ罪状を突きつけて裕福な貴族や商人たちを捕らえ、ことごとく死刑に処して財産を没収することにした。
 やがてその恐ろしい魔の手は、多くの資産を所有しながら徴税を免れている宗教勢力にも及んだ。
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