27 / 38
監察日誌:生まれて初めての……
1
しおりを挟む
今日は2月14日、特に行事はない。個人的には、何だが……
監察室の扉の前に、チョコが入っているであろう小箱が、3個置かれていた。毎年この時期になると、同じような現象が起こる。添付されている手紙も読まないし、チョコは分からないよう、とある筋に横流ししていた。
屈んで小箱を手に取ると、監察室の扉を開けて、深いため息をつきながら中に入る。小箱をデスクに置き、着ているコートを脱いで、ハンガーに掛けたところで、ガンガンと激しく扉をノックしてきた人物。
「あ!?」
ビックリした俺は返事をするのを忘れ、顔を引きつらせるしかない。朝から騒々しくする人物は、ただひとりしかいないのだから。
「おはようございますっ、関さん!」
いつも以上に、テンションの高い水野くんが登場。俺のデスクにある小箱を見て、ニヤリと笑う。
「さっすが関さん。もうチョコ、ゲットしてるんですね」
「俺は甘いのが苦手だから、昨年同様、好きなのを持っていってくれ」
「いやぁ、今年は遠慮しますよ。だって俺もチョコもらったし……」
嬉しそうに言ってから、じゃーんと見せつけてくれた。
「翼がね、警察学校から、わざわざ送ってくれたんですよ。俺、超嬉しくって!」
「箱に何か張ってあるが、メッセージか?」
目を凝らして、その内容を読んでみる。
「『喜び勇んで、悶えてしまえ。悶え過ぎて、死ぬなよ』って、なんだこりゃ?」
「これは翼なりの、心のこもったメッセージなんです。だから俺、朝から悶えちゃって、困ってるんですぅ」
「殴ろうが蹴ろうがちょっとした事では、死なない水野くんだから、大丈夫だろう」
矢野 翼のメッセージもどうかと思ったが、その文面通り、死に急ぎそうなほど、はしゃいでいる水野くん。思いっきり嫌味を言ったのに、それでも嬉しそうにしている。
「俺は頑張って、手作りしたのを送ったんですよ。バカでかいハートのチョコに、メッセージ書いてみたんです」
「へぇ」
「でね、関さんは伊東くんに、あげないんですか?」
自分の事ばかり喋り倒すんだろうと思ってたので、俺に投げて寄こした話題に、顔を曇らせた。
「どうして菓子メーカーの売り上げに、喜んで貢献しなきゃならないんだ。くだらない」
「そういうと思ってた。あのね今回俺は、翼からチョコを貰えるなんて、思ってなかったんです」
右手人差し指を立てて、偉そうに俺にレクチャーする。
「思ってなかったからこそ、喜びが倍になったんです。もし関さんが伊東くんにチョコをあげたら、絶対に喜びますよ。関さんから貰えるなんて、思わないだろうから」
「そんなに、嬉しいものなのか?」
「悶え死にそうなくらいに嬉しいです。ついでに関さんの気持ちを告白したら、もっと喜ぶと思うなぁ」
貰ったチョコを胸に抱きしめて、あらぬ方向を見ている姿に、顔を引きつらせるしかない。微妙に気持ち悪いぞ……
「俺の気持ちを告白しろって、何だその脅迫的な台詞は?」
「この間伊東くん、こぼしてたんですよ。関さんもっと愛情表現を、素直に言葉にしてくれないかなぁって。自分ばっか言ってるのって、重荷にならないかなって悩んでました」
「そんな大事な事を、水野くんに言ったのか?」
「その前に、俺が伊東くんにいろいろ愚痴ってたから。その流れでちょっとね。こんな話、関さんや伊東くんにしか出来ない話題でしょ」
小首を傾げて、寂しそうに微笑む水野くん。
「だから伊東くんのために、チョコあげて欲しいなって思ったんです」
「……そうか」
「ここの売店でも、いろんな種類のチョコ買えますから。お昼にでも見てきたら、いいんじゃないですか?」
「わかった。とりあえず見てみる。助言、有難う水野くん」
俺が微笑むと、ちょっと顔を赤らめて、頭を掻いた。
「関さんから、素直にお礼言われると、何だか照れちゃいますね」
「その無駄なテンションで、仕事をバリバリとこなしてくれたら、周りがとても助かるだろうな」
「無駄なテンションって、やっぱり酷い~」
久しぶりに賑やかで、和やかな朝の会話をした俺たち。(いつもは、俺が水野くんを叱っているから)
早速お昼休みに売店へ行き、厳選にセレクトした結果、甘さ控えのビターチョコレートを購入した。(無論ハート型じゃないぞ)
雪雄も俺同様に確か、甘いモノが苦手だったと思ったから。
問題は、これを渡すタイミングである。
片想いをしている女性たちは、毎年こんな事で神経をすり減らしていると思うと、哀れでならない。両想いでも、こんなに悩むのである。
「女に生まれなくて良かった……と一瞬思ったが、これからやる事は、同じじゃないか」
変に悩み過ぎて、タバコの減りが早い事。普通に『これ、受け取ってくれ』と言って、渡せばいいのだが。
水野くんの言う通り、気持ちを添えて渡した方が、雪雄はきっと喜ぶんだろう。
「俺の気持ちだ、受け取ってくれ……じゃ、味気ないよな」
ため息をついて俯いた時、腕時計の針が目に映る。
「しまった! これから人と会う約束していたんだった。10分の遅刻……」
喫煙室で、ぼんやりし過ぎてしまった。菓子メーカーの策略に、まんまと踊らされて、どうした俺!?
