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プロローグ
捜索1
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その男は、いつものようにリビングでノートパソコンの画面を見ながら、下卑た笑いを浮かべていた。画面の向こう側に繋がっている、顔の知らない面々のあらゆるコメントに目を通す。見落としがないように、見直すことも忘れない。
ゲイ専門の掲示板に張りついて2ヶ月ちょっと。悩みのある若そうなヤツに、優しいコメントで語りかけたら、あっさりと食いついてきた。
何度かやり取りを繰り返し、警戒心を解いたところで、ソイツの住所を訊ねる。すると幸運にも、男の住んでる住所の近くだった。男は直接逢って、自分の悩みを聞いてくれと若いヤツに頼んでみた。ネットでは、とても書くことができない内容だと強調して。
自分が頼られていると思った若いヤツは、二つ返事で了承し、男に逢うことにした。逢ったら最後、男の計画どおりにコトが進み、まんまと食べられるとも知らずに――。
男の名は高橋 健吾。広告代理店勤務の26歳のサラリーマン。少しだけ茶色い短髪に、切れ長の一重瞼とすっと通った鼻筋。営業マンらしい常に口角の上がった唇という、まあまあのルックスは、男女ともにモテるものだった。
ただ唯一、見た目の欠点をあげるとするなら、身長が低いことくらいだろう。本人もそのことを自覚しているので相手にする女は、自分よりも背の低いコを選んでいた。でも男を相手にするときは、できるだけ背の高いヤツを選ぶ。組み敷いたときの快感が堪らないからだ。何とも言えない征服感が、胸の中を支配していくのを感じながら、相手を責め立てるのがとても好きだった。
そんな高橋が今日も熱心に、パソコンの画面に釘付けになる。自分好みの、新しい玩具を手に入れるために――。
つい最近この掲示板で落とした自分よりも年下のリーマンとの相性はバッチリだったものの、1ヶ月も経たないうちに飽きてしまった。
好きなヤツが忘れられないという悩みを抱えた男を抱いても、ソイツと比べられるんじゃないかと思ったら、ここぞというときに、気持ちが一気に萎えた。たとえ身体だけの関係であってもそれ相応の駆け引きを楽しみたい高橋にとっては、相手の身長と同じくらい、モチベーションの維持が大事だった。
そんな少し前のことを思い出し、ため息をつきながらスクロールしていく。
誰の手垢もついていない綺麗なヤツはいないかと、掲示板を巡回してみたのだが――『勇気を出して告白したら恋が実った』だの『週末はじめての一泊旅行でドキドキする』なんていうリアルが充実しまくっている書き込みに、祝福するレスがたくさんされていた。
いつもの高橋なら、同じように『おめでとう!』の言葉を打ち込んでいただろう。周りに合わせていい人を演じるために、進んでやっていたことだから。
だが今日にいたっては気合いを入れて綺麗なヤツを捜していただけに、ひどく落胆してしまい、それをする気にはなれなかった。幸せにあやかろうとする輩の中に、積極的に混じろうなんて思えない。
(仕方ない。県内限定の掲示板をチェックしてみるか――)
ブックマークしていた掲示板にアクセスし、1ヶ月前ほど日付をさかのぼって、書き込みされている内容に目を走らせた。
以前ここを覗いたときは『我慢できないくらいシたいです。〇〇で待ってます』や『ヤらせてくれる人募集中』など、下半身の処理に困ったヤツばかり集まっているハッテン場状態だった。
自分と同じゲイが県内に大勢いるなと失笑し、どうしても困ったときに使おうと考え、高橋はそこをブックマークしていた。
読み進めても下半身に関する出会い系のコメントだと冒頭を読んだ時点で分かるのに、いつもの癖で最後まで読んでしまう。無駄に時間がかかってしょうがない。何を期待して、最後まで読んでしまうんだか……。
「チッ、嫌になるな」
仕事でもないのに妙なところにクソ真面目な自分に苛立った瞬間、おかしな文章に目が留まった。変なところに句読点があるせいで、すごく読みにくいものだったのだが――。
それは今から3日前のコメントで、告白するかどうか迷っている文面だった。
『高校生です。テニス部の、1つ上の、先輩の事が、すごくすごく好きなんです。きっかけは、新入部員として、入部した僕を指導してくれたことなんですけど、先輩が体に触れるたびに、ドキドキして、緊張します。他の新入部員に比べると、明らかに、自分に触っている感じがして。でも意識しているから、そう感じてしまっているところも、あるかもです。この気持ちを告げたら、避けられるかもしれないと思うと、すごく怖い。でも先輩を思う気持ちが、日ごとに大きくなってきて、どうしていいか分かりません』
出会い系のコメントの数を上回るくらいに、たくさんの返事が書かれていた。告白を支援する意見と反対する意見が同じくらいにされている様子に、高橋は瞳を細めてじっと考え込んだ。
