貴方が残してくれたもの

相沢蒼依

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virgin suicide :守りたい

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 ねっこりとした、確認作業が終わり、一緒にお風呂に入ってから、やっと人心地がついた。

「プハ~ッ! 風呂上がりのビール、マジで最高っ!」

 山上先輩と仲良く乾杯をして、一気にビールを喉に流しこんだ。ほろ苦さが喉に染み渡ること、この上ない。

「……山上先輩、あの」
 
 意を決してやっと話し出す俺の唇に、右手人差し指をそっと当てて、やんわりと止められた。

「聞きたいことがあるのは分かる。でも悪いな。僕がやってる仕事、トップシークレットなんだ」

 心配かけた上に、泣かせてしまって……と続け、済まなそうに言う。

「それなら、しょうがないです。だけどこっそりでも、何か俺に出来ることがあれば、その……頼って下さい」

 俯きながら言うと、ぎゅっと強く抱きしめられた身体。

「水野が来る前から、この仕事をやっていたんだけどさ。すごい孤独で嫌な仕事だと思いながら、何とかやってきたんだ。嫌ながらも僕の信念を貫くために、頑張っていたんだけど――」

 俺の左肩に額を乗せて、苦しそうに話す。

「水野が来てから不思議と力が湧いて、めちゃくちゃ頑張れた。お前が傍にいるだけで僕は、何でも頑張れるんだよ」

「俺も……頑張ってる山上先輩が傍にいるから、全力で頑張ろうって思います」

 微笑んだ俺の頬を、優しくそっと撫でる。あったかい手のひらがとても心地よくて、目をつぶった。

「僕のやってる仕事のせいで、水野が危険な目に遭うのなら……殺していいか?」

「はい――?」

 頬に触っていた右手を、ゆっくり首に移動させると、少しだけ力を入れる。

「他の誰かに殺られるくらいなら、僕がお前を殺していいか?」

 笑えない冗談を言ってると思い、閉じていたまぶたを開けて、山上先輩の顔を見たら、えらく真剣な目をして俺を見つめている。

「お前を殺して、僕も死ぬ……」

 そう言ってまた首を触っている手に、ぐっと力が入った。俺はその手に、自分の右手をそっと被せる。

「山上先輩に殺られるのは本望ですけど、二人して死んじゃったら、この間誓った約束、果たせないじゃないですか……。一緒に、幸せになろうって」

「政隆……」

 首を触れている手から力がすっと抜けて、俺の手をぎゅっと強く握りしめた。

「痛い思いをしてつけた、このエンゲージリングに誓って下さい。一緒に生きていくって」

 俺は山上先輩の左手薬指に、優しく口づけをする。

「孤独で危険な仕事をしている貴方を、俺なりに支えます。足手まといにならないように、頑張って強くなります。だから……」

 涼しげな一重瞼の目が、ほんのりと赤くなったように見えた。
 
 何も言わず俺を強く抱きしめてくれる山上先輩の身体を、同じように強く抱きしめて、背中をポンポンしてあげる。

「……有り難う、政隆。僕も強く……なるよ」

 いつもより掠れた声で告げる台詞に、俺はコクンと頷くのが精一杯だった。
 
 そんな二人の強い誓いを打ち砕く魔の手が、ゆっくりと忍び寄っているなんて、このときは思いもよらなかったのである。
 
 だって今の俺たちは最高に幸せ過ぎて、周りが全然見えていなかったから――
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