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理想と現実の狭間で
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「俺だって忙しいんだ。言われたことをしろ!」
敦士に行動させるべく高橋が怒鳴りつけたら、怯えるように躰を小さくさせつつ、青いファイルをデスクの中央に置き、見えるように開いてくれた。
「さて、どんなものか――」
プリントされた企画書に、素早く目を通していく。「次!」とセリフを発したら、震える敦士の指先がページをめくっていった。
「……怖がらせて悪いな」
高橋は怯えさせてしまったことを謝罪すると、敦士はキーボードでなにかを打ち込む。その音が途絶えから、視線を目の前に移した。
『怖くはなかったです。むしろ恥ずかしくて。仕事のできない自分を表すような企画書を、番人さまに見せたくなかっただけなんです。すみません』
無機質な画面に表示されている文章を読み終えて、高橋は思わず唇に笑みを浮かべてしまった。誰だってはじめて提出する企画書は、勇気がいることを知っていたから。
「次のページをめくってくれないか。少なくともおまえの企画書の考え方は、そんなに悪くない。引き込まれるものがある」
敦士の顔を見ながら告げてやったら、小さな瞳をこれでもかと大きく見開き、口をぱくぱくさせる。
「言いたいことがあるなら、パソコンに打ち込んでくれ。それじゃあ伝わらないぞ」
高橋が威圧的な言葉じゃなく優しげな言葉で促すと、敦士は先ほどよりも活気のある雰囲気でキーボードを操る。
『番人さまの目から見て悪くないということは、このままいけるということでしょうか?』
敦士としては、高橋に告げられた言葉が嬉しかったのだろう。喜びに満ちた感情のままに打ち込まれた文章を読み終えてから、静かに首を横に振った。
「引き込まれるものはあるが、フラットといったところだ。これというインパクトが、絶対的に足りない。それを付け加えないと、この企画書は通らないだろう」
するとみるみるうちに敦士の表情が暗く陰り、うな垂れるように顔を俯かせる。
「敦士、このまま何もせずに諦めるのか? 毎年チャレンジしているんだろう?」
「…………」
「俺はこのあと仕事に出る。その間にこのファイルを見直せ。ヒントは、審査員になったつもりでこれを読むことだ。昼頃一度ここに戻る。詳しい話はそれからしてやろう」
高橋は言い終えるなり頭を上げて、悪夢を見ている人間の気配を辿ってみた。オフィス街のここでは、残念ながら悪夢を見ている者が皆無だったので、遠出して探さないといけない。
気落ちした敦士をそのままに番人としての仕事を果たすべく、大きな窓をすり抜けて飛び立ったのだった。
敦士に行動させるべく高橋が怒鳴りつけたら、怯えるように躰を小さくさせつつ、青いファイルをデスクの中央に置き、見えるように開いてくれた。
「さて、どんなものか――」
プリントされた企画書に、素早く目を通していく。「次!」とセリフを発したら、震える敦士の指先がページをめくっていった。
「……怖がらせて悪いな」
高橋は怯えさせてしまったことを謝罪すると、敦士はキーボードでなにかを打ち込む。その音が途絶えから、視線を目の前に移した。
『怖くはなかったです。むしろ恥ずかしくて。仕事のできない自分を表すような企画書を、番人さまに見せたくなかっただけなんです。すみません』
無機質な画面に表示されている文章を読み終えて、高橋は思わず唇に笑みを浮かべてしまった。誰だってはじめて提出する企画書は、勇気がいることを知っていたから。
「次のページをめくってくれないか。少なくともおまえの企画書の考え方は、そんなに悪くない。引き込まれるものがある」
敦士の顔を見ながら告げてやったら、小さな瞳をこれでもかと大きく見開き、口をぱくぱくさせる。
「言いたいことがあるなら、パソコンに打ち込んでくれ。それじゃあ伝わらないぞ」
高橋が威圧的な言葉じゃなく優しげな言葉で促すと、敦士は先ほどよりも活気のある雰囲気でキーボードを操る。
『番人さまの目から見て悪くないということは、このままいけるということでしょうか?』
敦士としては、高橋に告げられた言葉が嬉しかったのだろう。喜びに満ちた感情のままに打ち込まれた文章を読み終えてから、静かに首を横に振った。
「引き込まれるものはあるが、フラットといったところだ。これというインパクトが、絶対的に足りない。それを付け加えないと、この企画書は通らないだろう」
するとみるみるうちに敦士の表情が暗く陰り、うな垂れるように顔を俯かせる。
「敦士、このまま何もせずに諦めるのか? 毎年チャレンジしているんだろう?」
「…………」
「俺はこのあと仕事に出る。その間にこのファイルを見直せ。ヒントは、審査員になったつもりでこれを読むことだ。昼頃一度ここに戻る。詳しい話はそれからしてやろう」
高橋は言い終えるなり頭を上げて、悪夢を見ている人間の気配を辿ってみた。オフィス街のここでは、残念ながら悪夢を見ている者が皆無だったので、遠出して探さないといけない。
気落ちした敦士をそのままに番人としての仕事を果たすべく、大きな窓をすり抜けて飛び立ったのだった。
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