急いで外に出て、スマホで相手に連絡を取った。
チョコの件は、出たとこ勝負でいこう。雪雄の顔色を覗いながら恐る恐る渡すか、押しつけるように渡すか。
その時になってみれば、答えは出るだろうから。
監察室の扉の前に、チョコが入っているであろう小箱が、3個置かれていた。毎年この時期になると、同じような現象が起こる。添付されている手紙も読まないし、チョコは分からないよう、とある筋に横流ししていた。
屈んで小箱を手に取ると、監察室の扉を開けて、深いため息をつきながら中に入る。小箱をデスクに置き、着ているコートを脱いで、ハンガーに掛けたところで、ガンガンと激しく扉をノックしてきた人物。
「あ!?」
ビックリした俺は返事をするのを忘れ、顔を引きつらせるしかない。朝から騒々しくする人物は、ただひとりしかいないのだから。
「おはようございますっ、関さん!」
いつも以上に、テンションの高い水野くんが登場。俺のデスクにある小箱を見て、ニヤリと笑う。
「さっすが関さん。もうチョコ、ゲットしてるんですね」
「俺は甘いのが苦手だから、昨年同様、好きなのを持っていってくれ」
「いやぁ、今年は遠慮しますよ。だって俺もチョコもらったし……」
嬉しそうに言ってから、じゃーんと見せつけてくれた。
「翼がね、警察学校から、わざわざ送ってくれたんですよ。俺、超嬉しくって!」
「箱に何か張ってあるが、メッセージか?」
目を凝らして、その内容を読んでみる。
「『喜び勇んで、悶えてしまえ。悶え過ぎて、死ぬなよ』って、なんだこりゃ?」
「これは翼なりの、心のこもったメッセージなんです。だから俺、朝から悶えちゃって、困ってるんですぅ」
「殴ろうが蹴ろうがちょっとした事では、死なない水野くんだから、大丈夫だろう」
矢野 翼のメッセージもどうかと思ったが、その文面通り、死に急ぎそうなほど、はしゃいでいる水野くん。思いっきり嫌味を言ったのに、それでも嬉しそうにしている。
「俺は頑張って、手作りしたのを送ったんですよ。バカでかいハートのチョコに、メッセージ書いてみたんです」
「へぇ」
「でね、関さんは伊東くんに、あげないんですか?」
自分の事ばかり喋り倒すんだろうと思ってたので、俺に投げて寄こした話題に、顔を曇らせた。
「どうして菓子メーカーの売り上げに、喜んで貢献しなきゃならないんだ。くだらない」
「そういうと思ってた。あのね今回俺は、翼からチョコを貰えるなんて、思ってなかったんです」
右手人差し指を立てて、偉そうに俺にレクチャーする。
「思ってなかったからこそ、喜びが倍になったんです。もし関さんが伊東くんにチョコをあげたら、絶対に喜びますよ。関さんから貰えるなんて、思わないだろうから」
「そんなに、嬉しいものなのか?」
「悶え死にそうなくらいに嬉しいです。ついでに関さんの気持ちを告白したら、もっと喜ぶと思うなぁ」
貰ったチョコを胸に抱きしめて、あらぬ方向を見ている姿に、顔を引きつらせるしかない。微妙に気持ち悪いぞ……
「俺の気持ちを告白しろって、何だその脅迫的な台詞は?」
「この間伊東くん、こぼしてたんですよ。関さんもっと愛情表現を、素直に言葉にしてくれないかなぁって。自分ばっか言ってるのって、重荷にならないかなって悩んでました」
「そんな大事な事を、水野くんに言ったのか?」
「その前に、俺が伊東くんにいろいろ愚痴ってたから。その流れでちょっとね。こんな話、関さんや伊東くんにしか出来ない話題でしょ」
小首を傾げて、寂しそうに微笑む水野くん。
「だから伊東くんのために、チョコあげて欲しいなって思ったんです」
「……そうか」
「ここの売店でも、いろんな種類のチョコ買えますから。お昼にでも見てきたら、いいんじゃないですか?」
「わかった。とりあえず見てみる。助言、有難う水野くん」
俺が微笑むと、ちょっと顔を赤らめて、頭を掻いた。
「関さんから、素直にお礼言われると、何だか照れちゃいますね」
「その無駄なテンションで、仕事をバリバリとこなしてくれたら、周りがとても助かるだろうな」
「無駄なテンションって、やっぱり酷い~」
久しぶりに賑やかで、和やかな朝の会話をした俺たち。(いつもは、俺が水野くんを叱っているから)
早速お昼休みに売店へ行き、厳選にセレクトした結果、甘さ控えのビターチョコレートを購入した。(無論ハート型じゃないぞ)
雪雄も俺同様に確か、甘いモノが苦手だったと思ったから。
問題は、これを渡すタイミングである。
片想いをしている女性たちは、毎年こんな事で神経をすり減らしていると思うと、哀れでならない。両想いでも、こんなに悩むのである。
「女に生まれなくて良かった……と一瞬思ったが、これからやる事は、同じじゃないか」
変に悩み過ぎて、タバコの減りが早い事。普通に『これ、受け取ってくれ』と言って、渡せばいいのだが。
水野くんの言う通り、気持ちを添えて渡した方が、雪雄はきっと喜ぶんだろう。
「俺の気持ちだ、受け取ってくれ……じゃ、味気ないよな」
ため息をついて俯いた時、腕時計の針が目に映る。
「しまった! これから人と会う約束していたんだった。10分の遅刻……」
喫煙室で、ぼんやりし過ぎてしまった。菓子メーカーの策略に、まんまと踊らされて、どうした俺!?
急いで外に出て、スマホで相手に連絡を取った。
チョコの件は、出たとこ勝負でいこう。雪雄の顔色を覗いながら恐る恐る渡すか、押しつけるように渡すか。
その時になってみれば、答えは出るだろうから。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
溺愛執事と誓いのキスを
水無瀬雨音
BL
日本有数の大企業の社長の息子である周防。大学進学を機に、一般人の生活を勉強するため一人暮らしを始めるがそれは建前で、実際は惹かれていることに気づいた世話係の流伽から距離をおくためだった。それなのに一人暮らしのアパートに流伽が押し掛けてきたことで二人での生活が始まり……。
ふじょっしーのコンテストに参加しています。
貴方が残してくれたもの
相沢蒼依
BL
「お前を殺して、僕も死ぬ」そう言ってくれた貴方を、俺も愛してました。この恋は忘れない。
先輩刑事×新米刑事の切ない恋のお話。
この恋愛があったからこそ、今の自分が恋愛出来てると言えるんだ。
「お前を殺して、僕も死ぬ……」
同じ気持ちで、俺も貴方を愛してました。
その他、高校時代の山上のお話と山上を射殺した犯人のお話を掲載。
どうしようっ…ボク、拓馬くんに襲われちゃった♡
そらも
BL
お隣のお家に住む、年下幼なじみの小学六年生の日高拓馬(ひだかたくま)くんにイロイロされたい♡
高校二年生の伊波コウ(いなみこう)くん…コウ兄が、頑張って拓馬くんをあの手この手で誘惑しちゃうお話。
この高二男子、どうしようっ…とか微塵も思っておりません(棒)
将来イケメン確実のスポーツ万能元気っこ少年×自分は普通だと思ってるキレイめ中性的お兄さんの幼馴染みカップリングです。
分類はショタ×おにモノになるので、ショタ攻めが苦手な方などいましたら、ご注意ください。
あんまりショタショタしくないかもだけど、どうぞ読んでやってくださいませ。
※ R-18エロもので、♡(ハート)喘ぎ満載です。
※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます!
※ 2020/02/15 最終話を迎えました、ここまでコウ兄と拓馬くんの恋話にお付き合いくださり本当にありがとうございました♪
2020/02/16から、その後の二人の番外編・その1をスタートする予定であります♡
2020/02/25 番外編・その1も最終話を迎えました、ここまでお読みくださり感謝感謝であります!
悪の献身 〜アイドルを夢見る少年は、優しい大人に囲まれて今日も頑張ります〜
木曜日午前
BL
韓国のアイドル事務所にスカウトされ、
日本から韓国へと渡った金山時雨。
アイドルを目指して頑張っていた彼がある時、自分と同じ事務所に入ってきた少年に心奪われる。
カリスマ性溢れるアイドルの少年とのデビューのために、時雨は大人の欲にまみれた世界へと身を投じることになる。
悪い大人たち×純粋なアイドル練習生のお話。
※トゥルーエンド(他サイト掲載済み)
逢瀬はシャワールームで
イセヤ レキ
BL
高飛び込み選手の湊(みなと)がシャワーを浴びていると、見たことのない男(駿琉・かける)がその個室に押し入ってくる。
シャワールームでエロい事をされ、主人公がその男にあっさり快楽堕ちさせられるお話。
高校生のBLです。
イケメン競泳選手×女顔高飛込選手(ノンケ)
攻めによるフェラ描写あり、注意。
きみに××××したい
まつも☆きらら
BL
俳優として活躍している優斗は、役作りのため料理教室へ通うことに。そこで出会った男性講師の凜に好意を抱くようになる。何とか凜に近づきたいと思う優斗だったが、凜のそばには強力なライバルがいて―――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる