夢で逢えたら

相沢蒼依

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理想と現実の狭間で

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***

 敦士は空いてる会議室の一室に引きこもり、パソコンと青いファイルを長机の上に置いた状態で、夢の番人から与えられる指示に耳を傾けていた。

「敦士、大丈夫なのか?」

 貴重な意見を聞いている最中に投げかけられた夢の番人の質問で、敦士は書き込みしていた書類からやっと顔を上げる。

「なにがですか?」

「もうかれこれ1時間近く、ここにいるだろう。部署でしなきゃいけない仕事はないのか?」

 渋い表情で掛け時計を見つめたまま、胸の前で腕を組む夢の番人に、敦士は朗らかに笑いかけた。

「午前中に片付けておきました。なにかあったら、携帯に電話してもらう手はずになってます」

「用意周到だが余った時間でやっつけたせいで、中途半端なクオリティになっているな」

 夢の番人は机の上に散らばった書類を視線を落としながら、大きなため息をつく。告げられた言葉と同時に目の前でなされた態度を見て、敦士は落ち込むしかなかった。

「すみません……」

「謝らなくていい。最初から完璧にこなされていたら、俺の出番がなくなるだろう?」

「番人さま――」

 先ほどとは違う慰めるような優しい口調に、敦士の頬が嬉しげに緩む。

「おっと、気を抜くのはまだ早い。調べなければならないことが、山のようにあるんだからな。しかもそれをコピペして貼り付けるなんてことは、絶対にさせないから」

「うっ、頑張ります……」

 午後からの仕事が入らなかったお蔭で、敦士はスムーズに調べ物をすることができた。しかしその量が膨大なため、就業時間を終えてもまとめきれず、自宅に持ち帰ることにしたのだが――。

「敦士、やる気はあるのか? それじゃあ、調べた文献と変わりないだろ。企画書に説得力を持たせるためには、自分の言葉で伝えないと意味がない。やり直しだ!」

 小さなテーブルの前に正座した敦士の隣で、鬼のような形相をした夢の番人がぎゃんぎゃん喚く。

 帰って来てから、注意された数は分からない。不出来な自分が悪いことは分かっているが、叱られすぎて集中力が切れてしまい、どうしても頭が回らなくなってしまった。

 それでも明後日が締め切りなので、頑張らなければと思ってるのに、どうしても瞼が落ちていく。

「おい、寝るにはまだ早いぞ」

「分かって、ます……。言われたことをし、なきゃ」

(こんなに仕事に熱中したのは、いつ以来だろう? 番人さまに見てもらっているせいか、いつもより楽しく手をつけることができてるのに)

 そんなことを考えていたら敦士の意識が遠のき、倒れ込む感じで書類の上に突っ伏した。

「寝るには早いと言ってる傍から寝るなんて。このままじゃ、風邪を引かせてしまうかもしれない」

 敦士の躰を慮った高橋が、部屋の中を見渡した。見渡してそれを見つけても、自分では何もできないことを今更ながらに悟り、ふたたび敦士に視線を注ぐ。

「悪夢の中でしか、おまえをあたためることができないなんてな。こう何度も、歯がゆさを味わいたくないものだ」

 そんな高橋の呟きはどこにも届かず、静寂の中に消え去ったのだった。
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