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virgin suicide :守りたい
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今日は、ちょっとだけ残業した俺たち。山上先輩の家に向かうべく、ふたり仲良く並んで、一緒に歩いていた。
防犯カメラの画像のこと正直、気になるんだけど何故だか上手く、話をはぐらかされる。一体、どうして――?
「ねえ、山上先輩……」
「ちょっとお前の左手、貸せよ」
話しかけると変な切り返しをした、 山上先輩のペースにもっていかれる。
渋々左手を出すと、いきなり薬指を口に含み、ガリッと歯を立てられた。
「ちょっと! 何してるんですかっ。痛い、痛い~っ!!」
食い千切りそうな勢いでガブガブと、これでもかってくらい噛みついている……。この人の突飛な行動、時々理解不能なんだよ。
「これで、よし!」
(何が、これでよしだよ。痛すぎる)
左手首をブンブン振って、止まっていた血流を、何とか回復させた。
「何なんですか、もう……」
涙目になりながら噛まれた薬指を見てみると、根元にくっきりと、山上先輩の歯形が付いているではないか。
「エンゲージリングの代わりだ。次は水野の番。ほれ、噛んでくれ」
そう言って無理矢理、俺の口に左手薬指を、ぐいっと突っ込んできた。仕方なくそれを噛む俺に、顔を引きつらせながら、山上先輩が怒鳴り散らす。
「もっとしっかり噛めよ! ふたりの赤い糸が、ちゃんと結ばれないぞ」
ワケの分からない脅迫に、うへぇと顔を歪ませて、本気になって噛んでやるしかない。
「痛い、痛いぞ水野。よし、これくらいで、いいだろう!」
噛まれて喜ぶの、この人くらいしかいないだろうな……
俺が付けた歯形を、しげしげと満足げに眺めて、ニッコリと微笑む。
「ずっと一緒に、いれたらいいな……」
幸せそうな顔をして、そんなこと言うもんだから、俺も思わず山上先輩が付けた歯形を、改めて眺めてみる。
赤い糸、繋がっているのかな? ――男同士だけど。
「なあ、水野……」
言いながら俺の首に、ぎゅっと腕を絡めてきた。
「苦しいです、山上先輩」
加減して欲しい――そう言おうとしたら、
「悪い。今日のお泊まり会、明後日にさ、延期していいか?」
唐突な提案にびっくりして、声が出せずにいると、
「僕のファンが、後をつけてるみたいなんだ。ま、一人だから、大丈夫だとは思うんだが……」
難しい顔をして、じっと俺を見つめる。
ファンって何なんだ? イケメン刑事だから、ストーカーに追っかけられてるってこと?
「ここからお前の駿足で、自宅に到着するのって、どれくらい?」
「多分……、10分かからないと思いますけど」
「自宅に着いたら、俺のスマホにワン切りしてくれ。ちゃんと帰ったか、確認したいから」
その言葉に俺の顔が曇るのを、不思議そうに見つめた。
「僕の心配を、無視するのか?」
「……そうじゃなくて。山上先輩のスマホにかけたら俺の変な名前、画面に出るんだろうなって……」
「何だよ、今更。事実なんだからいいだろう。僕のなんだし」
笑いながら、さっき噛んだ薬指に自分の左手薬指を、ぎゅっと絡ませる。
「とりあえず、僕の命令は絶対だからな。きちんとワン切りすること!」
「……分かりました」
絡められている薬指に、きゅっと力を入れた。
「カウントゼロで、水野は右を行け。僕は反対に走るから。……後ろを振り返るなよ。3、2、1、0!」
突如始まったカウントに、一瞬出遅れた俺。
――絡んだ薬指を、解きたくなかったから……
それでも言われたことは、ちゃんと忠実に守った。全力疾走することと、後ろを振り返らないこと。走りながら、いろいろ考えてみた。
最近の山上先輩の周囲が、何となくだけど、おかしい気がする。山上先輩の行動はいつもと変わっていないけど、関さんと一緒にいることが増えた。
そして今日の机の上の防犯カメラに、ファンの追っかけ――確かにちょっと変わったところはあるけど、俺が見る限り、恨まれるようなことをしているようには感じない。
これはやっぱり、本人に聞いてみるのが一番だよね。だって、心配なんだから……
