夢で逢えたら

相沢蒼依

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貴方に逢えたから

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 敦士がなんの気なしにふと目を開けたら、真っ暗闇に包まれた場所に横たわっていた。いつも隣で寝ているはずの高橋はいなくて、不思議に思いながらその場に立ち上がると、視界の先に青白く光り輝くなにかがあった。

 音もなく徐々に近づいてくるそれに、恐怖しか沸かない。

(火の玉とは違う光り方をしているし、幽霊の類なのかな――)

 敦士は光り輝くものをよく見ようと目元を擦った。まぶたに触れた感触や自分の体温を指先に感じたのに、空間の温度を感じることができなかった。

 多分これは夢の中だと悟ったときには、光り輝くものが目の前に現れる。

「あ……」

 肩の長さのプラチナブロンドに整った顔立ちの男性は、神父様のような恰好をしていた。恐怖で固まる敦士を和ませるように、少しだけ首を傾けて微笑みながら見下ろす。

「健吾さん?」

 リアルでプラチナブロンドのカツラを被って、夢の番人を演じてくれた高橋を思い出したので、敦士はそっと名前を呼んでみた。

「どうしてコレが、あの男だと分かった?」

 かけられた声は男性のものとは思えない高いものだったけれど、女性とも思えない声質だった。

「すっ、すみませんでした。人違いでしたよね」

「質問に答えろ。どうしてあの男だと思ったんだ」

 敦士があたふたしながら俯くと、硬いなにかで顎を上向かせられた。よく見るとそれは鞭の握る部分で、長い紐が目の前でゆらゆら揺れていた。

「ひっ!?」

「おまえを鞭で打ったりしない。安心して答えろ」

「本当ですか?」

「この武器は、彼奴が夢の番人をしていたときに使っていたものだ。私の趣味ではない」

 鞭を見て怯える敦士を、男性はさも可笑しいと言わんばかりにカラカラ笑い倒した。

「私を信用しろというほうが無理な話だったな、悪かった。それで記憶のないおまえが、瞬時にコレをあの男だと思ったわけはなんだ?」

「それは昨晩、健吾さんがプラチナブロンドのカツラを被って、夢の番人の姿を見せてくれたので」

「なるほどな。そのまま行為に及んだということか」

 その後のことをずばりと指摘した男性に、敦士はぐうの音も出なかった。じわりと頬が熱を帯びたせいで顔が赤らみ、男性の言ったことを自然に肯定してしまった。

「彼奴との生活はどうだ? 嫌になったりしていないか?」

 微妙な態度をとる敦士に気遣ったのか、男性はさっさと話題を変えてくれた。

「嫌になったりなんて、まったくないです。むしろ、一緒にいられて幸せです」

 どこか鋭いまなざしで敦士を見下ろしながら、あれこれ訊ねる男性の正体に、心当たりがあった。

(多分この人は健吾さんが言ってた、創造主様に違いない。どうして僕の夢の中に現れたんだろう?)

「人を騙して快楽を得ていた男の末路が、こんなふうに様変わりするとは思いもしなかった。おまえはさしずめ、聖人君主なのかもしれない」

「聖人君主なんて、とんでもございません。僕はただのありふれた、どこにでもいる男でして……」

「おまえが彼奴を真人間にしなければ、今頃どこかでテロを起こされていたんだ。そのせいで私の仕事が、大幅に増えるところだったのだぞ。とても助かった、感謝している」

  言いながら男性はにこやかに微笑みながら、敦士の躰をぎゅっと抱きしめた。

「わっ!」

「懐かしさはないか? おまえはこうして、彼奴によく抱かれていたろ」

  鼻先をくすぐるフローラルな香りと一緒に、男性の温もりが伝わってきて、敦士はあたふたしするしかない。

「すみませんっ! 放してください!!」

  敦士は男性の胸を両腕で押し返し、無理やり脱出を試みた。

「暴れるな、彼奴には内緒にしてやる。このままこの躰を、好きにしてもいいのだぞ?」 

 男性は放れなければと抵抗する敦士の首と腰を強引に抱きすくめて、顔を覗き込みながら誘った。そのことに敦士は驚きを隠せない。

「無理です、ごめんなさい。僕は貴方様のような、偉い方を抱ける身分ではないので!」

 渾身の力で男性の躰を押し返しながら、自分なりに説得してみる。

「やれやれ。彼奴に、操を立てているのだろう? おまえが、不義理をする男じゃないのは知っている」

  男性は笑いながら両腕の力を抜き去り、敦士をあっけなく解放した。

「よく耐えたな。この躰は行為を円滑に行うために、男を誘うフェロモンをこれでもかと放出しているのだ」

「それは危なかった……」

「とりあえず、おまえの疑問に答えてやろう。私の仕事を減らしてくれた礼として、消し去った記憶を戻してやるために、この場に現れた」

 敦士がほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、想像を超える展開にぽかんとしてしまった。大したことをしていないというのに、礼を与えるだけのために現れたという男性を、呆けた顔で見つめるのが精一杯だった。
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