13 / 57
第二章「童貞の子」
013
しおりを挟む
「乳をお恵みくだされ」
相次ぐ戦争による農民の徴兵と、帰還兵によって広められた疫病の流行により、帝国全土が深刻な飢饉に見舞われていたある冬のこと。
まるで乞食のようにみすばらしい格好をした少女が、雪山から麓の村へ下りてきた。おくるみに包まれた赤ん坊を抱いて、貧しい民家をたずね歩く。
その名は、修道女フローディア。当時はまだまだ見習いで、せいぜい十二、三歳ばかりの小娘だったという。
「どうかこのあわれな赤子に乳をお恵みくだされ」
「見ての通り、この村に家畜はおらんよ。何もかも兵隊に奪われてしもうた」
修道女フローディアは、辺鄙な農村から荷馬車に乗って小さな町までやってきた。
けれども市場を見て回ったところで、売るものもなければ買えるものもない。道行く人々は物乞いなど見慣れており、一向に足を止めようとしない。
そこでフローディアは、道ばたに立ってこんな噂を言いふらす。
「この赤ん坊こそは、天空から生まれ落ちた神の御子。降りつもる雪の中から拾われた奇跡の子でございます。お恵みをほどこせば、きっとご利益がありますぞ」
帝国各地の領邦を治める諸侯たちが、重税に加えて徴兵を課していたこの時期、庶民の暮らしぶりは困窮を極めており、生後間もなく我が子を亡くす母親が多かった。
うら若き身空で夫にも子にも先立たれ、手ずから乳をしぼって鉢に捨てていた妻たちの悲しみたるや、いかばかりか想像もつかない。
「おやまあ、かわいい男の子だこと。抱っこさせておくれ」
「ほら、おっぱいの時間だよ。おしめを替えてあげようね」
こうしてクライオは、行くところ行くところ大勢の女たちに囲まれてすくすくと育った。
夜泣きのせいでなかなか眠れぬ日などは、フローディア自身も暖炉に当たりながら揺りかごをあやし、おしゃぶりがわりに自分の乳房をくわえさせた。
やがて、母性に目覚めたフローディアの胸も少しずつふくらみ始め、みるみるうちに大きくなっていった。
相次ぐ戦争による農民の徴兵と、帰還兵によって広められた疫病の流行により、帝国全土が深刻な飢饉に見舞われていたある冬のこと。
まるで乞食のようにみすばらしい格好をした少女が、雪山から麓の村へ下りてきた。おくるみに包まれた赤ん坊を抱いて、貧しい民家をたずね歩く。
その名は、修道女フローディア。当時はまだまだ見習いで、せいぜい十二、三歳ばかりの小娘だったという。
「どうかこのあわれな赤子に乳をお恵みくだされ」
「見ての通り、この村に家畜はおらんよ。何もかも兵隊に奪われてしもうた」
修道女フローディアは、辺鄙な農村から荷馬車に乗って小さな町までやってきた。
けれども市場を見て回ったところで、売るものもなければ買えるものもない。道行く人々は物乞いなど見慣れており、一向に足を止めようとしない。
そこでフローディアは、道ばたに立ってこんな噂を言いふらす。
「この赤ん坊こそは、天空から生まれ落ちた神の御子。降りつもる雪の中から拾われた奇跡の子でございます。お恵みをほどこせば、きっとご利益がありますぞ」
帝国各地の領邦を治める諸侯たちが、重税に加えて徴兵を課していたこの時期、庶民の暮らしぶりは困窮を極めており、生後間もなく我が子を亡くす母親が多かった。
うら若き身空で夫にも子にも先立たれ、手ずから乳をしぼって鉢に捨てていた妻たちの悲しみたるや、いかばかりか想像もつかない。
「おやまあ、かわいい男の子だこと。抱っこさせておくれ」
「ほら、おっぱいの時間だよ。おしめを替えてあげようね」
こうしてクライオは、行くところ行くところ大勢の女たちに囲まれてすくすくと育った。
夜泣きのせいでなかなか眠れぬ日などは、フローディア自身も暖炉に当たりながら揺りかごをあやし、おしゃぶりがわりに自分の乳房をくわえさせた。
やがて、母性に目覚めたフローディアの胸も少しずつふくらみ始め、みるみるうちに大きくなっていった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる