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第3章:紡がれる力

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 遠くで俺を呼ぶ声がする――まだ起きたくないのに。妙に体が重たくて、瞼を開けるのも億劫だ。

「こら、半人前っ! いい加減に起きなさい、置いて帰るよ、このバカ者!」

「うっさいなぁ、放っておいてくれって」

「何を言ってんだい、ここをどこだと思って、その言葉が吐けるんだか」

 ――そうえいば俺、何していたっけ……?

「あ……」

「はあぁ……。やっと起きてくれた。手のかかる息子だこと」

 母さんが呆れた顔して、俺を見下ろしていた。背中がやけに痛いと思って起き上がるとそこはベンチで、まだ外にいたことを今更ながら実感させられる。

「俺、自分の体に戻っていたんだ。母さんが戻してくれたのか?」

「いいや、自分で自動的に戻っていたよ。覚えてないのかい?」

「うん、まったく……。そういえば博仁くんは?」

 堕ちた霊を母さんが除霊したのまではしっかりと覚えているけど、その後のことはさっぱり分からない。

 横たわっていた体をしっかりと起こしてベンチに座り直したら、腕を組んで俺を見つめる母さん。その目がやけに真剣すぎて、怖いくらいだ。

「もしかして……。母さんが除霊したのか!?」

 キョロキョロ辺りを見渡しても博仁くんがいないのは一目瞭然で、イヤな予感しかしない。

「最初、あのコに頼まれたよ。除霊してくださいってね」

「そんな……。何で除霊なんて――」

「まぁまぁ、最後まで話を聞きな。結局除霊するにしても最期なんだから、一応本人の望みを聞いてみたんだ」

 慌てふためく俺を慰めるように、手荒く頭を撫でてくれた。

「博仁くんの望み?」

 俺は彼からその望みを聞いていた――だから何とかして、叶えてあげたいって思ったんだ。

「お前と一緒に、迷える霊たちを浄化していきたいってね」

 優しく告げられた言葉に、胸が熱くなっていく。そんな熱を冷ますかのように、晩秋の風がふわっと髪を撫でて吹いていった。

「その願いを叶えるべく、一番身近なものに封印という形で縛り付けてあげたよ。ちょっとばかり、小さいものへ封印しちゃったけど」

 小さく笑って、それを指差した。

「えっ、これに?」

 それは、俺の手に強く握り締められていた数珠だった。

「藤瑪瑙の石の中に、無理やりに入れてあげた。これから常にお前と一緒にいられて、喜んでいるだろうさ」

「話とかは、できないのかな?」

 嬉しくなって紫色の石を、そっと撫でてやる。

「さぁねぇ。それはこれから、追々分かっていくんじゃないかい?」

「今まで以上に大事にするよ。ありがとう母さんっ」

「そうやって張り切るのもいいけど、ほどほどにしておくれよ。尻拭いする、こっちの身にもなって欲しいくらいさ」

 さっきの態度とは一変、苦虫を潰したような表情を浮かべて、さっさと俺を置いていくように歩いて行ってしまった。ヨロヨロしながら立ち上がり、必死に母さんの背中を追いかける。

「待ってって。途中でへばったら、どうしたらいいか」

「ああん? そんなの自力で何とかしなさい。あたしゃもうくたびれた」

 肩を竦めてさっさと帰る背中を見ながら、手にした数珠をぎゅっと握り締めた。

 今まではひとりで対処していた浄化作業が、もしかしたら博仁くんとふたりでできるかもしれない喜びに、自然と笑みが浮かんでしまう。

「博仁くん、一緒に頑張ろうね」

 コソッと話しかけてみたけど、反応はまったくなし――。

「紫色の石はふたつあるけど、どっちに封じたのかな? ねぇ、母さん。博仁くんを封印した石って、どっち側のヤツ?」

「んなこた自分で察しなさい。半人前が!」

「何だよ、もう……。鬼ババめ!」

 ぶつくさ文句を言ってる俺の手の中で、片方の石が光り輝く濃い紫になっていることを知る由もなかった。

 【了】

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