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第3章:紡がれる力
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「おい、優斗っ?」
悲鳴に近い声を聞き、慌てて駆けつけようとした私の目の前を、優斗の光り輝いた霊体が勝手に自分の体へ戻っていった。
戻った瞬間、その場に崩れるように倒れこむ。
「あのコなりに、全力でフルパワーを使い果たしてしまった感じかねぇ」
ムダにデカい息子を抱き起こし、引きずりながらずるずるとベンチまで運んでやった。
「まったく……。図体だけは一人前なんだから」
手荒にベンチに寝かせ、額から流れ落ちる汗を拭っていると、おずおずといった感じで現れた優斗のお友達。
「あの、優斗は大丈夫なんですか?」
「ああ、力を使い果たしただけだからね」
「さっき、優斗の霊体が光っていたのは?」
心配そうに優斗の顔を見つめながら聞いてくれることに対して、素直に答えようか一瞬だけ迷った。それを知ってしまったらさっきみたいに優斗の力を我が物にすべく、とり憑いてしまうかもしれないから。
とり憑く前に、私がさっさと除霊をすればいいだけ――なのに躊躇してしまうのは、優斗がいるからなんだ。
自分の息子を助けて何をしようとしていたのか、それが知りたいとも思った。
「ウチのご先祖様がその昔あくどいことをして繁栄した一族で、そのせいで随分と呪われてしまってね。子孫である私らがその呪いを浄化すべく、頑張ることを科せられているってワケ。子孫の中でも優秀な霊能者には、もれなくご先祖様からご加護をいただけるんだけど、十数年に一度くらいしか、優秀な霊能者は現れなかったんだ」
「もしかして、その優秀な霊能者って」
「信じられないけど、この半人前が優秀らしいね。さっきの光り輝いていた姿がその証拠さ。神威っていうんだよ」
父さんからの話でしか聞いたことがない現象を目の当たりにして、未だに信じられなかった。
「……そうか、優斗。君は選ばれた人間だったんだね」
まるで自分のことのように喜びながら呟く彼に、何て声をかけようかと言葉を選んでいたら。
「僕の役目は、もう終わりました。あとは優斗に託します。だからその……除霊してください」
地獄の業火を使ってしまった彼には、あの世への道を作ることができない。だから浄化ではなく、除霊となってしまうのだけれど――。
「来世への転生もできずに、永遠に地獄での修行……。アンタはそれでいいのかい? 悔いは残っていないのかい?」
それが分かっていながら力を使ってしまった彼に、思わず憐れみの声をかけてしまった。霊能者としては失格だ。
だけど同じ霊能者として、声をかけずにはいられない。誤った力を使ってまで除霊をしていた彼に、何かできることはないかとつい探してしまった。
「悔い……はありますけど、それは僕のワガママですから」
「ワガママ、結構じゃないか。最期なんだよ、遠慮せずに言ってごらん」
最初に出逢ったときは禍々しいオーラを放っていたコだったのに、今は弱々しい感じを漂わせているに、思わず優しく促してみた。
「アンタは堕ちた霊と違って、自分を持ってる。感情も持っている。望みがあるのは当然でしょ? 未来がないからこそ今この場で、ワガママを言ってみたらどうだい」
肩をすくめながら告げると、大きな瞳から涙を流した。
「っ……ありがとう、ござい、ます。僕みたいなのに、優しくしていただいて」
「男でしょ、泣くんじゃないよ。アンタのような素直で可愛いコが息子だったら、あたしゃ随分と楽ができそうなのにね」
ふたり揃って、ベンチで横たわる優斗に視線を移した。
「僕の願いは――」
涙を拭いながらたどたどしく語ってくれる言葉に、何度も頷いてから左手に数珠をかける。
「その願い、是非ともきいてあげようじゃないの。後悔はしないね?」
「いいんですか!? 本当に?」
「ああ。その代わりといっては何だけど、宜しく頼むね」
