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うまくいかない日々の果てに――
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「駅までで充分です。ひとりで帰れますので」
両手を使って大丈夫をアピールしてみたのに、澄司さんは首を横に振る。
「これから電車に乗ったら、この人混みの中に、笑美さんを放り出すことになるじゃないですか」
「いつものことなので平気です」
「いいえ。一緒に電車に乗ります」
そう言って無理やり手を繋ぎ、私が乗る方面の改札口まで迷うことなく歩いて行く。
「澄司さんは、私の家をご存知なんですか?」
「車で送るつもりだったので、あらかじめ千田課長に訊ねてました。ナビに登録済みですよ」
(――用意周到というか、さすがだわ……)
「手を放してください」
澄司さんから逃げられないのが嫌というほどわかったので、これ以上の接触を避けるべくお願いしてみた。私を引っ張るように歩いていた澄司さんは、一瞬振り返ったけど、手を放そうとしない。聞こえているくせにそのまま歩くので、抵抗を試みるべく、立ち止まりながら後ろに荷重をかけた。
「おっと! どうしましたか?」
「手を放してください」
「少しでも空いてる車両に、笑美さんをご案内しようとしているだけです。それとも混んでる車両に乗り込んで、僕に抱きしめられたかったとか?」
してやったりな表情の澄司さん。一枚も二枚も上手な彼に文句はおろか、一切の抵抗ができなかったのである。そのことを思い出し、うんざりしながら斎藤ちゃんに愚痴った。
「澄司さんって本当に口が達者で、為す術なく一緒に帰ってきたよ」
「だよねぇ。それに比べて佐々木先輩のポンコツさには、心の底から呆れ果てたわ」
佐々木先輩とポンコツというワードがどうにも違和感しかなくて、考えてもさっぱりわからず、「なんのこと?」と訊ねるのがやっとだった。
「まっつーは佐々木先輩に、備品庫で告白されたんだって?」
斎藤ちゃんが佐々木先輩に付き合った経緯を、根掘り葉掘り聞いたことがセリフからわかった。
「うん。なんでこんなところで告るんだろうなって思った」
「本人は絶好なタイミングだと思ったらしいよ。ロマンがないよねぇ」
電話の向こう側で苦笑いする斎藤ちゃんの表情を想像し、同じように笑う。
「ロマン以前に、佐々木先輩が私のことを好きになったのが、奇跡としか思えないよ」
「佐々木先輩とは頬にキスまでの間柄だというのに、ここにきて顔面偏差値最強男が登場するなんて、まっつーのモテ期はすごいねぇ」
「ぶっ!」
両手を使って大丈夫をアピールしてみたのに、澄司さんは首を横に振る。
「これから電車に乗ったら、この人混みの中に、笑美さんを放り出すことになるじゃないですか」
「いつものことなので平気です」
「いいえ。一緒に電車に乗ります」
そう言って無理やり手を繋ぎ、私が乗る方面の改札口まで迷うことなく歩いて行く。
「澄司さんは、私の家をご存知なんですか?」
「車で送るつもりだったので、あらかじめ千田課長に訊ねてました。ナビに登録済みですよ」
(――用意周到というか、さすがだわ……)
「手を放してください」
澄司さんから逃げられないのが嫌というほどわかったので、これ以上の接触を避けるべくお願いしてみた。私を引っ張るように歩いていた澄司さんは、一瞬振り返ったけど、手を放そうとしない。聞こえているくせにそのまま歩くので、抵抗を試みるべく、立ち止まりながら後ろに荷重をかけた。
「おっと! どうしましたか?」
「手を放してください」
「少しでも空いてる車両に、笑美さんをご案内しようとしているだけです。それとも混んでる車両に乗り込んで、僕に抱きしめられたかったとか?」
してやったりな表情の澄司さん。一枚も二枚も上手な彼に文句はおろか、一切の抵抗ができなかったのである。そのことを思い出し、うんざりしながら斎藤ちゃんに愚痴った。
「澄司さんって本当に口が達者で、為す術なく一緒に帰ってきたよ」
「だよねぇ。それに比べて佐々木先輩のポンコツさには、心の底から呆れ果てたわ」
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「まっつーは佐々木先輩に、備品庫で告白されたんだって?」
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「うん。なんでこんなところで告るんだろうなって思った」
「本人は絶好なタイミングだと思ったらしいよ。ロマンがないよねぇ」
電話の向こう側で苦笑いする斎藤ちゃんの表情を想像し、同じように笑う。
「ロマン以前に、佐々木先輩が私のことを好きになったのが、奇跡としか思えないよ」
「佐々木先輩とは頬にキスまでの間柄だというのに、ここにきて顔面偏差値最強男が登場するなんて、まっつーのモテ期はすごいねぇ」
「ぶっ!」
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