62 / 64
Scarfaceキズアト
Scarface:貴方を守るために3
しおりを挟む
***
事務所から戻ってきてちょっとしてから、昴さんも自宅に帰ってきた。無言でいつものソファに座り、前屈みになって何かを考える姿に、恐るおそる声をかけてみる。
「あの昴さん、昼飯食べますか?」
「悪いなぁ、今あまり腹が減ってなくて。あとでいいか?」
俺の顔をじっと見て、淋しそうに笑う。
さっき事務所で見た怖い顔と今の顔、まるで別人みたいだな。
「わかった、腹減ったら言って。すぐに用意するしさ」
おどおどしながら告げると、なぜか昴さんの目から涙が零れ、ゆっくりと頬を伝った。
「ちょっ、どうしたんだよ!? 具合でも悪いのかっ」
あまりの出来事に驚いて、そっと昴さんの額に手を当てた。手のひらから伝わってくる温かさで、熱がないのはすぐに分かったけど――
「なんで泣いちまったんだ、俺……」
どこか呆然としたまま、独り言のように呟く。
「もしかして、親父さんとケンカでもしたのか? 昴さん何か、怒鳴っていただろ」
「ああ、あれな。親子ケンカみたいなもんさ、いつものことなんだ」
中腰で心配する俺に、無理やり笑ってみせる。
いつまで経っても涙を拭わないので、右手を出してそっと拭いてやると、俺の手に自分の手を被せてきた。
温かい昴さんの手の熱が、じわりと俺のすべてを温める。
「いつもお前には、こうして世話になりっぱなしだな」
「そんな……俺の方がここで世話になってるから、せめて何か出来たらって」
「それで俺がやる仕事を、代わりにやろうって思ったのか。バカだな、マジで」
三白眼の瞳に力を入れて、目の前にある俺の顔をギロリと睨む。それが怖いの何のって。
無言で睨まれる怖さと一緒に感じてしまった感情を悟られたくなくて、掴まれている手を無理やり外し、そっぽを向きながら後ろに隠した。掴まれてた右手が、異様に熱くなってる――
背中に隠しながら左手で意味なく、にぎにぎしてしまった。
そっぽを向いて、ふてくされてる俺は傍から見たら、怒られてるように見えるだろうな。
「だって……昴さんの役に立ちたかったから。少しでも何か、出来ればなって」
「料理や洗濯が出来ても、ケンカは弱いじゃないか。お前は」
「それは、そうだけどさ……」
「しかも相手は:刑事(デカ)なんだ。慎重かつ的確にやらなきゃならないんだぞ、まったく」
言いながら、胸元からおもむろにそれをテーブルに置いた。
「……拳銃」
俺はただただ息を飲んで、黒光りする拳銃を眺める。
(――こんな物を使って、脅すっていうのか?)
「山上の相棒を狙って撃てばいい。それでお前の仕事は終わりだ」
「山上の相棒を撃てば、山上は組のことから、手を引いてくれるんですか?」
「親父はそう考えてるみたいだが、俺は逆上して徹底的に潰しにかかってくると思ってる」
投げ捨てるように言って、ソファにごろんと横になる昴さん。
「山上がどれだけその相棒を、大事にしてるか分からないが。……ん、中途半端なことするヤツじゃなから、深く愛してるだろうなぁ」
「はあ……」
「お前がコレで相棒を狙ったら、山上はそいつと逃げるかもしれない。そしたら足を狙えよ」
「足を狙えって、動いてる人間を撃てるんだろうか。すっごく不安……」
俺が寝転んでいる昴さんに視線を飛ばすと、ふわっと笑って起き上がり、よしよしするみたいに頭を撫でくれた。それだけで不安が瞬く間に解消される俺って、本当に単純なのかもしれない。
「逃げたらの話だ、大丈夫。俺がしっかりコレの使い方、教えてやるから」
苦笑いしながら言う昴さんには悪いけど、こっそりこんなことを考えていた。
俺が拳銃を構えると、ふたり揃って背を向けて、脱兎のごとくどこかに走り出す。逃げ出す相棒の足元目掛けて撃つけど、地面に当たり失敗。俺はそのまま、逆方向に逃走する。
これでも十分な脅しになるんじゃないかって、甘い考えをしたのだ。
それでも真面目に拳銃の扱い方をマスターすべく、昴さんから特訓を毎日受けた。
飲み込みが早いと褒められたせいもあって、夢中になって練習に明け暮れる。大好きな人の代わりが出来るように、しっかり務めようと頑張ったのだった。
事務所から戻ってきてちょっとしてから、昴さんも自宅に帰ってきた。無言でいつものソファに座り、前屈みになって何かを考える姿に、恐るおそる声をかけてみる。
「あの昴さん、昼飯食べますか?」
「悪いなぁ、今あまり腹が減ってなくて。あとでいいか?」
俺の顔をじっと見て、淋しそうに笑う。
さっき事務所で見た怖い顔と今の顔、まるで別人みたいだな。
「わかった、腹減ったら言って。すぐに用意するしさ」
おどおどしながら告げると、なぜか昴さんの目から涙が零れ、ゆっくりと頬を伝った。
「ちょっ、どうしたんだよ!? 具合でも悪いのかっ」
あまりの出来事に驚いて、そっと昴さんの額に手を当てた。手のひらから伝わってくる温かさで、熱がないのはすぐに分かったけど――
「なんで泣いちまったんだ、俺……」
どこか呆然としたまま、独り言のように呟く。
「もしかして、親父さんとケンカでもしたのか? 昴さん何か、怒鳴っていただろ」
「ああ、あれな。親子ケンカみたいなもんさ、いつものことなんだ」
中腰で心配する俺に、無理やり笑ってみせる。
いつまで経っても涙を拭わないので、右手を出してそっと拭いてやると、俺の手に自分の手を被せてきた。
温かい昴さんの手の熱が、じわりと俺のすべてを温める。
「いつもお前には、こうして世話になりっぱなしだな」
「そんな……俺の方がここで世話になってるから、せめて何か出来たらって」
「それで俺がやる仕事を、代わりにやろうって思ったのか。バカだな、マジで」
三白眼の瞳に力を入れて、目の前にある俺の顔をギロリと睨む。それが怖いの何のって。
無言で睨まれる怖さと一緒に感じてしまった感情を悟られたくなくて、掴まれている手を無理やり外し、そっぽを向きながら後ろに隠した。掴まれてた右手が、異様に熱くなってる――
背中に隠しながら左手で意味なく、にぎにぎしてしまった。
そっぽを向いて、ふてくされてる俺は傍から見たら、怒られてるように見えるだろうな。
「だって……昴さんの役に立ちたかったから。少しでも何か、出来ればなって」
「料理や洗濯が出来ても、ケンカは弱いじゃないか。お前は」
「それは、そうだけどさ……」
「しかも相手は:刑事(デカ)なんだ。慎重かつ的確にやらなきゃならないんだぞ、まったく」
言いながら、胸元からおもむろにそれをテーブルに置いた。
「……拳銃」
俺はただただ息を飲んで、黒光りする拳銃を眺める。
(――こんな物を使って、脅すっていうのか?)
「山上の相棒を狙って撃てばいい。それでお前の仕事は終わりだ」
「山上の相棒を撃てば、山上は組のことから、手を引いてくれるんですか?」
「親父はそう考えてるみたいだが、俺は逆上して徹底的に潰しにかかってくると思ってる」
投げ捨てるように言って、ソファにごろんと横になる昴さん。
「山上がどれだけその相棒を、大事にしてるか分からないが。……ん、中途半端なことするヤツじゃなから、深く愛してるだろうなぁ」
「はあ……」
「お前がコレで相棒を狙ったら、山上はそいつと逃げるかもしれない。そしたら足を狙えよ」
「足を狙えって、動いてる人間を撃てるんだろうか。すっごく不安……」
俺が寝転んでいる昴さんに視線を飛ばすと、ふわっと笑って起き上がり、よしよしするみたいに頭を撫でくれた。それだけで不安が瞬く間に解消される俺って、本当に単純なのかもしれない。
「逃げたらの話だ、大丈夫。俺がしっかりコレの使い方、教えてやるから」
苦笑いしながら言う昴さんには悪いけど、こっそりこんなことを考えていた。
俺が拳銃を構えると、ふたり揃って背を向けて、脱兎のごとくどこかに走り出す。逃げ出す相棒の足元目掛けて撃つけど、地面に当たり失敗。俺はそのまま、逆方向に逃走する。
これでも十分な脅しになるんじゃないかって、甘い考えをしたのだ。
それでも真面目に拳銃の扱い方をマスターすべく、昴さんから特訓を毎日受けた。
飲み込みが早いと褒められたせいもあって、夢中になって練習に明け暮れる。大好きな人の代わりが出来るように、しっかり務めようと頑張ったのだった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる