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絶望からの光
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「ありがとうございます……」
「これ、クローゼットに入ってた服と鞄。貴女のですよね?」
「はい、助かります」
妹さんは私に衣服を手渡したあと、佐々木先輩と澄司さんを悲しげな目で見つめる。
「兄は貴女に酷いことをしました。このまま警察を呼びますか?」
いそいそ着替えていると、やけに落ち着いた口調で問いかけられてしまった。
「警察?」
「呼ぶに値する犯罪行為を、兄はしましたよね?」
言いながら視線を移動して、私をじっと見つめる。肉親を警察に渡さなきゃいけない家族のつらさが、瞳に表れていた。そのつらさを見た上で、自分のことをしっかり考えてから答えを出す。
「妹さん、ごめんなさい。本当は呼んだほうがいいとは思うんだけど、その……。事情聴取でされたことを口にしなきゃいけないのがつらすぎて、耐えられないと思う」
元彼の事件のときになされた事情聴取でさえも、かなり厳しかった。それ以上のことをされてしまった今回の件は、すぐにでも忘れてしまいたいくらいのことなので、事情聴取自体無理な話だと判断する。
「わかりました。では私が直接お兄ちゃんに制裁を加えます」
妹さんは外した手錠を手にして、澄司さんに近づく。
「すみません。お兄ちゃんに手錠をしたいので、腕を背中に回してもらえますか?」
「えっ? あ、はい……」
妹さんが言ったことが信じられなかったんだろう。佐々木先輩は一瞬呆けてから、羽交い締めしている腕を手錠がしやすいように背中に回し、体で押さえつけた。
「やめろ! はなせって!」
その間も澄司さんは罵詈雑言を吐き捨てていたけれど、両手に手錠を嵌められた途端に体の力を抜き、ショックを受けた面持ちのまま、その場に膝をつく。
「松尾、歩けるか?」
着替えを終えて立ち上がったら、佐々木先輩が心配そうな表情で駆け寄って、私を見下ろした。額から汗が吹き出し、メガネもズリ下がっている様子に胸が痛くなる。
「大丈夫です。佐々木先輩、助けてくれてありがとうございました」
「笑美さん、行っちゃ嫌だ!」
私のお礼の言葉を遮るように、澄司さんが叫んで立ち上がろうとした。寸前のところで妹さんが足を引っかけて、床に押し倒す。妹さんの大胆な行動力に、佐々木先輩とふたりで驚き、その場に立ちつくしてしまった。
「お兄ちゃんいい加減にしなよ。どんなに頑張っても手に入らないものが、この世にはたくさんあるの。たとえさっきの続きをしたとしても、あの人の心は手に入らないんだよ」
「手に入らないのなら、入る方法を考えればいいだけのことなんだって!」
澄司さんはミノムシのように床を這いつくばりながら顔をあげようとした瞬間に、妹さんの足が頭を容赦なく踏みつけて動きを止めた。
「兄のことは任せてください。本当に申し訳ございませんでした」
澄司さんを踏んだまま深く頭を下げる妹さんに見送られながら、私たちは綾瀬川邸をあとにした。
「これ、クローゼットに入ってた服と鞄。貴女のですよね?」
「はい、助かります」
妹さんは私に衣服を手渡したあと、佐々木先輩と澄司さんを悲しげな目で見つめる。
「兄は貴女に酷いことをしました。このまま警察を呼びますか?」
いそいそ着替えていると、やけに落ち着いた口調で問いかけられてしまった。
「警察?」
「呼ぶに値する犯罪行為を、兄はしましたよね?」
言いながら視線を移動して、私をじっと見つめる。肉親を警察に渡さなきゃいけない家族のつらさが、瞳に表れていた。そのつらさを見た上で、自分のことをしっかり考えてから答えを出す。
「妹さん、ごめんなさい。本当は呼んだほうがいいとは思うんだけど、その……。事情聴取でされたことを口にしなきゃいけないのがつらすぎて、耐えられないと思う」
元彼の事件のときになされた事情聴取でさえも、かなり厳しかった。それ以上のことをされてしまった今回の件は、すぐにでも忘れてしまいたいくらいのことなので、事情聴取自体無理な話だと判断する。
「わかりました。では私が直接お兄ちゃんに制裁を加えます」
妹さんは外した手錠を手にして、澄司さんに近づく。
「すみません。お兄ちゃんに手錠をしたいので、腕を背中に回してもらえますか?」
「えっ? あ、はい……」
妹さんが言ったことが信じられなかったんだろう。佐々木先輩は一瞬呆けてから、羽交い締めしている腕を手錠がしやすいように背中に回し、体で押さえつけた。
「やめろ! はなせって!」
その間も澄司さんは罵詈雑言を吐き捨てていたけれど、両手に手錠を嵌められた途端に体の力を抜き、ショックを受けた面持ちのまま、その場に膝をつく。
「松尾、歩けるか?」
着替えを終えて立ち上がったら、佐々木先輩が心配そうな表情で駆け寄って、私を見下ろした。額から汗が吹き出し、メガネもズリ下がっている様子に胸が痛くなる。
「大丈夫です。佐々木先輩、助けてくれてありがとうございました」
「笑美さん、行っちゃ嫌だ!」
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「手に入らないのなら、入る方法を考えればいいだけのことなんだって!」
澄司さんはミノムシのように床を這いつくばりながら顔をあげようとした瞬間に、妹さんの足が頭を容赦なく踏みつけて動きを止めた。
「兄のことは任せてください。本当に申し訳ございませんでした」
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