Piano～ピアノ～

重なる想い２

４

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　短時間で簡単に作れる物をと、サンドイッチと卵スープ、サラダを作った。それらの料理を無言で食べる叶さんをチラチラ見ながら、俺も食べる。

　むー緊張する、口に合ってるだろうか？

「さっきから何でこっちを見るの。すっごく食べにくいんだけど」

「だって……」

「とっても美味しいから」

　フフッと笑いながら、そう言ってくれた。

　体の力が抜ける、良かった……って、もしかしてこの微妙な間も、イジワルな展開だったのか!?　――恐るべし、叶さん。

「料理はよくするの？」

「はい。俺ん家が共働きで両親は遅くまで働いてたし、小遣いは楽器を買うのに使ってたから、外食ができなかったんですよ。だから自宅でよく作ってました。まさやんに、いいお嫁さんになれるってよく言われたなぁ」

　すると、疑いの眼で俺を見る。

「やっぱり君達ふたりって……」

「ややっ、違いますから。叶さんまでやめて下さいよ」

「叶さんまでって、他の人にも言われてるんだ？」

　俺は何もしていない、はっきり断言する！　すべてはまさやんが公衆の面前で、怪しいことをするからだ。

　今日のカフェスペースでの出来事を思い出し、ほんのりと頬に熱を持った。何だってあんな技を取得しているんだ？　理工学部って、そんなことを教えてるわけじゃないだろうな。

　しかもまさやんから放たれる魅惑的なフェロモン、何だあれ？　男女問わずに、クラクラさせるものなのか？　質は違うけど、叶さんもフェロモン出てるもんな。

「何で顔を真っ赤にしてるの？」

「叶さんのフェロモンに、ムラムラっとやられてる最中」

　まさやんに教えてもらった技を、今晩使ってみるかな。

「鼻の下３センチ伸びた。絶対にいやらしいことを考えてるでしょ」

　ズバリと見抜かれ絶句するしかない。何で俺ってば、顔に全部出ちゃうんだろ。

　卵スープをスプーンでぐるぐるかき回してる間に叶さんは食べ終わり、台所で洗い物を始める。

　勘の良い彼女を持つと大変だ、サプライズ的なこともできやしない。

　俺もさっさと食べて後片付けをした。

「じゃあ先にシャワー浴びてくるね」

　そう言って、横を通る叶さんを慌ててひき止める。

「叶さん、シャワーじゃ疲れはとれないよ。お風呂に入って温まって、きちんとゆっくりしなきゃ」

　俺はポケットから入浴剤ゆず湯を取り出した。さっき食材と一緒に、ちゃっかり買ってきたのだ。

　そんな俺の顔を見て、渋い表情の叶さんが一言告げる。

「一緒に、お風呂なんか入らないわよ」

「入れなくてもいいんですっ。ただ叶さんに日ごろの疲れを取ってもらいたくて、これを買ったんですから」

　疑う叶さんの手に、無理矢理入浴剤を手渡した。

「そこまで言うんなら、お風呂にお湯はってくる。まったく――お節介焼きなんだから、賢一くんは！」

　俺に体当たりしてから風呂場に行く叶さんを見て、こっそりほくそ笑んだ。

　一緒に入れなくてもいい。しっかり疲れをとればいいのだ。そしたらアノ最中に眠ることはあるまい。

「そうそう、賢一くん」

　お風呂場から声がする。エコーのかかった叶さんの声が、どこか煽情的に聞こえてしまうな。

「君が買い物行ってる間に、課題のチェックしておいたよ。間違いだらけで採点が大変だったわ」

「そうっすか」

「全部やり直しだから」

「えっ!?」

「あれをやり直すのは、一晩かかると思うな。頑張ってね」

　俺は何も言葉が出てこなかった。日ごろの行いが悪いからこの始末なんだろう。やはり二枚も三枚も、上手な叶さん――いつか勝てる日が来るのだろうか。違う意味で今夜は眠れそうにない。