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うまくいかない日々の果てに――
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♡綾瀬川澄司と松尾の帰宅シーンは、澄司目線の応援特典に記載しますので、そちらでお楽しみください!(エブリスタの応援特典かベリーズカフェファン限定公開で連載しています)
***
松尾の友人斎藤は、次の日におこなわれる会議の下準備のため、仕方なく残業していた。あともう少しで終わるという頃に、「斎藤、悪い」なんていう言葉がかけられる。
誰だろうと振り返ったら、自分には声をかけることのない先輩の佐々木が、少しだけ慌てた様子で小さく頭をさげた。
友人の恋人が声をかけてきた時点で、なんのことなのかを素早く察し、作業を中断して佐々木にしっかり向き合う。
「まっつーのことでなにか?」
「ああ。教えてほしいことがあってさ。ここじゃなんだから――」
周囲の目を気にしている感じだったので、ふたりそろってフロアから出て、小会議室に引きこもった。斎藤が扉を閉めた途端に、潔く訊ねた佐々木のセリフは、思いもよらぬものだった。聞き間違いだと、瞬間的に思ったくらいに。
「佐々木先輩すみません。私疲れてるみたいで、よく聞き取れなかったんですよね」
「松尾の携帯番号教えてくれ」
「……はい?」
「だから俺、松尾の携帯番号知らないんだ」
「付き合ってるのに、それっておかしいじゃないですか」
聞き取れる声量で佐々木が理由をハッキリ答えたというのに、斎藤は告げられた言葉が信じられなくて、すぐに教える気にはどうしてもなれなかった。
「松尾に聞くタイミングがとれなかった。原因はそれだけだ」
「タイミングがとれなかったって、じゃあ今まで、どうやって意思の疎通を図っていたんですか? まさか目と目があっただけで、お互いの気持ちが読めるなんていう、ミラクルなことを言わないてくださいよ」
あらかじめ注意を促した斎藤に、佐々木は困惑の表情をありありと滲ませながら一言。
「メモ用紙……」
「はい?」
「メモ用紙でやり取りした」
「ちょっと待ってください。今は令和ですよ、ほかにもいろんな方法というか、デジタルでやり取りするでしょう? どうしてLINEの交換すらしてないんですか?」
「そこまで頭が回らなかった」
「意味がわからない。佐々木先輩、恋愛経験おありですよね。確か元カノは、同期の方でしたっけ」
佐々木の恋愛について、噂話を知っていた斎藤は渋い顔のまま、やっとのことで問いかけた。
「ああ……」
「その当時、LINEの交換したでしょう?」
「今まで自分から、積極的にそういうのをしたことがなかった」
決まり悪そうに言い切った佐々木を見ていて、斎藤はハッとした。
「佐々木先輩もしかしてまた、千田課長に邪魔をされたんじゃ……」
「斎藤はどこまで知ってるんだ?」
自分の言ったことを止めるように口元に手を当てた斎藤は、目の前にいる佐々木を憐みを含んだまなざしで見つめた。
「その……元カノの教育係だった千田先輩が、寝とったということだけ知ってます」
「そうか……」
***
松尾の友人斎藤は、次の日におこなわれる会議の下準備のため、仕方なく残業していた。あともう少しで終わるという頃に、「斎藤、悪い」なんていう言葉がかけられる。
誰だろうと振り返ったら、自分には声をかけることのない先輩の佐々木が、少しだけ慌てた様子で小さく頭をさげた。
友人の恋人が声をかけてきた時点で、なんのことなのかを素早く察し、作業を中断して佐々木にしっかり向き合う。
「まっつーのことでなにか?」
「ああ。教えてほしいことがあってさ。ここじゃなんだから――」
周囲の目を気にしている感じだったので、ふたりそろってフロアから出て、小会議室に引きこもった。斎藤が扉を閉めた途端に、潔く訊ねた佐々木のセリフは、思いもよらぬものだった。聞き間違いだと、瞬間的に思ったくらいに。
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「松尾の携帯番号教えてくれ」
「……はい?」
「だから俺、松尾の携帯番号知らないんだ」
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「タイミングがとれなかったって、じゃあ今まで、どうやって意思の疎通を図っていたんですか? まさか目と目があっただけで、お互いの気持ちが読めるなんていう、ミラクルなことを言わないてくださいよ」
あらかじめ注意を促した斎藤に、佐々木は困惑の表情をありありと滲ませながら一言。
「メモ用紙……」
「はい?」
「メモ用紙でやり取りした」
「ちょっと待ってください。今は令和ですよ、ほかにもいろんな方法というか、デジタルでやり取りするでしょう? どうしてLINEの交換すらしてないんですか?」
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「ああ……」
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