70 / 74
貴方に逢えたから
14
しおりを挟む
***
敦士がなんの気なしにふと目を開けたら、真っ暗闇に包まれた場所に横たわっていた。いつも隣で寝ているはずの高橋はいなくて、不思議に思いながらその場に立ち上がると、視界の先に青白く光り輝くなにかがあった。
音もなく徐々に近づいてくるそれに、恐怖しか沸かない。
(火の玉とは違う光り方をしているし、幽霊の類なのかな――)
敦士は光り輝くものをよく見ようと目元を擦った。まぶたに触れた感触や自分の体温を指先に感じたのに、空間の温度を感じることができなかった。
多分これは夢の中だと悟ったときには、光り輝くものが目の前に現れる。
「あ……」
肩の長さのプラチナブロンドに整った顔立ちの男性は、神父様のような恰好をしていた。恐怖で固まる敦士を和ませるように、少しだけ首を傾けて微笑みながら見下ろす。
「健吾さん?」
リアルでプラチナブロンドのカツラを被って、夢の番人を演じてくれた高橋を思い出したので、敦士はそっと名前を呼んでみた。
「どうしてコレが、あの男だと分かった?」
かけられた声は男性のものとは思えない高いものだったけれど、女性とも思えない声質だった。
「すっ、すみませんでした。人違いでしたよね」
「質問に答えろ。どうしてあの男だと思ったんだ」
敦士があたふたしながら俯くと、硬いなにかで顎を上向かせられた。よく見るとそれは鞭の握る部分で、長い紐が目の前でゆらゆら揺れていた。
「ひっ!?」
「おまえを鞭で打ったりしない。安心して答えろ」
「本当ですか?」
「この武器は、彼奴が夢の番人をしていたときに使っていたものだ。私の趣味ではない」
鞭を見て怯える敦士を、男性はさも可笑しいと言わんばかりにカラカラ笑い倒した。
「私を信用しろというほうが無理な話だったな、悪かった。それで記憶のないおまえが、瞬時にコレをあの男だと思ったわけはなんだ?」
「それは昨晩、健吾さんがプラチナブロンドのカツラを被って、夢の番人の姿を見せてくれたので」
「なるほどな。そのまま行為に及んだということか」
その後のことをずばりと指摘した男性に、敦士はぐうの音も出なかった。じわりと頬が熱を帯びたせいで顔が赤らみ、男性の言ったことを自然に肯定してしまった。
「彼奴との生活はどうだ? 嫌になったりしていないか?」
微妙な態度をとる敦士に気遣ったのか、男性はさっさと話題を変えてくれた。
「嫌になったりなんて、まったくないです。むしろ、一緒にいられて幸せです」
どこか鋭いまなざしで敦士を見下ろしながら、あれこれ訊ねる男性の正体に、心当たりがあった。
(多分この人は健吾さんが言ってた、創造主様に違いない。どうして僕の夢の中に現れたんだろう?)
「人を騙して快楽を得ていた男の末路が、こんなふうに様変わりするとは思いもしなかった。おまえはさしずめ、聖人君主なのかもしれない」
「聖人君主なんて、とんでもございません。僕はただのありふれた、どこにでもいる男でして……」
「おまえが彼奴を真人間にしなければ、今頃どこかでテロを起こされていたんだ。そのせいで私の仕事が、大幅に増えるところだったのだぞ。とても助かった、感謝している」
言いながら男性はにこやかに微笑みながら、敦士の躰をぎゅっと抱きしめた。
「わっ!」
「懐かしさはないか? おまえはこうして、彼奴によく抱かれていたろ」
鼻先をくすぐるフローラルな香りと一緒に、男性の温もりが伝わってきて、敦士はあたふたしするしかない。
「すみませんっ! 放してください!!」
敦士は男性の胸を両腕で押し返し、無理やり脱出を試みた。
「暴れるな、彼奴には内緒にしてやる。このままこの躰を、好きにしてもいいのだぞ?」
男性は放れなければと抵抗する敦士の首と腰を強引に抱きすくめて、顔を覗き込みながら誘った。そのことに敦士は驚きを隠せない。
「無理です、ごめんなさい。僕は貴方様のような、偉い方を抱ける身分ではないので!」
渾身の力で男性の躰を押し返しながら、自分なりに説得してみる。
「やれやれ。彼奴に、操を立てているのだろう? おまえが、不義理をする男じゃないのは知っている」
男性は笑いながら両腕の力を抜き去り、敦士をあっけなく解放した。
「よく耐えたな。この躰は行為を円滑に行うために、男を誘うフェロモンをこれでもかと放出しているのだ」
「それは危なかった……」
「とりあえず、おまえの疑問に答えてやろう。私の仕事を減らしてくれた礼として、消し去った記憶を戻してやるために、この場に現れた」
敦士がほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、想像を超える展開にぽかんとしてしまった。大したことをしていないというのに、礼を与えるだけのために現れたという男性を、呆けた顔で見つめるのが精一杯だった。
