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virgin suicide :貴方が残してくれたもの
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「行ったか、水野……」
上半身にかけられてる背広から、水野の温もりがじわりと体に伝わってきた。
「何だか、抱きしめられてる、みたいだな……」
震える手で背広を鼻先まで引き上げて、愛おしい香りを堪能する。この香りを堪能出来るのは、あとどれくらいだろうか?
匂いをかぎながら頭の中に、俺に向かって微笑む、水野の姿を思い浮かべる。ワガママばかり言う僕に、愛想尽かすことなく、よくついてきてくれた。
……愛しい、僕の水野――
痛みを堪えながら、ポケットからスマホを取り出し、関にコールした。
『はい、関です。珍しいな、こんな時間に、連絡くれるなんて』
「緊急事態……発生、なんだよ。悪いドジった……」
『どうした? 怪我でもしてるのか?』
「察しが早くて、助かる。三発、くらっちまった……。相手はマル暴の、下っ端かな。早く手配、しないと消される、ぞ」
『分かった。救急車の手配は?』
「水野が全部、やって、くれたから。今な、そっちに、向かわせてる。バックアップ、しといた資料、水野が届けるから。そこに、いてくれ」
『ああ。待っていればいいんだな。達哉、しっかりしろよ? まだ俺たちの事件は、解決していないんだから』
「わ~ってる、大丈夫。だから……」
喚くように言って、通話を切った。
――正直、大丈夫じゃない。
先程まで撃たれた所が燃えるように痛かったのに、今はその痛みさえ感じなくなってきている。
乱れる息を整えながらスマホを持ち直し、アドレス帳の(い)を、何とか表示してコール。イケてるデカ長、林田さんにかけた。
『もしもし、山上? 捜査で何かトラブルか?』
……何だよ、デカ長。僕はトラブルメーカ、なのか!?
「もしもし、トラブル、みたいな感じかも。撃たれた、から」
『は!?』
「例の、警察内の汚職……。いいトコまで、掴んだ、のに。マル暴使って、僕の水野、狙いやがった」
『山上、お前……?』
「こう、見えて僕、弱いんです。水野のために、強くなろう、って思ったのに……水野の、いない世界、考えられなくて。そう思ったら体が、勝手に前に……出てた」
一気に言葉を吐き出してから、安堵のため息をつく。
誰かに、自分の気持ちを聞いて欲しかった――もう、思い残すことは、ない……かな。
『山上、お前さんは弱くないぞ。しっかり頑張って、今までやってきたじゃないか』
「きっと、バチが、当たったんです。無理矢理、赤い糸を手繰り寄せたから……強引に、手繰り寄せた、反動で切れて……しまったみたい、だ」
水野の赤い糸は、誰と繋がっているのだろう。こんな情けない僕と繋がっていないことは、最初から分かっていたんだ。それに――
(他のヤツに恋してる水野なんて、僕は絶対見たくない)
だから、僕は……先に逝くよ。政隆……ごめんな――
「デカ長……僕からの遺言、お願い……」
『遺言なんて言ってくれるな。山上っ!!』
いつも怒ってばかりなのに、泣きながらデカ長が叫ぶ。
「水野を……頼むわ。アイツ、刑事辞めないように、引き留めてくれ。責任感、強いヤツだから、きっと辞める、って、言い出すはず、だから……」
最期にもう一度、抱きしめたかった。お前の柔らかい唇に、キスしたかったよ。
『山上っ!? しっかりしろっ! 返事してくれっ!』
「政隆……ありが、とう……」
……こんな僕を愛してくれて。お前に出逢えて、本当に良かった――
目に映る水野は、柔らかい笑みを浮かべながら愛しげに僕を見下して、ぎゅっと体を包み込んでくれた。
そのあたたかいぬくもりに包まれたまま、僕は――
「行ったか、水野……」
上半身にかけられてる背広から、水野の温もりがじわりと体に伝わってきた。
「何だか、抱きしめられてる、みたいだな……」
震える手で背広を鼻先まで引き上げて、愛おしい香りを堪能する。この香りを堪能出来るのは、あとどれくらいだろうか?
匂いをかぎながら頭の中に、俺に向かって微笑む、水野の姿を思い浮かべる。ワガママばかり言う僕に、愛想尽かすことなく、よくついてきてくれた。
……愛しい、僕の水野――
痛みを堪えながら、ポケットからスマホを取り出し、関にコールした。
『はい、関です。珍しいな、こんな時間に、連絡くれるなんて』
「緊急事態……発生、なんだよ。悪いドジった……」
『どうした? 怪我でもしてるのか?』
「察しが早くて、助かる。三発、くらっちまった……。相手はマル暴の、下っ端かな。早く手配、しないと消される、ぞ」
『分かった。救急車の手配は?』
「水野が全部、やって、くれたから。今な、そっちに、向かわせてる。バックアップ、しといた資料、水野が届けるから。そこに、いてくれ」
『ああ。待っていればいいんだな。達哉、しっかりしろよ? まだ俺たちの事件は、解決していないんだから』
「わ~ってる、大丈夫。だから……」
喚くように言って、通話を切った。
――正直、大丈夫じゃない。
先程まで撃たれた所が燃えるように痛かったのに、今はその痛みさえ感じなくなってきている。
乱れる息を整えながらスマホを持ち直し、アドレス帳の(い)を、何とか表示してコール。イケてるデカ長、林田さんにかけた。
『もしもし、山上? 捜査で何かトラブルか?』
……何だよ、デカ長。僕はトラブルメーカ、なのか!?
「もしもし、トラブル、みたいな感じかも。撃たれた、から」
『は!?』
「例の、警察内の汚職……。いいトコまで、掴んだ、のに。マル暴使って、僕の水野、狙いやがった」
『山上、お前……?』
「こう、見えて僕、弱いんです。水野のために、強くなろう、って思ったのに……水野の、いない世界、考えられなくて。そう思ったら体が、勝手に前に……出てた」
一気に言葉を吐き出してから、安堵のため息をつく。
誰かに、自分の気持ちを聞いて欲しかった――もう、思い残すことは、ない……かな。
『山上、お前さんは弱くないぞ。しっかり頑張って、今までやってきたじゃないか』
「きっと、バチが、当たったんです。無理矢理、赤い糸を手繰り寄せたから……強引に、手繰り寄せた、反動で切れて……しまったみたい、だ」
水野の赤い糸は、誰と繋がっているのだろう。こんな情けない僕と繋がっていないことは、最初から分かっていたんだ。それに――
(他のヤツに恋してる水野なんて、僕は絶対見たくない)
だから、僕は……先に逝くよ。政隆……ごめんな――
「デカ長……僕からの遺言、お願い……」
『遺言なんて言ってくれるな。山上っ!!』
いつも怒ってばかりなのに、泣きながらデカ長が叫ぶ。
「水野を……頼むわ。アイツ、刑事辞めないように、引き留めてくれ。責任感、強いヤツだから、きっと辞める、って、言い出すはず、だから……」
最期にもう一度、抱きしめたかった。お前の柔らかい唇に、キスしたかったよ。
『山上っ!? しっかりしろっ! 返事してくれっ!』
「政隆……ありが、とう……」
……こんな僕を愛してくれて。お前に出逢えて、本当に良かった――
目に映る水野は、柔らかい笑みを浮かべながら愛しげに僕を見下して、ぎゅっと体を包み込んでくれた。
そのあたたかいぬくもりに包まれたまま、僕は――
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