「ふう……。久しぶりに走ると、やっぱ気持ち良いなぁ」
かいた汗を拭いながら自宅の鍵を開け、急いで中に入る。ポケットからスマホを取り出し、急いで山上先輩にかけた。
ワン切りしなきゃいけないのは分かっていたけど、どうしても無事かどうか、知りたくてたまらない。
そして直ぐに繋がった、テレフォンライン――
『はい、山上です。只今電話に出られません。メッセージをどうぞ』
耳に聞こえる愛しいハスキーボイスが、きゅっと胸を締め付ける。
「水野です。無事に家に到着しました。あの、山上先輩大丈夫ですか? お願いだから、連絡下さい。俺……」
言葉を続ける前に、ぷつりと切られてしまった。ツーツーという無機質な音が俺の不安に、どんどん拍車をかける。
スマホを握りしめたまま、玄関にどれくらい、立ち尽くしていただろうか。
「どうして……連絡、こないんだ?」
今から捜しに行ったら、叱られるだろうか――
不安過ぎて胸が押し潰されそうになり、玄関のドアに手をかけた瞬間、突如鳴り出すスマホ。
「もしもしっ!」
「心配かけてごめんな、水野……」
マッハで出た俺に、電話をかけてきた人物は、苦笑いしながら話をしてくれた。
「山上先輩、良かった……。無事だったんですね。あの」
『……行き先はどうする? 達哉』
山上先輩のスマホを通して聞こえてきた声に、二の句が告げない。この声は、関さん……
関さん、プライベートだと山上先輩のことを、下の名前で呼ぶんだ。
「関ん家で話しよう。ごめん、水野……連絡遅れてさ。あちこち走り回って、逃げてる最中に偶然、関の車が通りかかって、乗せてもらったんだ」
これから、関さんの家に行くんだ……
俺はぎゅっとスマホを握りしめ、自分の中にあるどす黒いモノが出ないように、必死に戦った。
「……山上先輩が無事で良かった、です。良かった……」
『自分が足手まといになってる自覚、水野くんはあるのか?』
唐突に投げられた、関さんからの台詞。
(俺が足手まとい? 一体どういうことなんだろう?)
眉根を寄せて、向こうで交わされる会話に耳を傾けた。
「関、足手まといになってるのは、実は僕なの。水野はめっちゃ、足が速いんだぜ、だからあいつ等から逃げ切れたんだ。予想より、2分も早かったからな」
まるで自分のことのように話す山上先輩に、胸が切なくなる。この人はいつも俺が欲しい言葉を、すんなりと言ってくれるんだ。
――揺らいでる心を正してくれる、唯一無二の人――
「行かないで、下さい……」
「どうした、水野?」
「俺……山上先輩に傍にいて、欲しいです……」
普段なかなか言えないワガママを、つい口走ってしまった。
関さんの家に行くのは今回のこととか、仕事絡みで話し合うためだろうと、頭の中では考えついたけれど。いい様のない不安とか、どす黒いモノとかいろんなのが、残念なくらいごちゃごちゃになって、自分じゃ制御しきれなくて……
「泣いてるのか?」
俺を気遣ってくれる優しいハスキーボイスに、涙腺が今にも決壊しそうだ。
「……泣いて、ませんっ!」
鼻声で言うと、少しだけ笑う声がして――
「関、ここで降ろしてくれ。詳しい話は明日朝一番で、ちゃんと報告するから」
車が停車する音と、ドアが開く音。
「水野、待ってろよ。全力疾走でお前ん家に、急いで向かうから。だからさ……風呂、沸かしておけよな」
ドアを閉める音と、走り出す車のエンジン音。
「それまで……僕が着くまで泣くな。政隆」
「うっ……分かりました……」
俺の声を確認してから、唐突に切られた山上先輩のテレフォンライン。
「山上先輩、ごめんなさい……」
決壊した涙は堰をきって止めどなく、どんどん溢れ出す。その場にしゃがみ込んで、スマホを胸に抱きしめてしまった。
関さんが言うように俺は、やっぱり足手まといだ。肝心なところで見事に足を引っ張って、山上先輩にたくさん迷惑をかけてる。
しかも大事なときに、自分の気持ちを制御出来ずに、あんなワガママまで言ってしまった。
「もっと、強くなりたい……。大事な山上先輩を、守れるくらいに……」
危機に直面している貴方を、支えて守れる力が俺は欲しい。
「……山上先輩のために、頑張らなきゃ……」
うだうだ泣いていても、何も解決しないんだ。
――もう泣かない、強くなる!
そう心に決めて立ち上がり、涙をごしごし拭って家の中に入った。
今日は、ちょっとだけ残業した俺たち。山上先輩の家に向かうべく、ふたり仲良く並んで、一緒に歩いていた。
防犯カメラの画像のこと正直、気になるんだけど何故だか上手く、話をはぐらかされる。一体、どうして――?
「ねえ、山上先輩……」
「ちょっとお前の左手、貸せよ」
話しかけると変な切り返しをした、 山上先輩のペースにもっていかれる。
渋々左手を出すと、いきなり薬指を口に含み、ガリッと歯を立てられた。
「ちょっと! 何してるんですかっ。痛い、痛い~っ!!」
食い千切りそうな勢いでガブガブと、これでもかってくらい噛みついている……。この人の突飛な行動、時々理解不能なんだよ。
「これで、よし!」
(何が、これでよしだよ。痛すぎる)
左手首をブンブン振って、止まっていた血流を、何とか回復させた。
「何なんですか、もう……」
涙目になりながら噛まれた薬指を見てみると、根元にくっきりと、山上先輩の歯形が付いているではないか。
「エンゲージリングの代わりだ。次は水野の番。ほれ、噛んでくれ」
そう言って無理矢理、俺の口に左手薬指を、ぐいっと突っ込んできた。仕方なくそれを噛む俺に、顔を引きつらせながら、山上先輩が怒鳴り散らす。
「もっとしっかり噛めよ! ふたりの赤い糸が、ちゃんと結ばれないぞ」
ワケの分からない脅迫に、うへぇと顔を歪ませて、本気になって噛んでやるしかない。
「痛い、痛いぞ水野。よし、これくらいで、いいだろう!」
噛まれて喜ぶの、この人くらいしかいないだろうな……
俺が付けた歯形を、しげしげと満足げに眺めて、ニッコリと微笑む。
「ずっと一緒に、いれたらいいな……」
幸せそうな顔をして、そんなこと言うもんだから、俺も思わず山上先輩が付けた歯形を、改めて眺めてみる。
赤い糸、繋がっているのかな? ――男同士だけど。
「なあ、水野……」
言いながら俺の首に、ぎゅっと腕を絡めてきた。
「苦しいです、山上先輩」
加減して欲しい――そう言おうとしたら、
「悪い。今日のお泊まり会、明後日にさ、延期していいか?」
唐突な提案にびっくりして、声が出せずにいると、
「僕のファンが、後をつけてるみたいなんだ。ま、一人だから、大丈夫だとは思うんだが……」
難しい顔をして、じっと俺を見つめる。
ファンって何なんだ? イケメン刑事だから、ストーカーに追っかけられてるってこと?
「ここからお前の駿足で、自宅に到着するのって、どれくらい?」
「多分……、10分かからないと思いますけど」
「自宅に着いたら、俺のスマホにワン切りしてくれ。ちゃんと帰ったか、確認したいから」
その言葉に俺の顔が曇るのを、不思議そうに見つめた。
「僕の心配を、無視するのか?」
「……そうじゃなくて。山上先輩のスマホにかけたら俺の変な名前、画面に出るんだろうなって……」
「何だよ、今更。事実なんだからいいだろう。僕のなんだし」
笑いながら、さっき噛んだ薬指に自分の左手薬指を、ぎゅっと絡ませる。
「とりあえず、僕の命令は絶対だからな。きちんとワン切りすること!」
「……分かりました」
絡められている薬指に、きゅっと力を入れた。
「カウントゼロで、水野は右を行け。僕は反対に走るから。……後ろを振り返るなよ。3、2、1、0!」
突如始まったカウントに、一瞬出遅れた俺。
――絡んだ薬指を、解きたくなかったから……
それでも言われたことは、ちゃんと忠実に守った。全力疾走することと、後ろを振り返らないこと。走りながら、いろいろ考えてみた。
最近の山上先輩の周囲が、何となくだけど、おかしい気がする。山上先輩の行動はいつもと変わっていないけど、関さんと一緒にいることが増えた。
そして今日の机の上の防犯カメラに、ファンの追っかけ――確かにちょっと変わったところはあるけど、俺が見る限り、恨まれるようなことをしているようには感じない。
これはやっぱり、本人に聞いてみるのが一番だよね。だって、心配なんだから……
「ふう……。久しぶりに走ると、やっぱ気持ち良いなぁ」
かいた汗を拭いながら自宅の鍵を開け、急いで中に入る。ポケットからスマホを取り出し、急いで山上先輩にかけた。