敦士がなんの気なしにふと目を開けたら、真っ暗闇に包まれた場所に横たわっていた。いつも隣で寝ているはずの高橋はいなくて、不思議に思いながらその場に立ち上がると、視界の先に青白く光り輝くなにかがあった。
音もなく徐々に近づいてくるそれに、恐怖しか沸かない。
(火の玉とは違う光り方をしているし、幽霊の類なのかな――)
敦士は光り輝くものをよく見ようと目元を擦った。まぶたに触れた感触や自分の体温を指先に感じたのに、空間の温度を感じることができなかった。
多分これは夢の中だと悟ったときには、光り輝くものが目の前に現れる。
「あ……」
肩の長さのプラチナブロンドに整った顔立ちの男性は、神父様のような恰好をしていた。恐怖で固まる敦士を和ませるように、少しだけ首を傾けて微笑みながら見下ろす。
「健吾さん?」
リアルでプラチナブロンドのカツラを被って、夢の番人を演じてくれた高橋を思い出したので、敦士はそっと名前を呼んでみた。
「どうしてコレが、あの男だと分かった?」
かけられた声は男性のものとは思えない高いものだったけれど、女性とも思えない声質だった。
「すっ、すみませんでした。人違いでしたよね」
「質問に答えろ。どうしてあの男だと思ったんだ」
敦士があたふたしながら俯くと、硬いなにかで顎を上向かせられた。よく見るとそれは鞭の握る部分で、長い紐が目の前でゆらゆら揺れていた。
「ひっ!?」
「おまえを鞭で打ったりしない。安心して答えろ」
「本当ですか?」
「この武器は、彼奴が夢の番人をしていたときに使っていたものだ。私の趣味ではない」
鞭を見て怯える敦士を、男性はさも可笑しいと言わんばかりにカラカラ笑い倒した。
「私を信用しろというほうが無理な話だったな、悪かった。それで記憶のないおまえが、瞬時にコレをあの男だと思ったわけはなんだ?」
「それは昨晩、健吾さんがプラチナブロンドのカツラを被って、夢の番人の姿を見せてくれたので」
「なるほどな。そのまま行為に及んだということか」
その後のことをずばりと指摘した男性に、敦士はぐうの音も出なかった。じわりと頬が熱を帯びたせいで顔が赤らみ、男性の言ったことを自然に肯定してしまった。
「彼奴との生活はどうだ? 嫌になったりしていないか?」
微妙な態度をとる敦士に気遣ったのか、男性はさっさと話題を変えてくれた。
「嫌になったりなんて、まったくないです。むしろ、一緒にいられて幸せです」
どこか鋭いまなざしで敦士を見下ろしながら、あれこれ訊ねる男性の正体に、心当たりがあった。
(多分この人は健吾さんが言ってた、創造主様に違いない。どうして僕の夢の中に現れたんだろう?)
「人を騙して快楽を得ていた男の末路が、こんなふうに様変わりするとは思いもしなかった。おまえはさしずめ、聖人君主なのかもしれない」
「聖人君主なんて、とんでもございません。僕はただのありふれた、どこにでもいる男でして……」
「おまえが彼奴を真人間にしなければ、今頃どこかでテロを起こされていたんだ。そのせいで私の仕事が、大幅に増えるところだったのだぞ。とても助かった、感謝している」
言いながら男性はにこやかに微笑みながら、敦士の躰をぎゅっと抱きしめた。
「わっ!」
「懐かしさはないか? おまえはこうして、彼奴によく抱かれていたろ」
鼻先をくすぐるフローラルな香りと一緒に、男性の温もりが伝わってきて、敦士はあたふたしするしかない。
「すみませんっ! 放してください!!」
敦士は男性の胸を両腕で押し返し、無理やり脱出を試みた。
「暴れるな、彼奴には内緒にしてやる。このままこの躰を、好きにしてもいいのだぞ?」
男性は放れなければと抵抗する敦士の首と腰を強引に抱きすくめて、顔を覗き込みながら誘った。そのことに敦士は驚きを隠せない。
「無理です、ごめんなさい。僕は貴方様のような、偉い方を抱ける身分ではないので!」
渾身の力で男性の躰を押し返しながら、自分なりに説得してみる。
「やれやれ。彼奴に、操を立てているのだろう? おまえが、不義理をする男じゃないのは知っている」
男性は笑いながら両腕の力を抜き去り、敦士をあっけなく解放した。
「よく耐えたな。この躰は行為を円滑に行うために、男を誘うフェロモンをこれでもかと放出しているのだ」
「それは危なかった……」
「とりあえず、おまえの疑問に答えてやろう。私の仕事を減らしてくれた礼として、消し去った記憶を戻してやるために、この場に現れた」
敦士がほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、想像を超える展開にぽかんとしてしまった。大したことをしていないというのに、礼を与えるだけのために現れたという男性を、呆けた顔で見つめるのが精一杯だった。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる