恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~♡

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
72 / 141
絶望からの光

しおりを挟む
「ありがとうございます……」

「これ、クローゼットに入ってた服と鞄。貴女のですよね?」

「はい、助かります」

 妹さんは私に衣服を手渡したあと、佐々木先輩と澄司さんを悲しげな目で見つめる。

「兄は貴女に酷いことをしました。このまま警察を呼びますか?」

 いそいそ着替えていると、やけに落ち着いた口調で問いかけられてしまった。

「警察?」

「呼ぶに値する犯罪行為を、兄はしましたよね?」

 言いながら視線を移動して、私をじっと見つめる。肉親を警察に渡さなきゃいけない家族のつらさが、瞳に表れていた。そのつらさを見た上で、自分のことをしっかり考えてから答えを出す。

「妹さん、ごめんなさい。本当は呼んだほうがいいとは思うんだけど、その……。事情聴取でされたことを口にしなきゃいけないのがつらすぎて、耐えられないと思う」

 元彼の事件のときになされた事情聴取でさえも、かなり厳しかった。それ以上のことをされてしまった今回の件は、すぐにでも忘れてしまいたいくらいのことなので、事情聴取自体無理な話だと判断する。

「わかりました。では私が直接お兄ちゃんに制裁を加えます」

 妹さんは外した手錠を手にして、澄司さんに近づく。

「すみません。お兄ちゃんに手錠をしたいので、腕を背中に回してもらえますか?」

「えっ? あ、はい……」

 妹さんが言ったことが信じられなかったんだろう。佐々木先輩は一瞬呆けてから、羽交い締めしている腕を手錠がしやすいように背中に回し、体で押さえつけた。

「やめろ! はなせって!」

 その間も澄司さんは罵詈雑言を吐き捨てていたけれど、両手に手錠を嵌められた途端に体の力を抜き、ショックを受けた面持ちのまま、その場に膝をつく。

「松尾、歩けるか?」

 着替えを終えて立ち上がったら、佐々木先輩が心配そうな表情で駆け寄って、私を見下ろした。額から汗が吹き出し、メガネもズリ下がっている様子に胸が痛くなる。

「大丈夫です。佐々木先輩、助けてくれてありがとうございました」

「笑美さん、行っちゃ嫌だ!」

 私のお礼の言葉を遮るように、澄司さんが叫んで立ち上がろうとした。寸前のところで妹さんが足を引っかけて、床に押し倒す。妹さんの大胆な行動力に、佐々木先輩とふたりで驚き、その場に立ちつくしてしまった。

「お兄ちゃんいい加減にしなよ。どんなに頑張っても手に入らないものが、この世にはたくさんあるの。たとえさっきの続きをしたとしても、あの人の心は手に入らないんだよ」

「手に入らないのなら、入る方法を考えればいいだけのことなんだって!」

 澄司さんはミノムシのように床を這いつくばりながら顔をあげようとした瞬間に、妹さんの足が頭を容赦なく踏みつけて動きを止めた。

「兄のことは任せてください。本当に申し訳ございませんでした」

 澄司さんを踏んだまま深く頭を下げる妹さんに見送られながら、私たちは綾瀬川邸をあとにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ 慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。    その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは 仕事上でしか接点のない上司だった。 思っていることを口にするのが苦手 地味で大人しい司書 木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)      × 真面目で優しい千紗子の上司 知的で容姿端麗な課長 雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29) 胸を締め付ける切ない想いを 抱えているのはいったいどちらなのか——— 「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」 「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」 「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」 真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。 ********** ►Attention ※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです) ※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...