ワン切りしなきゃいけないのは分かっていたけど、どうしても無事かどうか、知りたくてたまらない。
そして直ぐに繋がった、テレフォンライン――
『はい、山上です。只今電話に出られません。メッセージをどうぞ』
耳に聞こえる愛しいハスキーボイスが、きゅっと胸を締め付ける。
「水野です。無事に家に到着しました。あの、山上先輩大丈夫ですか? お願いだから、連絡下さい。俺……」
言葉を続ける前に、ぷつりと切られてしまった。ツーツーという無機質な音が俺の不安に、どんどん拍車をかける。
スマホを握りしめたまま、玄関にどれくらい、立ち尽くしていただろうか。
「どうして……連絡、こないんだ?」
今から捜しに行ったら、叱られるだろうか――
不安過ぎて胸が押し潰されそうになり、玄関のドアに手をかけた瞬間、突如鳴り出すスマホ。
「もしもしっ!」
「心配かけてごめんな、水野……」
マッハで出た俺に、電話をかけてきた人物は、苦笑いしながら話をしてくれた。
「山上先輩、良かった……。無事だったんですね。あの」
『……行き先はどうする? 達哉』
山上先輩のスマホを通して聞こえてきた声に、二の句が告げない。この声は、関さん……
関さん、プライベートだと山上先輩のことを、下の名前で呼ぶんだ。
「関ん家で話しよう。ごめん、水野……連絡遅れてさ。あちこち走り回って、逃げてる最中に偶然、関の車が通りかかって、乗せてもらったんだ」
これから、関さんの家に行くんだ……
俺はぎゅっとスマホを握りしめ、自分の中にあるどす黒いモノが出ないように、必死に戦った。
「……山上先輩が無事で良かった、です。良かった……」
『自分が足手まといになってる自覚、水野くんはあるのか?』
唐突に投げられた、関さんからの台詞。
(俺が足手まとい? 一体どういうことなんだろう?)
眉根を寄せて、向こうで交わされる会話に耳を傾けた。
「関、足手まといになってるのは、実は僕なの。水野はめっちゃ、足が速いんだぜ、だからあいつ等から逃げ切れたんだ。予想より、2分も早かったからな」
まるで自分のことのように話す山上先輩に、胸が切なくなる。この人はいつも俺が欲しい言葉を、すんなりと言ってくれるんだ。
――揺らいでる心を正してくれる、唯一無二の人――
「行かないで、下さい……」
「どうした、水野?」
「俺……山上先輩に傍にいて、欲しいです……」
普段なかなか言えないワガママを、つい口走ってしまった。
関さんの家に行くのは今回のこととか、仕事絡みで話し合うためだろうと、頭の中では考えついたけれど。いい様のない不安とか、どす黒いモノとかいろんなのが、残念なくらいごちゃごちゃになって、自分じゃ制御しきれなくて……
「泣いてるのか?」
俺を気遣ってくれる優しいハスキーボイスに、涙腺が今にも決壊しそうだ。
「……泣いて、ませんっ!」
鼻声で言うと、少しだけ笑う声がして――
「関、ここで降ろしてくれ。詳しい話は明日朝一番で、ちゃんと報告するから」
車が停車する音と、ドアが開く音。
「水野、待ってろよ。全力疾走でお前ん家に、急いで向かうから。だからさ……風呂、沸かしておけよな」
ドアを閉める音と、走り出す車のエンジン音。
「それまで……僕が着くまで泣くな。政隆」
「うっ……分かりました……」
俺の声を確認してから、唐突に切られた山上先輩のテレフォンライン。
「山上先輩、ごめんなさい……」
決壊した涙は堰をきって止めどなく、どんどん溢れ出す。その場にしゃがみ込んで、スマホを胸に抱きしめてしまった。
関さんが言うように俺は、やっぱり足手まといだ。肝心なところで見事に足を引っ張って、山上先輩にたくさん迷惑をかけてる。
しかも大事なときに、自分の気持ちを制御出来ずに、あんなワガママまで言ってしまった。
「もっと、強くなりたい……。大事な山上先輩を、守れるくらいに……」
危機に直面している貴方を、支えて守れる力が俺は欲しい。
「……山上先輩のために、頑張らなきゃ……」
うだうだ泣いていても、何も解決しないんだ。
――もう泣かない、強くなる!
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