人を好きになったことがない彼にとって、この高校生のコメントは意味不明な点が多くて、まったく理解できなかった。
恋愛なんて、脳の誤作動から起きているとすら思っている。
ゲイ専門の掲示板に張りついて2ヶ月ちょっと。悩みのある若そうなヤツに、優しいコメントで語りかけたら、あっさりと食いついてきた。
何度かやり取りを繰り返し、警戒心を解いたところで、ソイツの住所を訊ねる。すると幸運にも、男の住んでる住所の近くだった。男は直接逢って、自分の悩みを聞いてくれと若いヤツに頼んでみた。ネットでは、とても書くことができない内容だと強調して。
自分が頼られていると思った若いヤツは、二つ返事で了承し、男に逢うことにした。逢ったら最後、男の計画どおりにコトが進み、まんまと食べられるとも知らずに――。
男の名は高橋 健吾。広告代理店勤務の26歳のサラリーマン。少しだけ茶色い短髪に、切れ長の一重瞼とすっと通った鼻筋。営業マンらしい常に口角の上がった唇という、まあまあのルックスは、男女ともにモテるものだった。
ただ唯一、見た目の欠点をあげるとするなら、身長が低いことくらいだろう。本人もそのことを自覚しているので相手にする女は、自分よりも背の低いコを選んでいた。でも男を相手にするときは、できるだけ背の高いヤツを選ぶ。組み敷いたときの快感が堪らないからだ。何とも言えない征服感が、胸の中を支配していくのを感じながら、相手を責め立てるのがとても好きだった。
そんな高橋が今日も熱心に、パソコンの画面に釘付けになる。自分好みの、新しい玩具を手に入れるために――。
つい最近この掲示板で落とした自分よりも年下のリーマンとの相性はバッチリだったものの、1ヶ月も経たないうちに飽きてしまった。
好きなヤツが忘れられないという悩みを抱えた男を抱いても、ソイツと比べられるんじゃないかと思ったら、ここぞというときに、気持ちが一気に萎えた。たとえ身体だけの関係であってもそれ相応の駆け引きを楽しみたい高橋にとっては、相手の身長と同じくらい、モチベーションの維持が大事だった。
そんな少し前のことを思い出し、ため息をつきながらスクロールしていく。
誰の手垢もついていない綺麗なヤツはいないかと、掲示板を巡回してみたのだが――『勇気を出して告白したら恋が実った』だの『週末はじめての一泊旅行でドキドキする』なんていうリアルが充実しまくっている書き込みに、祝福するレスがたくさんされていた。
いつもの高橋なら、同じように『おめでとう!』の言葉を打ち込んでいただろう。周りに合わせていい人を演じるために、進んでやっていたことだから。
だが今日にいたっては気合いを入れて綺麗なヤツを捜していただけに、ひどく落胆してしまい、それをする気にはなれなかった。幸せにあやかろうとする輩の中に、積極的に混じろうなんて思えない。
(仕方ない。県内限定の掲示板をチェックしてみるか――)
ブックマークしていた掲示板にアクセスし、1ヶ月前ほど日付をさかのぼって、書き込みされている内容に目を走らせた。
以前ここを覗いたときは『我慢できないくらいシたいです。〇〇で待ってます』や『ヤらせてくれる人募集中』など、下半身の処理に困ったヤツばかり集まっているハッテン場状態だった。
自分と同じゲイが県内に大勢いるなと失笑し、どうしても困ったときに使おうと考え、高橋はそこをブックマークしていた。
読み進めても下半身に関する出会い系のコメントだと冒頭を読んだ時点で分かるのに、いつもの癖で最後まで読んでしまう。無駄に時間がかかってしょうがない。何を期待して、最後まで読んでしまうんだか……。
「チッ、嫌になるな」
仕事でもないのに妙なところにクソ真面目な自分に苛立った瞬間、おかしな文章に目が留まった。変なところに句読点があるせいで、すごく読みにくいものだったのだが――。
それは今から3日前のコメントで、告白するかどうか迷っている文面だった。
『高校生です。テニス部の、1つ上の、先輩の事が、すごくすごく好きなんです。きっかけは、新入部員として、入部した僕を指導してくれたことなんですけど、先輩が体に触れるたびに、ドキドキして、緊張します。他の新入部員に比べると、明らかに、自分に触っている感じがして。でも意識しているから、そう感じてしまっているところも、あるかもです。この気持ちを告げたら、避けられるかもしれないと思うと、すごく怖い。でも先輩を思う気持ちが、日ごとに大きくなってきて、どうしていいか分かりません』
出会い系のコメントの数を上回るくらいに、たくさんの返事が書かれていた。告白を支援する意見と反対する意見が同じくらいにされている様子に、高橋は瞳を細めてじっと考え込んだ。
人を好きになったことがない彼にとって、この高校生のコメントは意味不明な点が多くて、まったく理解できなかった。
恋愛なんて、脳の誤作動から起きているとすら思っている。
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