エロサーガ 童貞と処女の歌

鍋雪平

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第二章「童貞の子」

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「乳をお恵みくだされ」
 相次ぐ戦争による農民の徴兵と、帰還兵によって広められた疫病の流行により、帝国全土が深刻な飢饉に見舞われていたある冬のこと。
 まるで乞食のようにみすばらしい格好をした少女が、雪山から麓の村へ下りてきた。おくるみに包まれた赤ん坊を抱いて、貧しい民家をたずね歩く。
 その名は、修道女フローディア。当時はまだまだ見習いで、せいぜい十二、三歳ばかりの小娘だったという。
「どうかこのあわれな赤子に乳をお恵みくだされ」
「見ての通り、この村に家畜はおらんよ。何もかも兵隊に奪われてしもうた」
 修道女フローディアは、辺鄙な農村から荷馬車に乗って小さな町までやってきた。
 けれども市場を見て回ったところで、売るものもなければ買えるものもない。道行く人々は物乞いなど見慣れており、一向に足を止めようとしない。
 そこでフローディアは、道ばたに立ってこんな噂を言いふらす。
「この赤ん坊こそは、天空から生まれ落ちた神の御子。降りつもる雪の中から拾われた奇跡の子でございます。お恵みをほどこせば、きっとご利益がありますぞ」
 帝国各地の領邦を治める諸侯たちが、重税に加えて徴兵を課していたこの時期、庶民の暮らしぶりは困窮を極めており、生後間もなく我が子を亡くす母親が多かった。
 うら若き身空で夫にも子にも先立たれ、手ずから乳をしぼって鉢に捨てていた妻たちの悲しみたるや、いかばかりか想像もつかない。
「おやまあ、かわいい男の子だこと。抱っこさせておくれ」
「ほら、おっぱいの時間だよ。おしめを替えてあげようね」
 こうしてクライオは、行くところ行くところ大勢の女たちに囲まれてすくすくと育った。
 夜泣きのせいでなかなか眠れぬ日などは、フローディア自身も暖炉に当たりながら揺りかごをあやし、おしゃぶりがわりに自分の乳房をくわえさせた。
 やがて、母性に目覚めたフローディアの胸も少しずつふくらみ始め、みるみるうちに大きくなっていった。
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