夢で逢えたら

貴方に逢えたから

10

「健吾さん、貴方に逢えて良かった」

「本当に？」

　窺う視線が、高橋の中にある不安を示していた。敦士はそれをいち早くなんとかしたくて、返事をしてあげる。

「本当です。夢の中で僕に逢ったのは偶然かもしれませんが、現実リアルでこうして探し出してくれるなんて、大変なことだと思うんです。健吾さんを、そこまで突き動かしたものって――」

　自分の中にあった疑問を口にしたら、高橋の不安げな表情が和らぎ、安堵に満ちた顔に変化した。

「本来ならば夢の番人を辞めた時点で、敦士だけじゃなく俺の記憶もなくなることを、創造主から聞いた。それなのにおまえを忘れることなく、現実世界の中から探せたのは、夢の中でしっかり愛し合ったお蔭だと思う」

「夢の中でしっかり愛し合ったから記憶がなくても、僕の躰は貴方を覚えていたんですね」

　高橋の言葉を使って覚えていることを告げると、触れるだけの口づけが敦士の唇に落とされた。柔らかいだけじゃなく、しっとりした皮膚を唇の上に感じただけで、あっという間に下半身が形を変える。

「敦士が真っ直ぐな想いで俺を愛してくれたから、絶対に忘れることがなかったんだ。こんな俺を、これからも愛してくれるだろうか？」

　ちょっとだけ傾げられた首の動きで、高橋が被っているプラチナブロンドが敦士の頬にそっと触れた。くすぐったいそれを退けたいのに、両手首を拘束されているのでそれができず、敦士はうずうずするしかない。

「敦士、愛してくれないのか？」

「健吾さんを愛したいので、これを外してほしいんですけど」

「外さない。俺は、こういうプレイをするのが好きなんだ。覚えておいてくれ」

「ぷっ、プレイ!?」

　驚く敦士を尻目に、高橋は意味深に片側の口角を歪め、上半身を起こしながら少しだけ後方に移動し、敦士自身を手にした。

「今まで隠していた俺の趣味を暴露することが、ご褒美のひとつで――」

　握りしめた敦士自身を高橋の後孔にあてがい、腰をぐいっと下ろす。吸い込まれるように挿入される気持ちよさで、呼吸が勝手に乱れてしまった。

「ああぁっ、いきな、りっ！」

「もうひとつは、俺自らこうして奉仕してやるのがご褒美だ。時間をかけて、自分で解した甲斐があった。こんなに感じてくれるなんて、すごく嬉しい」

　このまま一気に奥まで飲み込まれると思った矢先に、ふっと途中で止めて、自身の先端ギリギリまで腰を上げた高橋の動きは、あまりに急だった。敦士は下半身に、ぞくっとするものを感じずにはいられない。

　そんな快感だけじゃなく、ちょっとでも敦士が腰を引けば、抜けてしまいそうな危うさがあった。それを阻止しようと下から突き上げたら、高橋がその分だけ腰を引いて、意地悪くもとに戻す。

「やっ！　ぬ、抜かないで！」

「大丈夫だ。せっかく繋がったのに、抜くわけないだろ」

　敦士をじっと見つめるの細められた高橋の瞳が、窓から差し込む月明かりで、妖しくきらりと光った。

　拘束されたままの両手首に、ギリギリのところで寸止めされている自身。敦士の両手が自由なら高橋に抱きついて、無理やりにでも奥深く埋めるのに、それができないじれったさのせいで、敦士は余計に彼が欲しくて堪らなくなった。

「敦士、どうした。もの言いたげな顔をしてる」

「だって健吾さんともっと繋がりたいのに、こんなふうにされたら不安になる」

「それは不安な気持ち……、だけなのか？」

　問いかけた高橋の腰が少しだけ下にずるずる動いて、さっきよりも挿入された。敦士の返事を聞いて、このまま深く繋がると思ったのも束の間、高橋はすぐに動きを止めた。最奥までは、遠い位置でストップする。

「健吾さんっ！」

「おまえが感じているのは、不安だけなのか？」

「それは――」

「俺は敦士の想いに応えたい。おまえが望むものすべてを、きちんと叶えてやりたいんだ」

　言いながらふたたび腰を上げる高橋に、敦士は縛られたままの両手首を見せながら、懇願するように口を開く。

「だったら、これを外してください。それから……っ！」

「それから？」

　高橋は必死に訴えかけた、敦士の顔を覗き込んだ。鼻先ギリギリまで近づけられた顔はプラチナブロンドのせいか、いつもの見慣れたものじゃなく、妖艶な雰囲気をまとっているお蔭で、頬に熱を持つ。

「敦士、早く言わなければ、このまま抜けてしまうかもしれないぞ」

　ゆるゆる上げられる腰の動きに、敦士の中で自然と焦りが募っていった。