大きく頷いて両手を合わせたた彼を確認し、望み通りのことをしてあげたのだった。
「おい、優斗っ?」
悲鳴に近い声を聞き、慌てて駆けつけようとした私の目の前を、優斗の光り輝いた霊体が勝手に自分の体へ戻っていった。
戻った瞬間、その場に崩れるように倒れこむ。
「あのコなりに、全力でフルパワーを使い果たしてしまった感じかねぇ」
ムダにデカい息子を抱き起こし、引きずりながらずるずるとベンチまで運んでやった。
「まったく……。図体だけは一人前なんだから」
手荒にベンチに寝かせ、額から流れ落ちる汗を拭っていると、おずおずといった感じで現れた優斗のお友達。
「あの、優斗は大丈夫なんですか?」
「ああ、力を使い果たしただけだからね」
「さっき、優斗の霊体が光っていたのは?」
心配そうに優斗の顔を見つめながら聞いてくれることに対して、素直に答えようか一瞬だけ迷った。それを知ってしまったらさっきみたいに優斗の力を我が物にすべく、とり憑いてしまうかもしれないから。
とり憑く前に、私がさっさと除霊をすればいいだけ――なのに躊躇してしまうのは、優斗がいるからなんだ。
自分の息子を助けて何をしようとしていたのか、それが知りたいとも思った。
「ウチのご先祖様がその昔あくどいことをして繁栄した一族で、そのせいで随分と呪われてしまってね。子孫である私らがその呪いを浄化すべく、頑張ることを科せられているってワケ。子孫の中でも優秀な霊能者には、もれなくご先祖様からご加護をいただけるんだけど、十数年に一度くらいしか、優秀な霊能者は現れなかったんだ」
「もしかして、その優秀な霊能者って」
「信じられないけど、この半人前が優秀らしいね。さっきの光り輝いていた姿がその証拠さ。神威っていうんだよ」
父さんからの話でしか聞いたことがない現象を目の当たりにして、未だに信じられなかった。
「……そうか、優斗。君は選ばれた人間だったんだね」
まるで自分のことのように喜びながら呟く彼に、何て声をかけようかと言葉を選んでいたら。
「僕の役目は、もう終わりました。あとは優斗に託します。だからその……除霊してください」
地獄の業火を使ってしまった彼には、あの世への道を作ることができない。だから浄化ではなく、除霊となってしまうのだけれど――。
「来世への転生もできずに、永遠に地獄での修行……。アンタはそれでいいのかい? 悔いは残っていないのかい?」
それが分かっていながら力を使ってしまった彼に、思わず憐れみの声をかけてしまった。霊能者としては失格だ。
だけど同じ霊能者として、声をかけずにはいられない。誤った力を使ってまで除霊をしていた彼に、何かできることはないかとつい探してしまった。
「悔い……はありますけど、それは僕のワガママですから」
「ワガママ、結構じゃないか。最期なんだよ、遠慮せずに言ってごらん」
最初に出逢ったときは禍々しいオーラを放っていたコだったのに、今は弱々しい感じを漂わせているに、思わず優しく促してみた。
「アンタは堕ちた霊と違って、自分を持ってる。感情も持っている。望みがあるのは当然でしょ? 未来がないからこそ今この場で、ワガママを言ってみたらどうだい」
肩をすくめながら告げると、大きな瞳から涙を流した。
「っ……ありがとう、ござい、ます。僕みたいなのに、優しくしていただいて」
「男でしょ、泣くんじゃないよ。アンタのような素直で可愛いコが息子だったら、あたしゃ随分と楽ができそうなのにね」
ふたり揃って、ベンチで横たわる優斗に視線を移した。
「僕の願いは――」
涙を拭いながらたどたどしく語ってくれる言葉に、何度も頷いてから左手に数珠をかける。
「その願い、是非ともきいてあげようじゃないの。後悔はしないね?」
「いいんですか!? 本当に?」
「ああ。その代わりといっては何だけど、宜しく頼むね」
大きく頷いて両手を合わせたた彼を確認し、望み通りのことをしてあげたのだった。
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