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現の夢
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(二日連続で、悪夢を見ることに失敗した。これじゃあ番人さまが、逢いに来れないじゃないか!)
目覚めた途端に敦士は頭を抱える。しかも二日続けて夢精を続けるという、非常に嫌な醜態までついていた。ネットで調べた悪夢を見る方法を試したというのに、実際見たのは夢の番人との行為ばかり――。
『敦士、俺が来た意味が分かるだろう?』
唇に意味深な笑みを浮かべた夢の番人が言いながら、身に着けていた衣服を素早く脱ぎ捨て、すとんと自分の前に跪く。
「番人さま!?」
『俺はとっとと、おまえから精をいただきたいんだ。つべこべ言わずに差し出せ』
見るからに不機嫌そうな表情で言うなり、スラックスと下着を一緒に下ろして自身を口に含みながら、ねっとりと舌を絡ませる。
「うはっ、ぁあっ!」
眉根を少しだけ寄せて、プラチナブロンドを乱しながら自分を感じさせる夢の番人から、敦士は目が離せなかった。
「ばっ番人さま、僕以外とはこういうこと――」
『するわけがないだろう。だっておまえは約束してくれたんだから。必ず悪夢を見ると』
夢の番人が喋るたびにちらりと見え隠れする赤い舌が、敦士を快感の淵に追いつめるように、感じやすい先端を狙って蠢いた。
『今宵もおまえのモノは元気だな。中に挿れるのが楽しみだぞ』
「番人さま僕は……、僕は貴方の役に立ちたい。そう思って抱いていました」
敦士は夢の番人の口から自身を抜き去り、同じ目線に合わせるべく、いきなりしゃがみ込んだ。
『これからも、俺の役に立ってはくれないのか?』
少しだけ顔を傾けながら、上目遣いで敦士を見る夢の番人の頬に、右手を伸ばした。
「もちろん番人さまのお役に立てるように、頑張って悪夢を見ます。きちんと悪夢を見て、番人さまに精を捧げることを誓います。ですから――」
『なんだ?』
「番人さまのお心を、少しだけいただけないでしょうか。ほんの少しでいいんです」
言いながら顔を近づけて、夢の番人の唇を塞ぐ。自分の無理な願いは間違いなく断られるものだと思ったので、答えられないように敦士は深いキスをした。積極的に舌を絡める敦士に、目を閉じた夢の番人はされるがままでいた。
敦士がひとしきりのキスを終えて顔を離したら、寂しげに微笑む顔が目の前にあり、そんな表情をさせてしまった自分の行為を心底後悔する。
「あの、番人さま?」
『夢の中の出来事は、夢の中で終わる。だからこそおまえのその夢を、ぜひとも叶えてやろうじゃないか。ほんの少しではなく、俺の心のすべてをやろう』
頬に添えていた敦士の手を取り、甲に口づけを落とされる。ひんやりした唇が肌に伝わったことで、夢の番人が傍にいることを改めて感じた。
「ありがとうございます……」
手にした鞭で、自分に暴力を振るっていたキャバ嬢を颯爽と消し去った勇敢な姿や、力なく跪いて弱々しく頼ってきた姿など、他にもいろんな夢の番人の姿を見てきた。なにをするにも怯えて、自信のもてない自分を導いてくれる男らしい性格に、敦士は惹かれずにはいられない――。
自分の中に芽生えた想いを自覚しながら、悪夢を見ようと頑張ってみた3日目。それまで見た夢とはちょっとだけ違う、敦士の心のうちを晒した内容を考えながら瞼を開くと、覆いかぶさるように誰かの顔が目の前にあった。
「ひいっ!!」
「目覚めたか。やはり、悪夢が見られなかったようだな」
長い髪を耳にかけながら遠のいていく夢の番人に、思わず手を伸ばした。しかしそれは夢の番人の躰をすり抜けて、敦士の手は空を掴む。夢の中とは違う現実に、思いっきり落胆するしかない。
「どうした? 悪夢を見られなかったことを悔いているのか?」
ベッドから起き上がった敦士を、夢の番人が立ち上がりながら真顔で訊ねた。
「あ、えっとそんな感じです」
「その口ぶりだと、他にもなにかありそうだな」
敦士はぎくっとしながらも平静を装って、首を横に振った。
「なにもないですよ。それよりも番人さまがここにいるということは、僕の精を貰いに来たのでしょうか?」
「いや。おまえが悪夢を見ることができているのかを、確認しに来ただけだ。まだ余裕はある」
夢精で濡れた下半身の気持ち悪さを必死に隠しながら問いかけた敦士に、夢の番人はきまり悪そうにふいっと顔を横に背けて答える。
「あの、すみませんでした。悪夢が見られなくて」
冷たい態度をとる夢の番人に敦士は慌てふためき、頭を下げながら謝罪した。
「分かっている。普通ならそうそう簡単に、悪夢なんて見られない。現実世界で耐えきれないストレスがかかったり、失恋などで心に傷がついたりして、精神的に追い詰められない限りは、悪夢を見ないだろう」
「僕としては仕事で毎日、ストレスがかかりまくりなのに……」
「ほう、それはおかしいな。だったらとりあえず、その仕事ぶりをチェックしてやろうじゃないか。職種はなんだ?」
夢の番人が自分の職場に一緒に行こうとしていることに、敦士は驚きを隠せなかった。
「小さな広告代理店です。名前を聞いても、番人さまは分からないと思いますけど」
「それは奇遇だな、俺も同じ職種で働いていた。なおさらおまえの仕事ぶりをチェックしてダメ出ししつつ、自動的に悪夢を見られるようにしてやろうじゃないか」
横に背けられていた顔が敦士を睨むように見下ろしたせいで、背筋がぞくっとした。
「番人さまが、僕の仕事ぶりをチェックする……。嬉しいような怖いような」
「俺だって今は、夢の番人としての仕事をしているんだ。とっとと動いて、さっさと仕事に行く準備をしろ。もじもじしながら起き上がるな、さっと動け!」
職場に着くまで、追い立てられるように夢の番人にどやされたせいで、朝からすでに疲労に満ちていた敦士。いつでも悪夢を見られる気分になったのだった。
(二日連続で、悪夢を見ることに失敗した。これじゃあ番人さまが、逢いに来れないじゃないか!)
目覚めた途端に敦士は頭を抱える。しかも二日続けて夢精を続けるという、非常に嫌な醜態までついていた。ネットで調べた悪夢を見る方法を試したというのに、実際見たのは夢の番人との行為ばかり――。
『敦士、俺が来た意味が分かるだろう?』
唇に意味深な笑みを浮かべた夢の番人が言いながら、身に着けていた衣服を素早く脱ぎ捨て、すとんと自分の前に跪く。
「番人さま!?」
『俺はとっとと、おまえから精をいただきたいんだ。つべこべ言わずに差し出せ』
見るからに不機嫌そうな表情で言うなり、スラックスと下着を一緒に下ろして自身を口に含みながら、ねっとりと舌を絡ませる。
「うはっ、ぁあっ!」
眉根を少しだけ寄せて、プラチナブロンドを乱しながら自分を感じさせる夢の番人から、敦士は目が離せなかった。
「ばっ番人さま、僕以外とはこういうこと――」
『するわけがないだろう。だっておまえは約束してくれたんだから。必ず悪夢を見ると』
夢の番人が喋るたびにちらりと見え隠れする赤い舌が、敦士を快感の淵に追いつめるように、感じやすい先端を狙って蠢いた。
『今宵もおまえのモノは元気だな。中に挿れるのが楽しみだぞ』
「番人さま僕は……、僕は貴方の役に立ちたい。そう思って抱いていました」
敦士は夢の番人の口から自身を抜き去り、同じ目線に合わせるべく、いきなりしゃがみ込んだ。
『これからも、俺の役に立ってはくれないのか?』
少しだけ顔を傾けながら、上目遣いで敦士を見る夢の番人の頬に、右手を伸ばした。
「もちろん番人さまのお役に立てるように、頑張って悪夢を見ます。きちんと悪夢を見て、番人さまに精を捧げることを誓います。ですから――」
『なんだ?』
「番人さまのお心を、少しだけいただけないでしょうか。ほんの少しでいいんです」
