71 / 141
絶望からの光
5
しおりを挟む
「佐々木さん、無駄なことはやめてください」
「今すぐ松尾から降りてくれ、頼むから!」
私の上から澄司さんを降ろそうとしている佐々木先輩。澄司さんは絶対に降りようとせずに、佐々木先輩の両手を掴んだまま放さない。互いの両手で押し合いしている様子は、力が拮抗しているように見えた。
「綾瀬川、好きな女を泣かせて、なにが楽しいんだおまえは!」
押しから一転、ぐいっと澄司さんの腕を引っ張った佐々木先輩が、体勢を崩したところを狙い澄まして頭突きする。
「痛いぃっ!」
澄司さんは額を押さえながら、ベッドから転がり落ちた。
ふたりのやり取りを心配しながら見ていた私に、佐々木先輩は来ていたスーツのジャケットをかけて、みんなの目から隠してくれた。しっかり涙を拭ってから起き上がり、佐々木先輩のジャケットで体を隠しつつ、目の前の様子を眺める。
「悪いが、松尾の服を探してくれないか?」
頬を朱に染めて、私を見ないように首をしっかり横に向けて扉の前に立っている女のコに話しかけた佐々木先輩の顔を、しっかり見つめた。
安心感のため、ふたたび溢れてきた涙のせいで歪んでいたけれど、佐々木先輩を見つめずにはいられない。元彼の登場で怖い思いをしたときも、ここに連れられて目が覚めた瞬間から、逢いたくて逢いたくてたまらなかった。
「わかりました。お兄ちゃん、手錠の鍵はどこなの?」
澄司さんをお兄ちゃんと言った妹さんが、備え付けのクローゼットに近づきながら問いかけた。痛む額を押さえて床にしゃがみ込む澄司さんは、なにも答えようとしない。
佐々木先輩が小さな舌打ちをしながら、澄司さんに近づく。しゃがんでいるのを立たせようとしたのか手を伸ばしたら、バシッと大きな音が出るくらいに佐々木先輩の手を叩いた。
「鍵、見つけました。そこの机の引き出しから――」
クローゼットから私の服を出してくれた妹さんが、傍にあった机の引き出しを開けて見つけてくれたらしい。
「笑美さんを解放されてたまるか!」
聞いたことのない怒気を含んだ声を発した澄司さんが、ふらつきながら立ち上がった。そのまま妹さんに突進しかけたところを、佐々木先輩が羽交い締めにして、行かせないようにする。
「早く松尾の手錠を外してやってくれ!」
「はなせ! 僕にこんなことをしていいと思ってるのか?」
「綾瀬川、誰かに無理やり拘束される気持ちを思い知れ。すごく嫌なことだろう?」
ふたりが言い争いしている間に、妹さんが手際よく手錠を外してくれた。
「今すぐ松尾から降りてくれ、頼むから!」
私の上から澄司さんを降ろそうとしている佐々木先輩。澄司さんは絶対に降りようとせずに、佐々木先輩の両手を掴んだまま放さない。互いの両手で押し合いしている様子は、力が拮抗しているように見えた。
「綾瀬川、好きな女を泣かせて、なにが楽しいんだおまえは!」
押しから一転、ぐいっと澄司さんの腕を引っ張った佐々木先輩が、体勢を崩したところを狙い澄まして頭突きする。
「痛いぃっ!」
澄司さんは額を押さえながら、ベッドから転がり落ちた。
ふたりのやり取りを心配しながら見ていた私に、佐々木先輩は来ていたスーツのジャケットをかけて、みんなの目から隠してくれた。しっかり涙を拭ってから起き上がり、佐々木先輩のジャケットで体を隠しつつ、目の前の様子を眺める。
「悪いが、松尾の服を探してくれないか?」
頬を朱に染めて、私を見ないように首をしっかり横に向けて扉の前に立っている女のコに話しかけた佐々木先輩の顔を、しっかり見つめた。
安心感のため、ふたたび溢れてきた涙のせいで歪んでいたけれど、佐々木先輩を見つめずにはいられない。元彼の登場で怖い思いをしたときも、ここに連れられて目が覚めた瞬間から、逢いたくて逢いたくてたまらなかった。
「わかりました。お兄ちゃん、手錠の鍵はどこなの?」
澄司さんをお兄ちゃんと言った妹さんが、備え付けのクローゼットに近づきながら問いかけた。痛む額を押さえて床にしゃがみ込む澄司さんは、なにも答えようとしない。
佐々木先輩が小さな舌打ちをしながら、澄司さんに近づく。しゃがんでいるのを立たせようとしたのか手を伸ばしたら、バシッと大きな音が出るくらいに佐々木先輩の手を叩いた。
「鍵、見つけました。そこの机の引き出しから――」
クローゼットから私の服を出してくれた妹さんが、傍にあった机の引き出しを開けて見つけてくれたらしい。
「笑美さんを解放されてたまるか!」
聞いたことのない怒気を含んだ声を発した澄司さんが、ふらつきながら立ち上がった。そのまま妹さんに突進しかけたところを、佐々木先輩が羽交い締めにして、行かせないようにする。
「早く松尾の手錠を外してやってくれ!」
「はなせ! 僕にこんなことをしていいと思ってるのか?」
「綾瀬川、誰かに無理やり拘束される気持ちを思い知れ。すごく嫌なことだろう?」
ふたりが言い争いしている間に、妹さんが手際よく手錠を外してくれた。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説


【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる