貴方が残してくれたもの

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
31 / 64
鏡花水月~Imitation Black~(山上達哉の高校生時代の話)

Imitation Black:堕ちた瞬間2

しおりを挟む
 そしてこの衝撃的な出会いから半年後、もっと衝撃的な場面に出くわした。
 
 それは日直で次の授業に使う物を、備品室へ取りに行ったら――

「山上、俺と付き合ってくれないか?」

 という台詞が、耳に聞こえてきたのだ。
 
 俺は慌てて息をのむ。他人ごとなのに、体が勝手に緊張した。

 適度に往来のある備品室前で、何やってんだと呆れながら、山上に告白した相手をしっかりと確認すべく、こっそりと壁際から確認してみる。
 
 山上は予想通り、べらぼうにモテていたので告白の一つや二つくらいじゃ、驚かなくなっていたけれど、まさか目の前で告白するところを目撃するとは――
 
 あの魅惑的な瞳に見つめられて煽られたのは、自分だけじゃないことにちょっぴり、ほっとしていた。
 
 てか授業に遅れちゃうから、さっさと終わらせて欲しい。

「何、寝ぼけたことを言ってるんですか先輩。受験生なんだから、僕にうつつを抜かしてる場合じゃないでしょう?」

 相手は三年か。山上の人気は、やっぱりすごいや。しかも上級生相手に、辛辣な言葉を吐くのもすごい。
 
 ――俺には到底無理な話。あの妙に整った顔でズバッて言われると、痛み倍増だろう。やれやれ、ご愁傷さま……

 壁にもたれかかりながら、ふたりのやり取りが早く終わらないかなぁと待っていた。
 
 俯いて、ため息一つついたところで、山上が角から出て来て、俺の姿にハッとする。

「もしかして、備品室に用事だった? ごめん、待たせてしまって」

 長い睫毛を伏せて、済まなそうに謝る山上の背後を三年生は、逃げる様にその場を後にした。
 
 思わず、憐みの視線を送ってしまう。

「そんなに待ってないから大丈夫だ。こっちこそ、立ち聞きしたみたいで悪かった」

「何か僕たち、会うたびに謝ってばかりだな」

 先程とは一転、カラカラと可笑しそうに笑いだす、山上の笑顔が眩しかった。

 俺が告白しても同じように、無表情で断るんだろう。きっと、そうに違いない。
 
 刹那さをきゅっと噛みしめながら同じように笑って、俺たちは別れたのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生騎士団長の歩き方

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:2,069

書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:1,622

王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:22,593pt お気に入り:7,098

馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:110

推しの推しが俺らしい。

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:13

ゼラニウムの花束をあなたに

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:134pt お気に入り:3,372

訳あり悪役令嬢は、婚約破棄後の人生を自由に生きる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:3,725

僕よりも可哀想な人はいっぱい居る

BL / 連載中 24h.ポイント:768pt お気に入り:45

処理中です...