夢で逢えたら

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
49 / 74
理想と現実の狭間で

11

しおりを挟む
 自分以外を受け挿れたというのに、謝ることなく平然としていられる夢の番人を、敦士はどうしても許せなかった。

「僕は自分が思っている以上に、番人さまのことを愛していたみたいです」

「敦士――」

「だからこそ、どうしても許せない。好きだから、すごく悔しくてならない」

「悪夢を見られなかった自分を、おまえは責めているのか?」

 夢の番人が訊ねた瞬間、俯いていた敦士の瞳から、大きな涙が降り注ぐ。

「うぅっ……」

「それとも、俺が他のヤツと寝たことが許せないのか?」

 ぽたぽたと零れ落ちる涙は、夢の番人の躰を濡らすことなく静かに通過して、フローリングの上に落ちていった。

「すみません……」

「おまえが自分と俺のことを責めていても、この躰から解放されたら必ず逢いに行く。嫌われたままでも構わない。絶対に逢いに行くから」

「えっ?」

 自分を見上げる夢の番人の躰が、青白い光を放ちはじめた。やがてそれが眩いものに変わったため、敦士は片手で顔の前を塞ぎながら、ぎゅっと目を閉じる。

 ほんの数秒後には、瞼を閉じていても光を感じなくなったので、恐るおそる目を開けた。

 頭の中では、なにかがなくなったということが認識できるのに、それがなんであったかというのが、まったく理解できない。分からないのは、それだけでなく――。

「あれ? どうして僕は、泣いているんだろう?」

 真っ暗闇の自宅の中、リビングの中央に立ちつくしたまま、敦士は両手で涙を拭いながら、この状況を考えてみる。

(慣れない部署での仕事にほとほと疲れて、退勤したことの記憶はある。いくら疲れていたからって電気もつけずに、ぼーっとするなんてありえない)

 拭ったはずなのに、ふたたび涙が敦士の頬を伝った。

 悲しくなる理由を考えると、胸が絞られるように痛んだ。わけも分からずに、ただひたすら涙を流すしかなくて、苦しさを感じる胸元を押さえる。

「好きな人に罵倒されても、こんなふうになったことがないのに、どうして苦しいほどに、切ない気持ちになってしまうんだろう」

 つらい夢を見たというのに、目を覚ますと記憶がなくなっているような感覚に近い今の現状に、敦士はただ困惑するしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

結婚しましたが、愛されていません

うみか
恋愛
愛する人との結婚は最悪な結末を迎えた。 彼は私を毎日のように侮辱し、挙句の果てには不倫をして離婚を叫ぶ。 為す術なく離婚に応じた私だが、その後国王に呼び出され……

処理中です...