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優しさに溺れる夜
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お昼休み、佐々木先輩にLINEと電話をしても、やっぱりつながらなかった。
『男なんだし、なにかあってもあの佐々木先輩なら、うまいこと切り抜けて、まっつーのもとに戻ってくるよ』という斎藤ちゃんの言葉を信じて、まっすぐ帰路に着く。すると自宅マンション前に、逢いたかった人が佇んでいた。
「俊哉さんっ!」
慌てて駆け寄る私よりも先に、俊哉さんが走ってやって来てくれた。
「笑美、お帰り。連絡しなくて悪かったな」
そう言って腰を屈めるなり、こめかみにキスを落とす。本人は私を宥めるためにしたキスかもしれないけれど、いきなり路上でこんなことされる身になってほしい。心臓がいくつあっても足りない。
(――とりあえず、今はこのことにツッコミを入れずに、気になることから伝えなきゃ!)
「俊哉さんの私用でお休みって、もしかして――」
少しだけ言い淀む私に、俊哉さんは大きく頷いた。
「笑美のことを頼むのに、顔の見えない電話だけじゃ不安だったから、直接知り合いに頼みに行ったんだ。俺としては今回のことでたまってた有給も消化できて一石二鳥だったんだけど、その様子だと心配させてしまったみたいだな」
「だって、全然連絡取れなかったし……」
俊哉さんを心配したことを示すように、つっけんどんな物言いで告げてみる。
「地方だったから飛行機で移動したり、久しぶりに再会したりで、話が盛り上がってしまってさ」
「飛行機まで使って私のために――。ごめんなさい」
ちょっとの間、連絡が取れないだけで不貞腐れてしまったことを反省する。私のために今日一日駆けずり回った俊哉さんは、きっと疲れているだろうな。
「謝らなくていい。飛行機で移動したのは、そのほうが早かったから。それに地元にすぐに帰って、笑美に早く逢いたかったのもある」
「忙しかったのは理解しましたけど、音信不通になるのは、もうやめてくださいね!」
理由はさてあれ、注意すべきところはしっかり指摘した。なにかあっても連絡がとれなかったら、手を差し伸べることすらできないんだから。
「本当に悪かった。埋め合わせするから、そんなに怒らないでほしい」
「…………」
顔は俊哉さんに向いていたけれど、視線はしっかり明後日のほうを見て、怒ってることをアピールする。
「笑美このあと、夕飯を兼ねて飲みに行く? それともこのまま、俺の家に行く?」
すると逸らした私の視界に入るように、わざわざ顔の位置をズラした俊哉さんが、意外なことを提案した。
「俊哉さんの家に?」
「実は急いで帰った理由のひとつが、自宅の片付けだったんだ」
私を覗き込んだ俊哉さんのまなざしが、意味深に細められる。この様子は間違いなく、なにかを企んでいる感じに思えた。
お昼休み、佐々木先輩にLINEと電話をしても、やっぱりつながらなかった。
『男なんだし、なにかあってもあの佐々木先輩なら、うまいこと切り抜けて、まっつーのもとに戻ってくるよ』という斎藤ちゃんの言葉を信じて、まっすぐ帰路に着く。すると自宅マンション前に、逢いたかった人が佇んでいた。
「俊哉さんっ!」
慌てて駆け寄る私よりも先に、俊哉さんが走ってやって来てくれた。
「笑美、お帰り。連絡しなくて悪かったな」
そう言って腰を屈めるなり、こめかみにキスを落とす。本人は私を宥めるためにしたキスかもしれないけれど、いきなり路上でこんなことされる身になってほしい。心臓がいくつあっても足りない。
(――とりあえず、今はこのことにツッコミを入れずに、気になることから伝えなきゃ!)
「俊哉さんの私用でお休みって、もしかして――」
少しだけ言い淀む私に、俊哉さんは大きく頷いた。
「笑美のことを頼むのに、顔の見えない電話だけじゃ不安だったから、直接知り合いに頼みに行ったんだ。俺としては今回のことでたまってた有給も消化できて一石二鳥だったんだけど、その様子だと心配させてしまったみたいだな」
「だって、全然連絡取れなかったし……」
俊哉さんを心配したことを示すように、つっけんどんな物言いで告げてみる。
「地方だったから飛行機で移動したり、久しぶりに再会したりで、話が盛り上がってしまってさ」
「飛行機まで使って私のために――。ごめんなさい」
ちょっとの間、連絡が取れないだけで不貞腐れてしまったことを反省する。私のために今日一日駆けずり回った俊哉さんは、きっと疲れているだろうな。
「謝らなくていい。飛行機で移動したのは、そのほうが早かったから。それに地元にすぐに帰って、笑美に早く逢いたかったのもある」
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理由はさてあれ、注意すべきところはしっかり指摘した。なにかあっても連絡がとれなかったら、手を差し伸べることすらできないんだから。
「本当に悪かった。埋め合わせするから、そんなに怒らないでほしい」
「…………」
顔は俊哉さんに向いていたけれど、視線はしっかり明後日のほうを見て、怒ってることをアピールする。
「笑美このあと、夕飯を兼ねて飲みに行く? それともこのまま、俺の家に行く?」
すると逸らした私の視界に入るように、わざわざ顔の位置をズラした俊哉さんが、意外なことを提案した。
「俊哉さんの家に?」
「実は急いで帰った理由のひとつが、自宅の片付けだったんだ」
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