言いながら顔を近づけて、夢の番人の唇を塞ぐ。自分の無理な願いは間違いなく断られるものだと思ったので、答えられないように敦士は深いキスをした。積極的に舌を絡める敦士に、目を閉じた夢の番人はされるがままでいた。
敦士がひとしきりのキスを終えて顔を離したら、寂しげに微笑む顔が目の前にあり、そんな表情をさせてしまった自分の行為を心底後悔する。
「あの、番人さま?」
『夢の中の出来事は、夢の中で終わる。だからこそおまえのその夢を、ぜひとも叶えてやろうじゃないか。ほんの少しではなく、俺の心のすべてをやろう』
頬に添えていた敦士の手を取り、甲に口づけを落とされる。ひんやりした唇が肌に伝わったことで、夢の番人が傍にいることを改めて感じた。
「ありがとうございます……」
手にした鞭で、自分に暴力を振るっていたキャバ嬢を颯爽と消し去った勇敢な姿や、力なく跪いて弱々しく頼ってきた姿など、他にもいろんな夢の番人の姿を見てきた。なにをするにも怯えて、自信のもてない自分を導いてくれる男らしい性格に、敦士は惹かれずにはいられない――。
自分の中に芽生えた想いを自覚しながら、悪夢を見ようと頑張ってみた3日目。それまで見た夢とはちょっとだけ違う、敦士の心のうちを晒した内容を考えながら瞼を開くと、覆いかぶさるように誰かの顔が目の前にあった。
「ひいっ!!」
「目覚めたか。やはり、悪夢が見られなかったようだな」
長い髪を耳にかけながら遠のいていく夢の番人に、思わず手を伸ばした。しかしそれは夢の番人の躰をすり抜けて、敦士の手は空を掴む。夢の中とは違う現実に、思いっきり落胆するしかない。
「どうした? 悪夢を見られなかったことを悔いているのか?」
ベッドから起き上がった敦士を、夢の番人が立ち上がりながら真顔で訊ねた。
「あ、えっとそんな感じです」
「その口ぶりだと、他にもなにかありそうだな」
敦士はぎくっとしながらも平静を装って、首を横に振った。
「なにもないですよ。それよりも番人さまがここにいるということは、僕の精を貰いに来たのでしょうか?」
「いや。おまえが悪夢を見ることができているのかを、確認しに来ただけだ。まだ余裕はある」
夢精で濡れた下半身の気持ち悪さを必死に隠しながら問いかけた敦士に、夢の番人はきまり悪そうにふいっと顔を横に背けて答える。
「あの、すみませんでした。悪夢が見られなくて」
冷たい態度をとる夢の番人に敦士は慌てふためき、頭を下げながら謝罪した。
「分かっている。普通ならそうそう簡単に、悪夢なんて見られない。現実世界で耐えきれないストレスがかかったり、失恋などで心に傷がついたりして、精神的に追い詰められない限りは、悪夢を見ないだろう」
「僕としては仕事で毎日、ストレスがかかりまくりなのに……」
「ほう、それはおかしいな。だったらとりあえず、その仕事ぶりをチェックしてやろうじゃないか。職種はなんだ?」
夢の番人が自分の職場に一緒に行こうとしていることに、敦士は驚きを隠せなかった。
「小さな広告代理店です。名前を聞いても、番人さまは分からないと思いますけど」
「それは奇遇だな、俺も同じ職種で働いていた。なおさらおまえの仕事ぶりをチェックしてダメ出ししつつ、自動的に悪夢を見られるようにしてやろうじゃないか」
横に背けられていた顔が敦士を睨むように見下ろしたせいで、背筋がぞくっとした。
「番人さまが、僕の仕事ぶりをチェックする……。嬉しいような怖いような」
「俺だって今は、夢の番人としての仕事をしているんだ。とっとと動いて、さっさと仕事に行く準備をしろ。もじもじしながら起き上がるな、さっと動け!」
職場に着くまで、追い立てられるように夢の番人にどやされたせいで、朝からすでに疲労に満ちていた敦士。いつでも悪夢を見られる気分になったのだった。
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