12 / 14
第3章:紡がれる力
4
しおりを挟む
大きく動き出した堕ちた霊に気がついて数珠をかけ直し、早口で呪文を唱えはじめる。
頑張ってる母さんに心の中で礼を言ってふわりと飛び上がり、博仁くんの元に急いだ。だけど結界から飛び出した俺に気がつき、堕ちた霊が音もなくたくさんの触手を差し向けてくる。
怖さを振り切りながら黒い塊が体に巻きつく前に、大声で叫んでやった。
「散れっ!!」
次の瞬間、粉砕された塊が霧のようになって空中に消えていく。だが消えた傍から新たに生成された触手が、こちらに向かってやって来た。
「優斗っ、危ないっ!」
近づいてきた俺に気がつき、博仁くんが大声で叫ぶ。
「行く手を邪魔するなよ、んもぅ!!」
素早く体を回転させながら、わざと触手を巻き込んで一気に消し去りながら、博仁くんの傍に降り立った。
「その姿、どうしたんだ。一体?」
俺の姿を見て驚く彼に両手を伸ばし、ズルズルと引っ張ってあげる。
「分からないっ……。クソッ、あと少しなのに」
攻撃してくる触手を感知しつつ、蹴散らしながら博仁くんを引っ張っているので、動きをいちいち止めないと何もできなかった。
「優斗、その力を僕に少しだけ貰ってもいいか? 君はアイツの攻撃を阻止することに専念してくれ」
「分かった。でも少ししかあげられないと思う。そこまで力が残ってるとは思えないから」
俺の言葉を聞きながら目を閉じて、掴んでいる手をぎゅっと握り締める博仁くん。あたたかい何かが、ゆっくりと彼に流れ込んでいく感覚が伝わっていった。
「よしっ! 手を離しても大丈夫だ。自力で脱出する」
その言葉を聞き、手を離してやって来る触手を倒していく。粉砕しながら横目で博仁くんを見たら、足にまとわりついてる堕ちた霊の塊を、聞いたことのない呪文を告げてドロドロにしていた。
「よしっ、脱出成功だ。優斗!」
立ち上がって、ばしばしと嬉しそうに俺の肩を叩いてくれる。
「でかしたよふたりとも!! 下がっていてちょうだい。一気に消し飛ばしてみせるから」
博仁くんの言葉を聞いて母さんが大きな声で言い放ったので、急いでその場を離れた。
「やっぱ、優斗のお母さんはすごいね。僕がいたから遠慮して、力を制御していたんだよ。一緒に消し去ることだってできたのに」
「博仁くん……」
「君にも君のお母さんにも、たくさん迷惑かけてしまって、本当に済まなかったと思う。ごめん、優斗」
まるで消えてしまいそうな笑みを浮かべて、俺に謝ってくれる博仁くんの背後が、ぶわっと光り輝く。堕ちた霊が粉砕された瞬間だった。
あんなに黒くてドロドロしていた霊だったのに、除霊されるときはすっごくキレイなんだな。
「僕もああやって、除霊されなきゃ……」
「えっ!? どうして」
除霊されなきゃならないんだよって言おうとしたのに、目の前が真っ白な世界に覆われていった。
「あ、あれ?」
何も見えない――博仁くんも母さんも何もかも……。
「おい、優斗っ?」
遠くで俺を呼ぶ声を聞きながら重たくなっていく体を感じて、ふっと意識を飛ばしたのだった。
頑張ってる母さんに心の中で礼を言ってふわりと飛び上がり、博仁くんの元に急いだ。だけど結界から飛び出した俺に気がつき、堕ちた霊が音もなくたくさんの触手を差し向けてくる。
怖さを振り切りながら黒い塊が体に巻きつく前に、大声で叫んでやった。
「散れっ!!」
次の瞬間、粉砕された塊が霧のようになって空中に消えていく。だが消えた傍から新たに生成された触手が、こちらに向かってやって来た。
「優斗っ、危ないっ!」
近づいてきた俺に気がつき、博仁くんが大声で叫ぶ。
「行く手を邪魔するなよ、んもぅ!!」
素早く体を回転させながら、わざと触手を巻き込んで一気に消し去りながら、博仁くんの傍に降り立った。
「その姿、どうしたんだ。一体?」
俺の姿を見て驚く彼に両手を伸ばし、ズルズルと引っ張ってあげる。
「分からないっ……。クソッ、あと少しなのに」
攻撃してくる触手を感知しつつ、蹴散らしながら博仁くんを引っ張っているので、動きをいちいち止めないと何もできなかった。
「優斗、その力を僕に少しだけ貰ってもいいか? 君はアイツの攻撃を阻止することに専念してくれ」
「分かった。でも少ししかあげられないと思う。そこまで力が残ってるとは思えないから」
俺の言葉を聞きながら目を閉じて、掴んでいる手をぎゅっと握り締める博仁くん。あたたかい何かが、ゆっくりと彼に流れ込んでいく感覚が伝わっていった。
「よしっ! 手を離しても大丈夫だ。自力で脱出する」
その言葉を聞き、手を離してやって来る触手を倒していく。粉砕しながら横目で博仁くんを見たら、足にまとわりついてる堕ちた霊の塊を、聞いたことのない呪文を告げてドロドロにしていた。
「よしっ、脱出成功だ。優斗!」
立ち上がって、ばしばしと嬉しそうに俺の肩を叩いてくれる。
「でかしたよふたりとも!! 下がっていてちょうだい。一気に消し飛ばしてみせるから」
博仁くんの言葉を聞いて母さんが大きな声で言い放ったので、急いでその場を離れた。
「やっぱ、優斗のお母さんはすごいね。僕がいたから遠慮して、力を制御していたんだよ。一緒に消し去ることだってできたのに」
「博仁くん……」
「君にも君のお母さんにも、たくさん迷惑かけてしまって、本当に済まなかったと思う。ごめん、優斗」
まるで消えてしまいそうな笑みを浮かべて、俺に謝ってくれる博仁くんの背後が、ぶわっと光り輝く。堕ちた霊が粉砕された瞬間だった。
あんなに黒くてドロドロしていた霊だったのに、除霊されるときはすっごくキレイなんだな。
「僕もああやって、除霊されなきゃ……」
「えっ!? どうして」
除霊されなきゃならないんだよって言おうとしたのに、目の前が真っ白な世界に覆われていった。
「あ、あれ?」
何も見えない――博仁くんも母さんも何もかも……。
「おい、優斗っ?」
遠くで俺を呼ぶ声を聞きながら重たくなっていく体を感じて、ふっと意識を飛ばしたのだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
開示請求
工事帽
ホラー
不幸な事故を発端に仕事を辞めた男は、動画投稿で新しい生活を始める。順調に増える再生数に、新しい生活は明るいものに見えた。だが、投稿された一つのコメントからその生活に陰が差し始める。
嘘ではなく秘め事
mitokami
ホラー
とある学校で発生した[おばけ]絡みの御話。主人公はこの物語で、自分が所有する嘘ではない秘め事を増やします。
「第3回ホラー・ミステリー小説大賞」このイベントに気付いたのが2020/03/28の夜。新しく考えて投稿するには時間が無いので、他のサイトで投稿した御話をプロットに、再編集して投稿しています。
雷命の造娘
凰太郎
ホラー
闇暦二八年──。
〈娘〉は、独りだった……。
〈娘〉は、虚だった……。
そして、闇暦二九年──。
残酷なる〈命〉が、運命を刻み始める!
人間の業に汚れた罪深き己が宿命を!
人類が支配権を失い、魔界より顕現した〈怪物〉達が覇権を狙った戦乱を繰り広げる闇の新世紀〈闇暦〉──。
豪雷が産み落とした命は、はたして何を心に刻み生きるのか?
闇暦戦史、第二弾開幕!
魂(たま)抜き地蔵
Hiroko
ホラー
遠い過去の記憶の中にある五体の地蔵。
暗く濡れた山の中、私はなぜ母親にそこに連れて行かれたのか。
このお話は私の考えたものですが、これは本当にある場所で、このお地蔵さまは実在します。写真はそのお地蔵さまです。あまりアップで見ない方がいいかもしれません。
短編ホラーです。
ああ、原稿用紙十枚くらいに収めるつもりだったのに……。
どんどん長くなってしまいました。
【連作ホラー】伍横町幻想 —Until the day we meet again—
至堂文斗
ホラー
――その幻想から、逃れられるか。
降霊術。それは死者を呼び出す禁忌の術式。
歴史を遡れば幾つも逸話はあれど、現実に死者を呼ぶことが出来たかは定かでない。
だがあるとき、長い実験の果てに、一人の男がその術式を生み出した。
降霊術は決して公に出ることはなかったものの、書物として世に残り続けた。
伍横町。そこは古くから気の流れが集まる場所と言われている小さな町。
そして、全ての始まりの町。
男が生み出した術式は、この町で幾つもの悲劇をもたらしていく。
運命を狂わされた者たちは、生と死の狭間で幾つもの涙を零す。
これは、四つの悲劇。
【魂】を巡る物語の始まりを飾る、四つの幻想曲――。
【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】
「――霧夏邸って知ってる?」
事故により最愛の娘を喪い、 降霊術に狂った男が住んでいた邸宅。
霊に会ってみたいと、邸内に忍び込んだ少年少女たちを待ち受けるものとは。
【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】
「どうか、目を覚ましてはくれないだろうか」
眠りについたままの少女のために、 少年はただ祈り続ける。
その呼び声に呼応するかのように、 少女は記憶の世界に覚醒する。
【流刻園幻想 ―Omnia fert aetas―】
「……だから、違っていたんだ。沢山のことが」
七不思議の噂で有名な流刻園。夕暮れ時、教室には二人の少年少女がいた。
少年は、一通の便箋で呼び出され、少女と別れて屋上へと向かう。それが、悲劇の始まりであるとも知らずに。
【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】
「……ようやく、時が来た」
伍横町で降霊術の実験を繰り返してきた仮面の男。 最愛の女性のため、彼は最後の計画を始動する。
その計画を食い止めるべく、悲劇に巻き込まれた少年少女たちは苛酷な戦いに挑む。
伍横町の命運は、子どもたちの手に委ねられた。
リバーサイドヒル(River Side Hell)
グタネコ
ホラー
リバーサイドヒル。川岸のマンション。Hillのiがeに変わっている。リーバーサイドヘル
川岸の地獄。日が暮れて、マンションに明かりが灯る。ここには窓の数だけ地獄がある。次に越してくるのは誰? あなた?。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる