111 / 141
番外編
1
しおりを挟む
会社の同じフロアに勤める松尾は、数多くいる女子社員の中のひとりだった。テンプレになってる挨拶や、仕事以外でコミュニケーションをとったことすらなかったゆえに、彼女のプライベートをまったく知らない。
仕事が恋人と化している俺にとって、松尾は『会社の同僚で後輩』というくくりだった。だから必要以上に興味をもたなかったし、知りたいとも思わなかった。
仲のいい同期との待ち合わせ場所に、松尾が現れるまでは――。
♡♡♡
第2営業部にいる仲のいい同期の高野と、いつものところで待ち合わせしていた。しかし約束の時間を30分過ぎても現れないことに、苛立ちがつのっていく。これでドタキャンされるのは二度目だ。
(野郎よりも彼女を優先したな、アイツ――。派手な口喧嘩して、怒りが頂点に達してるから話を聞いてくれって、急に呼び出しておいて、放置プレイされる俺の身にもなってくれ)
ポケットからスマホを取り出して、手早くLINEをタップして起動し、『今日は来ないんだな?』と打ち込んでみたものの、当然既読すらつかなかった。今ごろ彼女と仲直りすべく、前回同様にベッドの中にいる可能性が大だろう。
「佐々木先輩!」
いきなり呼ばれたので、スマホの画面から気だるげに顔をあげて、相手を確認してみる。会社の制服姿じゃないので、相手を判別するのに時間がかかってしまった。
「あ、えっと……松尾?」
「ぉ、お疲れ様です」
言いながら、ぺこりと小さく頭を下げられた。つられて俺も頭をさげる。
「松尾悪い。私服だとなんかいつもと感じが違って見えて、一瞬誰かわからなかった」
「それは佐々木先輩も一緒です。待ち合わせですか?」
時刻は夕方の5時過ぎで、地元では待ち合わせするのに有名な場所。もしかしたら松尾に、彼女と待ち合わせしていると思われるかもしれないなと思った。
「ああ。待ち合わせしてたんだけど、時間になっても現れないところをみると、振られたみたいだ。LINEしても既読がつかない」
視線をスマホに落として、飄々と答えてやった。
「……それって、彼女さんですか?」
(はい、俺の予想的中!『振られたみたいだ』というセリフを聞いた時点で、松尾に彼女を連想させたんだけど。ここからコイツが俺に踏み込んでくるのかどうか、一応確かめてみるか)
「松尾ってば、下世話な質問するのな」
「だって佐々木先輩のプライベートって、謎に包まれていますし。気になるのは、当然のことだと思います」
「そういうおまえは、どうなんだよ?」
「へっ?」
「彼氏と待ち合わせしてるのか?」
やられたら、やり返す。倍返ししたいところだが、今まで松尾とプライベートの話をしたことがないせいで、ネタになりそうな話題がなく、無理そうだった。
「3ヶ月前に彼氏と別れた私に、そのセリフはめっちゃ酷なんですけど!」
胸を張りながら、腰に手を当てて流暢に説明した松尾に、俺の口元が一瞬だけ引きつるのがわかった。しかし暗い過去を告げたというのに、妙に明るい松尾の態度も若干気になる――。
「知らなかったこととはいえ悪かった。ここで逢ったものだから、てっきり彼氏と待ち合わせしているのかと思ったんだ……」
仕事が恋人と化している俺にとって、松尾は『会社の同僚で後輩』というくくりだった。だから必要以上に興味をもたなかったし、知りたいとも思わなかった。
仲のいい同期との待ち合わせ場所に、松尾が現れるまでは――。
♡♡♡
第2営業部にいる仲のいい同期の高野と、いつものところで待ち合わせしていた。しかし約束の時間を30分過ぎても現れないことに、苛立ちがつのっていく。これでドタキャンされるのは二度目だ。
(野郎よりも彼女を優先したな、アイツ――。派手な口喧嘩して、怒りが頂点に達してるから話を聞いてくれって、急に呼び出しておいて、放置プレイされる俺の身にもなってくれ)
ポケットからスマホを取り出して、手早くLINEをタップして起動し、『今日は来ないんだな?』と打ち込んでみたものの、当然既読すらつかなかった。今ごろ彼女と仲直りすべく、前回同様にベッドの中にいる可能性が大だろう。
「佐々木先輩!」
いきなり呼ばれたので、スマホの画面から気だるげに顔をあげて、相手を確認してみる。会社の制服姿じゃないので、相手を判別するのに時間がかかってしまった。
「あ、えっと……松尾?」
「ぉ、お疲れ様です」
言いながら、ぺこりと小さく頭を下げられた。つられて俺も頭をさげる。
「松尾悪い。私服だとなんかいつもと感じが違って見えて、一瞬誰かわからなかった」
「それは佐々木先輩も一緒です。待ち合わせですか?」
時刻は夕方の5時過ぎで、地元では待ち合わせするのに有名な場所。もしかしたら松尾に、彼女と待ち合わせしていると思われるかもしれないなと思った。
「ああ。待ち合わせしてたんだけど、時間になっても現れないところをみると、振られたみたいだ。LINEしても既読がつかない」
視線をスマホに落として、飄々と答えてやった。
「……それって、彼女さんですか?」
(はい、俺の予想的中!『振られたみたいだ』というセリフを聞いた時点で、松尾に彼女を連想させたんだけど。ここからコイツが俺に踏み込んでくるのかどうか、一応確かめてみるか)
「松尾ってば、下世話な質問するのな」
「だって佐々木先輩のプライベートって、謎に包まれていますし。気になるのは、当然のことだと思います」
「そういうおまえは、どうなんだよ?」
「へっ?」
「彼氏と待ち合わせしてるのか?」
やられたら、やり返す。倍返ししたいところだが、今まで松尾とプライベートの話をしたことがないせいで、ネタになりそうな話題がなく、無理そうだった。
「3ヶ月前に彼氏と別れた私に、そのセリフはめっちゃ酷なんですけど!」
胸を張りながら、腰に手を当てて流暢に説明した松尾に、俺の口元が一瞬だけ引きつるのがわかった。しかし暗い過去を告げたというのに、妙に明るい松尾の態度も若干気になる――。
「知らなかったこととはいえ悪かった。ここで逢ったものだから、てっきり彼氏と待ち合わせしているのかと思ったんだ……」
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説


【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる