32 / 58
Piano:重なる想い
3
しおりを挟む
***
「まったく……。ホントに講義に出てるの?」
現在叶さん宅にお邪魔している。いつものように課題をこなしている俺の傍で、彼女はお持ち帰りの仕事をしていた。
一服すべく、叶さんが淹れてくれたお茶をすする。
「出てるよ、ちゃんと」
出てるけど全然頭に入ってないので、出てないのと同じだろう。
呆れ顔の叶さんを見ると、胸がキュンとした。この人が俺の彼女なんて、未だに信じられないや、ほわーん。
「また変なコトを考えてるし」
「叶さんには何でもお見通しだね。嬉しいなぁ」
「留年するわよ」
「それもいいかもなぁ。こうやって叶さんに勉強を見てもらえるし」
またまたほわーんとする俺を見て、深い溜息をつく叶さん。その見る目の白いことこの上ない。
「おバカな彼氏は持ちたくないわ、留年したら振ってやる」
彼氏というフレーズに一瞬歓喜したが、その後の言葉で現実に戻された。振るだけは勘弁してほしい……。
「振られないように頑張ります、はいっ!」
俄然やる気の上がった俺なのだが、その集中力は蟻んこ並みでだった。手を止めるとついつい、叶さんを見つめてしまう。その視線に気がつくと左手をグーの形を作って、殴るわよと無言で脅してきた。
「ちょっとくらいいいじゃん、減るもんじゃないのに」
ボソッと文句を言うと、振りかぶって殴られた。かなり痛い、本気で殴ったな……。
「こっちだって仕事してんの。チラチラ見られたら落ち着かないでしょ。君は私の邪魔をしたいの?」
「邪魔する気なんて、さらさらないよ。だけどしょうがないじゃないか。叶さんが好きなんだから」
「…………」
叶さんは俺の言葉に反応せず溜息ひとつついて、パソコンの画面を見る。華麗に俺の気持ちをスルー……いつもそうだ、このやり取り。
俺はこたつむりよろしく、その場にゴロンと寝転がった。
モヤモヤ考えてても仕方ない、お腹もすいたし何か食べよう。
立ちあがりキッチンに向かって、冷蔵庫を開けてみた。いつも通り何も入ってない――
「叶さん、どうして冷蔵庫にカロリーメイトが入ってるんですか?」
キンキンに冷やして、食べたら美味しいとか?
しかし、俺の質問をしっかり無視……。次に冷凍庫を開けてみる。
「叶さん、どうして冷凍庫に、スルメイカが入ってるんですか?」
もしかしてこれも、凍らせて食べると美味しいとか?
「……多分この間、会社帰りにコンビニに寄って、ワンカップと一緒に買った物だと思う」
「ワンカップ……」
――オヤジか!?
「帰りながら一気呑みしたら酔いが回って、その勢いで入れたんじゃないかな」
空腹にお酒入れるから酔うんだよ、まったく。
内心呆れながら冷凍庫を閉めて、自分の財布を手に玄関に行った。
「そこのスーパーで食材買って来ます。何か食べたい物はないっすか?」
叶さんの後姿に問いかける。
「賢一くんの作る物なら、何でも食べる」
なぁんて可愛いことを言ってくれた。堪らずに後ろからぎゅっと抱きしめてやる。えい。
「仕事中!」
そんな怒りをスルーして甘えながら(とか言いつつ恐る恐る)聞いてみる。
「今晩泊ったらダメ?」
「何で?」
「明日からバンドメンバーのオーディションするから、しばらく会えなくなるし」
会えなくなるのが寂しいとは言えない。でもあっさりと承諾してくれた、稀にみる奇跡!!
「私もこれから遅くまで残業が続くと思うから、今までのように会えないと思う」
「それじゃあ、朝ごはんの食材も一緒に買って来ます。何を作ろうかなぁ」
離れる前にもう一度抱きしめてから、軽い足取りで玄関に向かった。ウキウキしながら、スーパーに向かう。
一晩だけどずっと一緒にいられることが、嬉しくて堪らなかった。
「まったく……。ホントに講義に出てるの?」
現在叶さん宅にお邪魔している。いつものように課題をこなしている俺の傍で、彼女はお持ち帰りの仕事をしていた。
一服すべく、叶さんが淹れてくれたお茶をすする。
「出てるよ、ちゃんと」
出てるけど全然頭に入ってないので、出てないのと同じだろう。
呆れ顔の叶さんを見ると、胸がキュンとした。この人が俺の彼女なんて、未だに信じられないや、ほわーん。
「また変なコトを考えてるし」
「叶さんには何でもお見通しだね。嬉しいなぁ」
「留年するわよ」
「それもいいかもなぁ。こうやって叶さんに勉強を見てもらえるし」
またまたほわーんとする俺を見て、深い溜息をつく叶さん。その見る目の白いことこの上ない。
「おバカな彼氏は持ちたくないわ、留年したら振ってやる」
彼氏というフレーズに一瞬歓喜したが、その後の言葉で現実に戻された。振るだけは勘弁してほしい……。
「振られないように頑張ります、はいっ!」
俄然やる気の上がった俺なのだが、その集中力は蟻んこ並みでだった。手を止めるとついつい、叶さんを見つめてしまう。その視線に気がつくと左手をグーの形を作って、殴るわよと無言で脅してきた。
「ちょっとくらいいいじゃん、減るもんじゃないのに」
ボソッと文句を言うと、振りかぶって殴られた。かなり痛い、本気で殴ったな……。
「こっちだって仕事してんの。チラチラ見られたら落ち着かないでしょ。君は私の邪魔をしたいの?」
「邪魔する気なんて、さらさらないよ。だけどしょうがないじゃないか。叶さんが好きなんだから」
「…………」
叶さんは俺の言葉に反応せず溜息ひとつついて、パソコンの画面を見る。華麗に俺の気持ちをスルー……いつもそうだ、このやり取り。
俺はこたつむりよろしく、その場にゴロンと寝転がった。
モヤモヤ考えてても仕方ない、お腹もすいたし何か食べよう。
立ちあがりキッチンに向かって、冷蔵庫を開けてみた。いつも通り何も入ってない――
「叶さん、どうして冷蔵庫にカロリーメイトが入ってるんですか?」
キンキンに冷やして、食べたら美味しいとか?
しかし、俺の質問をしっかり無視……。次に冷凍庫を開けてみる。
「叶さん、どうして冷凍庫に、スルメイカが入ってるんですか?」
もしかしてこれも、凍らせて食べると美味しいとか?
「……多分この間、会社帰りにコンビニに寄って、ワンカップと一緒に買った物だと思う」
「ワンカップ……」
――オヤジか!?
「帰りながら一気呑みしたら酔いが回って、その勢いで入れたんじゃないかな」
空腹にお酒入れるから酔うんだよ、まったく。
内心呆れながら冷凍庫を閉めて、自分の財布を手に玄関に行った。
「そこのスーパーで食材買って来ます。何か食べたい物はないっすか?」
叶さんの後姿に問いかける。
「賢一くんの作る物なら、何でも食べる」
なぁんて可愛いことを言ってくれた。堪らずに後ろからぎゅっと抱きしめてやる。えい。
「仕事中!」
そんな怒りをスルーして甘えながら(とか言いつつ恐る恐る)聞いてみる。
「今晩泊ったらダメ?」
「何で?」
「明日からバンドメンバーのオーディションするから、しばらく会えなくなるし」
会えなくなるのが寂しいとは言えない。でもあっさりと承諾してくれた、稀にみる奇跡!!
「私もこれから遅くまで残業が続くと思うから、今までのように会えないと思う」
「それじゃあ、朝ごはんの食材も一緒に買って来ます。何を作ろうかなぁ」
離れる前にもう一度抱きしめてから、軽い足取りで玄関に向かった。ウキウキしながら、スーパーに向かう。
一晩だけどずっと一緒にいられることが、嬉しくて堪らなかった。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
副社長と出張旅行~好きな人にマーキングされた日~【R18】
日下奈緒
恋愛
福住里佳子は、大手企業の副社長の秘書をしている。
いつも紳士の副社長・新田疾風(ハヤテ)の元、好きな気持ちを育てる里佳子だが。
ある日、出張旅行の同行を求められ、ドキドキ。
性欲のない義父は、愛娘にだけ欲情する
如月あこ
恋愛
「新しい家族が増えるの」と母は言った。
八歳の有希は、母が再婚するものだと思い込んだ――けれど。
内縁の夫として一緒に暮らすことになった片瀬慎一郎は、母を二人目の「偽装結婚」の相手に選んだだけだった。
慎一郎を怒らせないように、母や兄弟は慎一郎にほとんど関わらない。有希だけが唯一、慎一郎の炊事や洗濯などの世話を妬き続けた。
そしてそれから十年以上が過ぎて、兄弟たちは就職を機に家を出て行ってしまった。
物語は、有希が二十歳の誕生日を迎えた日から始まる――。
有希は『いつ頃から、恋をしていたのだろう』と淡い恋心を胸に秘める。慎一郎は『有希は大人の女性になった。彼女はいずれ嫁いで、自分の傍からいなくなってしまうのだ』と知る。
二十五歳の歳の差、養父娘ラブストーリー。
【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。
どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。
婚約破棄ならぬ許嫁解消。
外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。
※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。
R18はマーク付きのみ。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる