貴方が残してくれたもの

相沢蒼依

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Scarfaceキズアト

Scarface:貴方を守るために2

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***

 昴は親父のことを、ぶち殺しそうな勢いで睨み倒した。 

「ワザとだろ、この場に竜生を呼んだのは。俺の代わりにするのにさ」

「偶然だ、俺の腹が鳴っていたからな」

「ふざけんじゃねぇよ、長い付き合いしてんだから分かるって」

 自分じゃ制御できない苛立ちを、デスクをガンガン殴ることによって表す。

 このタヌキ親父と長いこと一緒に仕事をしてきたのだ、分かりたくなくても分かってしまう。
 
 昴は両拳を、ぎゅっと強く握りしめた。

「いい面構えだ、そんなにシャムが大事か? 代わりはいくらでもいるだろう」

「竜生はこの世で、たったひとりきりの存在です。代わりなんていない――大事なヤツなんだよ! なのにっ」

「昴、俺にとってお前は、ひとりきりの存在だ。この組にとっては、かけがえのない大事な幹部なんだぞ。この違いが分かるか?」

 諭すように言う親父の言葉に、下唇を噛んだ。
 
 自分の立場を呪ったのは、いつ以来だろうか……。大切にしたいヤツが、掌からすり抜けていく、このイヤな感じ――

「早めに銃の扱い方教えておけよ、いつでも行けるようにな」

「……はい」

「遅くても、一週間以内に死んでもらうから」

「やめてくれ、そんな言い方……」

 突きつけられた現実を見たくなくて、両目を閉じながら俯いて、やっと言葉にした。

 ……竜生が俺の代わりに、この世からいなくなる。好きなヤツがいなくなるんだ、胸が軋むように痛い、痛すぎる。

「ああ、済まない。消えてもらうが、正しいか」

 もう何人も下の者を切っている親父は、心が痛むことはないのだろう。麻痺してるといってもいい。そうやって組を、どんどん大きくさせていったのだから。
 
 そして組の繁栄に、俺自身も加担しているのだから同罪なれど――

 組を守るためにこのまま大事な竜生を、犠牲にしていいのだろうか……

「お前、一時の感情に流されると、前みたいな失敗するぞ。常に冷静であれ」

「分かってる。親父の言うことを聞いていれば、間違った道に行かなくて済むしな。親父のお陰で、今の自分がいることが出来てる」

 逆らいたい衝動に駆られたことが数回あったが、それでも最後は言うことを聞いていた。親父の信頼を、裏切りたくなかったから。今まで世話になっていたから。

 だのにその親父が目の前で、俺の大事にしてるヤツに直接手を下したのだ。

「それじゃ俺も、仕事が立て込んでるんで、失礼します」

 姿勢を正してから、ゆっくり頭を下げ、きっちりと一礼をした。
 
 奥歯を噛み締め、顔を歪ませながら考える。

 ――このまま好きなヤツを、簡単に見捨てておけるような、冷淡な人間でいられない――

 頭を上げた今は、この部屋に来たときと同じ顔をすることが出来た。

 守らなきゃならないヤツがいる。
 
 それだけでいつも以上に、強くなれる自分がいることに、ようやく気が付いたのだった。
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