夢で逢えたら

相沢蒼依

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理想と現実の狭間で

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 首にかけた長いストールと一緒に、白金髪をなびかせて飛び出していった夢の番人の後ろ姿を、敦士はいつまでも見送った。

 夢の中とは違う冷ややかなまなざしを注がれながら、綺麗な形をした唇から告げられるセリフに、いちいち一喜一憂した先ほどまでのやり取りを振り返る。

 会社のお荷物になっている部署に勤めているだけじゃなく、仕事のできない自分を表す企画書を見せたことが、とても恥ずかしかった。

 他にも企画書を読み進めていくうちに、夢の番人の顔色が険しいものになったのを目の当たりにして、敦士は悔しさをひしひしと感じたからこそ強く思った。

(――番人様に認められたい)

 憧れる彼に、少しでもいいから認められたいと。

「林さん、今日中に用意しなきゃいけない営業部の書類、印刷は終わっているのでしょうか?」

 敦士は隣にいる同僚に、勇んで声をかけた。やらなければならない仕事を先に終わらせてから、企画書に手をつけようと思い至り、準備している資料に視線を落とした。

「まだ終わってない。今回会議に使う資料が多くて、まとめるのも大変そうだよ」

「分かりました。一緒にやっつけましょうね」

 夢の番人に見せたばかりの青いファイルを隅に退けてから、印刷が終わっている資料を並べていく。

(いつもより量の多い印刷物に、手をこまねいている場合じゃない。早く終わらせて、番人さまの指示通りに企画書を見直すぞ!)

 目の前にそびえる仕事を手早く片付けることを考えるだけで、作業に集中して取り組むことができたが、印刷物をまとめることにちょっとだけ時間をとられてしまった。

 それでも集中力を持続したまま、お昼前には企画書の手直しができたのだった。
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