夢で逢えたら

貴方に逢えたから

９

＊＊＊

　シャワーを浴びる水音は、とうの昔に聞こえなくなったというのに、未だに高橋の姿は見えなかった。

『おいおい……。敦士、そんなにご褒美が待ち遠しかったのか』

　なんていう声が敦士の頭の中に聞こえてきたわけは、ちゃっかり全裸待機しているせいかもしれない。

　準備万端な理由としては、１秒でも早く彼を抱きたかったから。毎晩何度も抱いているというのに、こうして愛おしく想ってしまうのは、彼のことが好きで堪らないせいだった。

　他に気になっていることといえば、ご褒美について――アッチの経験がまったくない敦士と違って、経験豊富な高橋がご褒美というからには、かなりすごいものを用意しそうな気がした。

（僕自身が健吾さんにできることが限られすぎていて、なんだか申し訳ないな――）

　全裸で横たわっているため、直に布団の温かさが手伝って、敦士がうとうとしかけたときだった。部屋の照明がいきなり落とされたせいで、目をしっかり開けても、なにも見えなくなってしまった。

「健吾さん？」

　起き上がりながら声をかけたと同時に、勢いよく開かれたカーテン。外を明るく照らす街灯と一緒に、月明かりが優しく部屋に差し込んできて、それを煌めかせる働きをした。

「わっ……」

　細身の躰を覆うプラチナブロンドが、月明かりを浴びてキラキラしているが、逆光のせいで表情はまったく分からない。だけど漂う優しげな雰囲気で、高橋が微笑んでいる様子が敦士に伝わってきた。

「夢の番人の姿に近づけてみたのだが、このカツラに似合わない、ものすごく不細工な顔を見せるのに、かなりの勇気が必要だ……」

「だから、部屋の明かりを消したんですか？」

「それもあるが、おまえと逢っていたときは、いつもほんのり薄暗い感じだったから」

　高橋が歩き出して敦士に近づいてくる、ほんの一瞬の間に、外の明かりがその姿をはっきりと映し出した。

　確かに日本人の顔には似合わないプラチナブロンドのカツラを被っているせいで、違和感が拭えないのに、強い意思を表している目元に敦士は既視感があった。

（顔は違うかもしれないのに、なんとなく見覚えがある。どうしようもないヘタレ野郎の僕を、夢の中で助けてくれた人なんだな。こうして射竦めるように見つめられるだけで、躰の中が沸騰したように熱くなってしまうのは、この人を好きになったことを躰が覚えているからだろう。記憶のない恋をしたはずなのに、ふたたび健吾さんを好きになってしまったのは、まるで運命みたいに感じる――）

　敦士が熱く疼く胸の内を再確認していると、バスローブを身にまとった高橋が腰に巻いていた帯紐をするりと外すなり、敦士の両手首に巻きつけた。

「えっ？　な、なんで!?」

「ご褒美をくれてやると言っただろう」

「こんなふうに縛られたら、健吾さんを抱きしめられないですよ」

　苦情を言ったというのに、高橋はそれを無視して布団を捲り上げ、バスローブをその場に脱ぎ捨てて、颯爽と敦士に跨った。

「おまえはそのまま、横たわっていればいい。やりたいことを言ってくれたら、そのとおりに動いてやる」

　ふわりと笑った高橋の顔が敦士に近づいた。背中を覆うプラチナブロンドが顔の傍にさらさら流れ落ちてきて、敦士の周りを見えなくする。その感じが蜜事を隠すカーテンみたいに思えて、さらにドキドキが加速していった。

「好きです、健吾さん」

　唇が重ねられる前に告げた言葉で、高橋の動きがぴたりと止まった。

「敦士……」

　唐突な愛の告白に困ったのか、目の前にある顔は照れた感じじゃなく、どこか困惑した表情に敦士の双眼に映った。